CSTブログ: Lab Expectations

Cell Signaling Technology (CST) の公式ブログでは、実験中に起こると予測される事象や実験のヒント、コツ、情報などを紹介します。

Leica Microsystems社のマルチプレックスイメージングソリューションCell DIVE用に検証されたCST®抗体

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専門家が結集し、新しい方法で課題を解決するための技術やツールを協力して作り出すことにより、真の革新が生まれます。ツールと才能の組み合わせがもたらした進歩の一例として、空間生物学の革命が挙げられます。2020年のNature誌で「Method of the Year」に選ばれた空間生物学は、「マイクロアレイやイメージング、シーケンシング、およびバイオインフォマティクス解析の概念と技術」を組み合わせた技術であり、組織内の細胞のデータと配置を解析することができます。急速に発展している分野であり、空間プロテオミクス研究を加速するために、新たなツールや技術、手法などが開発され続けています。 

そのため、弊社はLeica Microsystems (LMS) 社とマルチプレックスイメージングソリューションCell DIVE用の検証済み抗体に関するパートナーシップを締結したことを大変嬉しく思います。本提携は、CSTの抗体の専門家とLMS社のイメージングの専門家の共同作業により、研究プロセスの中で最も時間やコスト、労力のかかる手順のうちの1つである「抗体パネルの検証」を省くことを可能とし、科学者による空間生物学研究の加速を支援します。 

また、本パートナーシップの一環として、ここ数か月間、弊社の抗体標識グループのリーダーであるReggie Prioli博士とCSTの科学者であるEmily Alonzo博士およびLisa Arvidsonは、LMS社の科学者であるMelinda Hill博士と協力して、がん研究に不可欠な30種類の抗体を特定・検証しました。これらの抗体は、すでにLMS社によりCell DIVEへの使用が検証済みの75種類のCST抗体に追加されます。  

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本ブログでは、このパートナーシップの詳細や、チームによる抗体の選択と検証のプロセス、今後の展望を紹介します。

Cell DIVEを用いた空間生物学研究:60種類以上のバイオマーカーのマルチプレックス解析

Cell DIVEのような強力な新しいイメージング・計算ツールは、正常および疾患状態の細胞の空間的な解析が可能です。これは、疾患の生物学的基盤をさらに解明し、ある患者では奏効する治療がなぜ他の患者では効果が得られないのかといった重要な問題を解決するのに役立ちます。 

Cell DIVE_Multiplexing Landscape Infographic_Leica_22-BPA-51810_social

「 (しかしながら、) 組織イメージングの従来のアプローチは、反復的な連続するプロセスで構成されています。」と、LMS社のCell DIVE Sales SpecialistであるRick Heil-Chapdelaine氏は解説します。「より多くのマーカーの情報を得るには、1つのサンプルから作成される複数の組織切片を用いる必要があります。しかし、各切片に含まれる細胞は異なるため、最終的に細胞の近傍の理解が得られますが、個々の細胞についての情報は得られません。」 

一方、Cell DIVEはバイオマーカーの染色やサンプルのイメージング、化学色素の緩やかな不活性化プロセスなどの反復的な技術を使用して、1つの組織サンプルで60種類以上のバイオマーカーをマルチプレックスイメージングすることができます。抗体と蛍光色素を電球に例えるならば、色素の不活性化プロセスは、研究者がイメージング後に電気を消すようなものであり、電球自体はそこに残ったままとなります。組織サンプルに悪影響を与えることなく、さらに電球を追加してイメージングを行い、終わったら電気を消すことができます (図1)。

Cell DIVE Overview_22-BPA-51810

図1:Cell DIVEの反復的なマルチプレックスのプロセス。画像はLeica Microsystems社からご提供いただきました。

「Cell DIVEは、1つのサンプル上で染色して色素の不活性化、染色して色素の不活性化、染色して色素の不活性化という反復的なプロセスを行い、下流の統計解析に用いるための重ね合わせた明瞭な画像を取得することができます。」と、Rick氏が説明します。このプロセスを図2に示します。

Multiplexing Landscape Infographic_Leica_22-BPA-51810_V3図2:マルチプレックスイメージングソリューションCell DIVEは、自動キャリブレーションと補正により確実な下流の解析を可能とする、60種類以上のバイオマーカーを用いた組織全体の明瞭な画像を作成できます。上図は、各ラウンドにつき4種類のバイオマーカーで染色した6つのイメージングラウンド (中央) と、これらを重ね合わせて作成した最終的に24種類のバイオマーカーの染色像を含む画像 (右) を示しています。画像はLeica Microsystems社からご提供いただきました。

Cell DIVEの最も独特な点は、イメージング後にスライドを保管し、数か月または数年後にバイオマーカーを追加して再染色できることです。

「スライドを保存しておき、研究中の仮説が発展した時、または同じ組織サンプルをさらに研究するための新たなバイオマーカー標的が現れた時に、そのスライドを再利用できます。」と、Melinda博士は解説します。「すでに試験したすべてのバイオマーカーを再染色するのではなく、元のスライドに追加のバイオマーカーを重ねれば、元のスライドからより多くのデータを得ることができます。これにより発見までの道のりが短くなり、時間とコストを削減できます。」

しかし、Cell DIVEは抗体の選択とカスタム抗体パネルの設計に柔軟性がありますが、デバイス上で用いる抗体は特異性と感度に加え、機器との適合性についても検証しておく必要があります。 

「抗体は、まさしくCell DIVEのプロセスの核となるものです。」と、Rick氏は述べます。「また、特異性と感度について、Cell DIVEシステムで機能するのに十分な品質をもつ抗体を用いることが、信頼性の高い下流の解析を行うための鍵となります。」

信頼性の高いマルチプレックス技術:Cell DIVE用の抗体の選択と検証

科学界にまん延する再現性の問題が示すように、研究者は実験に用いる抗体の選択および検証をより慎重に行う必要があります。LMS社は、約2,000種類の市販抗体を試験しましたが、そのうちCell DIVEでの使用に適しているのは350種類のみでした。つまり、およそ3抗体のうち2抗体が、感度や特異性、もしくはこの両方において不十分であると判断されました。さらに、検証済み抗体のうち、メーカーから市販の標識抗体として入手可能なものはわずか10%ほどであるため、研究者はCell DIVEで用いる抗体を自身で標識する必要があります。 

「検証済み抗体がこれほど少ない理由は、各メーカーが提供する抗体の大半に品質の大きなばらつきがみられるためです。」と、Melinda博士は解説します。「だからこそ高品質の抗体が不可欠であり、弊社が本提携を非常に喜ばしく思う理由はそこにあります。CSTは、高品質の検証済み抗体を提供するリーダー企業であり、IHCやFFPEで機能することが検証されているCST抗体は、ほぼ必ずCell DIVEでも機能することがわかっています。」  

残る課題は、標識だけです。Cell DIVEで機能する抗体は、機器で行われる反復プロセスを可能にするため、蛍光色素で標識できるものである必要があります。Cell DIVE撮影装置で上手く撮影するには、抗体の濃度と同様に標識度 (DOL) も重要であり、どちらも最適化が必要です。したがって、イメージングを成功させるには、標識の専門家が作製した市販の標識抗体を用いることが不可欠です。 

では、CST抗体はマルチプレックスイメージングソリューションCell DIVE用として、どのように選択・検証されているのでしょうか? 

抗体の選択 

LMS社とCSTがパートナーシップを締結した当初、チームは空間生物学研究での有用性や特定の病態に対する適用性、抗体がシステム上で機能する可能性に基づいて、抗体に優先順位を付けました。 

「組織内で空間生物学の解析を行う際に、確認すべき抗体マーカーには3種類あります。1つは細胞の位置を示すもの、もう1つは細胞の種類を示すもの、最後に細胞が何をしているかを示すものです。」と、Rick氏が解説します。「それらを確認した後、『特定の反応に影響を与えている、その近傍にあるものは何か?』といった空間的な情報について調べることができるようになります。」 

チームの最初の抗体リストには、これらの一般的なルールに従い、表現型解析や分画に用いられる抗体、特に腫瘍形成時や治療への応答中に進化するがん微小環境 (TME) の理解に役立つがんマーカーが含まれていました。骨髄細胞およびリンパ細胞の系譜と構造の調査に用いられる免疫細胞マーカー、およびVimentinやKi-67、TIM-3、CD45などのTME内の重要なタンパク質を検出するために用いられる免疫細胞マーカーが優先されました。CST®の標識抗体またはカスタム標識抗体として入手可能な抗体も優先されました。

最終リストには、約30種類のCST抗体が含まれています。

抗体検証

抗体を検証するために、チームはCell DIVEで撮影した組織全体または組織マイクロアレイ (TMA) スライドの両方を含む、12種類の異なるヒトがん組織におけるバイオマーカーの発現を評価しました。検証試験では、TME内における腫瘍および免疫細胞系譜の発現に着目し、それらの空間的関連性を捉えました。

Multiplexed imaging of CST antibody panels_Cell DIVE_22-BPA-51810_fig3_web図3:CST抗体パネルを用いたマルチプレックスイメージングにより、1枚のスライドで結腸腺がん (CAC) 組織中の免疫細胞の構成を調べることができます。

色素の不活性化後も親和性が保たれているかを確認するために、異なる10種類のラウンドで試験しました。各バイオマーカー抗体を標識し、最適化することなく無作為に染色ラウンドに適用しました。各ステップの後、文献との比較や相互の比較を行い、抗体の特異性や感度を評価しました。 

得られたデータパネルにより、様々な免疫クラス、細胞タイプ、サブタイプを特定し、TME内の他の細胞集団内における免疫細胞集団についてや、細胞の空間的な相互作用に関する、これまでにない新たな知見を得ることができました。 

Cluster analysis_Cell DIVE_UMAP_22-BPA-51810_fig4_web図4:区画化後に行なった30種類のバイオマーカーを用いたクラスター解析により、組織内の免疫細胞の特定、およびそれらの細胞とその他の免疫細胞または細胞集団との関連性が明らかになりました (UMAP:Uniform Manifold Approximation and Projection)。

「これまでの検証の不適合率を考えると、3抗体のうち1抗体、つまり最初のリストに含まれていた35種類のうち10-12種類は適合するだろうと考えていました。」と、Melinda博士が述べます。「その予測に反し、35種類のうち33種類もの抗体がCell DIVEで機能しました。これは、CST抗体と標識抗体が高品質であることを実証する結果です。」

最終的なプロジェクトの詳細は、2022年に開催されたSociety for Immunotherapy of Cancer (SITC) の年次大会で発表したポスター「Capturing the Spatial Landscape of Tumor and Immune Cell Lineages in the Microenvironment of Human Cancer Tissues」にまとめています。

ポスターを見る

LMS社とCSTによる検証済み ー お客様が検証する必要はありません

本パートナーシップの締結により、LMS社とCSTによるチームは、マルチプレックスイメージング用の抗体選択にかかる手間を減らし、研究者の貴重な時間と労力を軽減することができると期待しています。 

「弊社がお客様に対し、抗体標識のプロセスについてどう思うかを尋ねたところ、非常に興味深い反応が返ってきました。」と、Rick氏は述べます。「最も多かった回答は『時間がかかる』や『複雑』であったため、多くの科学者がそれほどこの作業が好きではないことがわかりました。」

LMS社の顕微鏡とイメージングの専門家とCSTの抗体の専門家による今回の共同作業は、研究者に対し空間生物学の研究を行うための適切なツールを提供するだけでなく、そのツールが機能するという信頼性を提供することができます。これにより、研究者は疾患の発症機序を探索するための新しい方法を開発するという、彼らが得意とすることにより時間を費やすことができるのです。

「この作業が、研究者の役に立ち、彼らの負担を軽減できることを大変喜ばしく思います。」と、CSTの科学者であるEmily Alonzo博士が述べます。「これにより、研究者はより迅速に本当の実験に取りかかることができ、本当に興味があるデータを得ることができるのです。」 

今後も継続的なパートナーシップの一環として、Cell DIVE用にさらなる抗体の検証を続けていきますので、最新情報を楽しみにしていてください。

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追加リソース:

Alexandra Foley
Alexandra Foley
Alexandraは、CSTのサイエンティフィックマーケティングライターであり、Lab Expectationのエディターです。

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