人脈作りや自己PRは、科学者のキャリアにとって不可欠なものですが、多くの人が難しいと感じるかもしれません。しかし、人脈作りのプロセスを少し簡単にできるコツやスキルがあります1。人脈を構築する最も重要な方法の1つに「エレベーターピッチ」があります。これは、聞き手の科学者が理解できるように、実行中の研究プロジェクトまたは自身が持つスキルを、短く簡潔にまとめて紹介する方法です。本ブログでは、効果的なエレベーターピッチの作成方法や、ますますオンライン化が進む世界にエレベーターピッチを適合させるために役立つコツを紹介します。
エレベーターピッチが必要な理由
新たな仕事を探したり、共同研究のパートナーや資金調達先を探したりする際に、エレベーターピッチを事前に作成しておくと、人脈の構築が少し楽になります。 一般的に、準備しておくべきエレベーターピッチには二種類あります。1つは研究者としての自身の専門分野とスキルに関するものであり、もう1つは、現在行っている研究プロジェクトに関するものです。 いつでも使えるようにピッチを用意することにより、学会での出会いを実りのある持続的なつながりに変えることができます。
初対面の人と会うときは、関連する専門知識や科学的背景を確認することにより、円滑なコミュニケーションを図り、会話中の混乱を回避できます。自身の仕事と研究者としてのスキルの両方を紹介する文章を事前にいくつか作成しておくと、落ち着きと高いプロ意識をもち、緊張せずに効果的なコミュニケーションを図れます。
効果的なピッチの作成
ピッチは、本質的には自身と自身の研究に関する名刺と同じ働きを持ちます。経歴書のように、聞き手の注意を引き、さらに詳しくあなたと話がしたいと思わせる内容をピッチに盛り込みます2。
通常、研究内容や科学者としての経歴についてのハイレベルで興味深いエレベーターピッチには1 - 2分間で十分です。聞き手の関心を失わないように、できる限り短くする必要があります。
ピッチを成功させるには、オンラインであっても対面であっても、「簡潔、明瞭、誠実」であることが重要です。本ブログの以降のセクションに記載した例を用いて、エレベーターピッチを使う可能性がある様々な状況を想定しながら、ピッチをいくつか作成してみてください。
実際にピッチを書き出し、それを声に出して練習することが重要です。これにより、重要点を記憶に留め、簡潔さを増し、本番で緊張せずに済みます。
自己紹介
実際に誰かと話す機会ができたら、まずは自己紹介します。自分の名前や勤務先、職業を伝えます。自己紹介により、相手に会話に必要な情報を与えます。これは、初めて会う場合でも、以前に会ったことがある場合でも重要なことであり、聞き手に対し良い印象を与えることができます。すべての人が顔と名前を記憶しているわけではないので、相手があなたを覚えていなくても落ち込まないでください。
人脈の構築
エレベーターピッチは、偶然の出会いや、より公式な発表・事前の打ち合わせなどといった様々な場面で役に立ちます。どのような形式であっても、伝えたい内容を明確にすることが重要です。あなた自身が、相手の仕事についてある程度知識がある場合や、会話から何を得たいかがある程度決まっている場合もあるかもしれません。事前準備の時間が多ければ多いほど、どのようにピッチを調整するのが最良かを考えることができます。
自分の話をしたい人が多いというのは良く知られた現象であるため、他の科学者の仕事に関心を示すのは会話を弾ませる良い方法です3。ただし、不誠実だと思われないように気をつけてください。経験を積んでいる科学者や研究者は、自分の書いた論文や研究についてお世辞を言われることに慣れています。具体的な意見を述べるか、本題にすぐに入るべきです。例えば、仕事を探している、共同研究先や資金提供先としての可能性に興味がある、彼らの研究についてもっと知りたい、などの内容を伝えます。
会話の際には、専門用語を使いすぎず、専門的で詳細な内容になりすぎないようにします4。聞き手が、自身の専門分野や研究プロジェクトにどの程度慣れているかを推測し、それに応じて会話のレベルを調整する必要があります。自身が研究分野に精通していることを示すのは重要ですが、聞き手がついていけない話をしたり、混乱を招いたりしてはいけません。準備したピッチに、略語について説明する、不必要な詳細を控えるなどの簡単な変更を加えて、聞き手の関心を確実に引きつけます。
会話中に質問の余地を残すことは、良い話術であり、聞き手の関心を測る良い方法です。
次に、自身の価値を紹介します。持っているスキル何でしょうか?どのような結果を出すことができるのでしょうか?
自身の研究を紹介する際は、魅力的に映るようにわかりやすく自分の研究を説明する必要があります。相手がプロジェクトの側面について質問できる余地を残し、細部に至るまでを説明する必要はないと考えてください。どのような科学的問題に関心を持っているのか、あるいはどのような方法を用いているのかを、聞き手が感じ取れるような、一般的な情報を十分に提供し、相手との関係を築くきっかけになるようにします。
最後に、会話の主導権を相手に渡し、質問を投げかけ、相手が自分自身について話す機会を提供します。うまくいけば、実りのある話し合いに発展しますが、もしうまくいかなくてもがっかりする必要はありません。
つながりを維持
つながりが作れたら、次のステップを明確にして、そのつながりを維持する必要があります。後日、フォローアップのメールを送るなどといった「実際に行動する」ことを伝えて、会話を印象的に締めくくることが理想的です。相手の行動を待つのではなく、自分が主導権を握るように行動すると良い結果が得られます。
効果的なピッチを作成する方法例を下に示します。
はじめに |
初めまして、山田花子と申します。〇〇大学のポスドクです。よろしくお願いいたします。 |
相手とのつながりを確立 |
私は「〇〇」の分野を専門としています。昨日、先生の論文を拝読しました。Xを実証するために行われた実験がとても素晴らしいと感じました。Yについて調べることは考えたことがありますか?またはすでにご研究中ですか? |
意図を説明 |
Zを解き明かすために、類似の実験を行いたいと考えています。先生ご自身、または先生の研究室は、本プロジェクトを共同で行うことにご関心はおありでしょうか? |
ディスカッション |
[...] |
情報交換とフォローアップ |
ありがとうございます。私の最近の論文と、さらに詳細を話し合うためのミーティング日時の調整について、後ほどメールにて連絡させていただきます。また近いうちにお話しができることを楽しみにしています。 |
オンラインの機会を探索する
インターネットとSNSは、科学者が人脈を構築するための新たな機会を提供しています。また、新型コロナウイルスのパンデミックが、オンライン会議と面接の機会が増えるきっかけとなりました5 。全く知らない人にネット上でアプローチする場合は、完璧なピッチを行うことがさらに重要です。Zoomのライブ通話やソーシャルメディア上のメッセージ、ダイレクトメッセージなどで売り込む際に、聞き手 (受け取る人) の注意をひく必要があります。
オンライン会議により、多くの人脈の構築の機会が得られますが、対面会議と同様の注意と準備が必要です6。Zoom などのビデオ会議ソフトを使用して他の参加者と話す場合は、コミュニケーショ ンの取り方に注意する必要があります7。相手が反応する時間を与えるために休止するようにします。また、通信の遅れにより会話のテンポが影響を受ける可能性もあることに留意します。また、技術的な問題が発生した場合に、自身で事態の収拾を図れるように、利用する技術に精通しておくことも重要です。
まとめ
履歴書や経歴書と同様に、最新のエレベーターピッチを用意しておけば、予期せぬ出会いを貴重なチャンスに変えることができます。冷静で落ち着きのある、統制されたピッチにより、良い印象を与えることができます。また、適切なレベルの言葉を使うことは、聞き手を認識し、考慮していること示すことができます。洗練されているように見えるかどうかを心配する必要はありません。自分自身や、研究について明確に、自信を持って伝えることに集中すれば、より印象深いものになります。
相手と話す機会を楽しむことを忘れないでください。相手は自身と同じ分野の専門家であるか、同じ興味を持つ人であることが多いはずです。その熱意や興味を自由自在にアピールできれば、ピッチが楽しい会話につながることにすぐに気づけると思います。
参考文献
- Pain, E. How to network effectively. Science. October 27, 2015.
- How can you make your application stand out? Imperial College Business School. January 8, 2023.
- Ward, AF. The Neuroscience of Everyone's Favourite Topic. Scientific American. July 16, 2013.
- Pamplona, F. Science communication: Everything you need to know about it to thrive. editage insights. May 20,2022. Accessed August 2023.
- Valenti, A. Fortuna, G. Barillari, C. Cannone, E. Boccuni, V. Lavicoli, S. The future of scientific conferences in the era of the COVID-19 pandemic: Critical analysis and future perspectives. Industrial Health. 2021;59:334-339.
- 10 Top tips for attending a virtual conference. Scientifica.
- Daley, K. How to communicate effectively over Zoom. Ledding Group. September 15, 2021.
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