代謝の測定には、様々な状況に応じていくつかのアッセイを使用することができます。この中には、代謝速度を直接測定する方法だけでなく、低酸素状態や酸化ストレスなど、正常状態と病態において代謝に直接影響するシグナル伝達経路や環境要因を調べる方法もあります。
低酸素状態と酸化ストレスの評価に用いるバイオマーカーとアッセイ
低酸素と酸化ストレスは、細胞代謝の変化の原因であると同時に結果でもあります。Cell Signaling Technologyは、低酸素と酸化ストレスにおける主要なバイオマーカーの研究に使用可能な抗体を提供しています。CSTが提供する低酸素のシグナル伝達インタラクティブパスウェイ図から、関連する製品に直接アクセスできます。
- 細胞の低酸素応答経路のマスター制御因子である転写因子HIF-1αの発現は、低酸素環境に応答して著しく増加します。HIF1に対するCST抗体は、ウェスタンブロッティングやELISAなどのを様々なアッセイに用いてこの変化を調べることができます。HIF-1αの発現が増加することで、細胞や組織などのモデルシステムが低酸素状態にさらされている可能性があることが分かります。
- 転写因子であるHIF-1αは、広範囲の下流の標的の発現を活性化します。HIF-1αレベルとこれらの標的を併せて調べることで、低酸素状態と酸化ストレスに関する進行中の細胞プロセスを確認することができます。
ミトコンドリア呼吸の測定
ミトコンドリアは、細胞機能を支える主要なエネルギー工場となる細胞小器官です。ミトコンドリア内膜の呼吸鎖を通して中間産物の電子の受け渡しをすることで、TCA回路の代謝産物からATPが合成されます。ミトコンドリア呼吸を調べるアッセイで、細胞の代謝活性を直接読み取ることができます。
- ミトコンドリアの呼吸と機能は、ミトコンドリア活性の主要なバイオマーカーの測定により調べることができます。これにはSDHAやCOX1があり、CSTはTricarboxylic Acid Cycle Antibody Sampler Kitも提供しています。
ミトコンドリアの完全性の測定
ミトコンドリア完全性は、細胞エネルギーの制御やアポトーシスの制御に不可欠です。
- ミトコンドリアの完全性は、Mitochondrial Membrane Potential Assay Kit (II) に含まれる抗体を用いるか、アポトーシスの開始時にミトコンドリアから細胞質に放出されるシトクロムcなどのバイオマーカーを調べることで測定することができます。
アミノ酸代謝の測定
アミノ酸は細胞タンパク質の構成要素であり、細胞プロセスを促進する主要な栄養素でもります。例えば、グルタミンは急速に増殖する細胞のATP需要を満たすための重要な代謝燃料です。グルタミン代謝のCSTインタラクティブパスウェイから、GLS、IDH1、IDH2などの重要な酵素を含む、アミノ酸代謝の研究に利用できるCST製品に直接アクセスできます。
mTOR活性の測定
mTOR (mechanistic target of rapamycin) はセリン/スレオニンキナーゼであり、細胞の増殖と代謝のマスター制御因子です。mTORは、細胞外の増殖因子やサイトカインからのシグナルを統合します。また、栄養素のセンサーとして働き、細胞の分裂、生存、増殖や、タンパク質の翻訳など、複数の細胞プロセスに影響を及ぼします。mTORは、mTORC1とmTORC2と呼ばれる2つの異なるシグナル伝達複合体として存在し、主にPI3K/AKT、ERK1/2、AMPK経路を介してシグナルの入力を受け取ります。mTORC1の主な下流にはp70/S6Kや4E-BP1/2などがあり、一方mTORC2はSGK1、PKCa、AKTを介してシグナルを伝達します。これらのmTORシグナル伝達の構成因子は、CSTが提供するmTOR Substrates Sampler Kitを用いて調べることができます。このキットには次の標的に対する抗体が含まれています。
抗体の標的 |
説明 |
セリン/スレオニンキナーゼです。 |
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mTORC1下流のエフェクターで、Thr389はキナーゼ活性に相関します。 |
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mTORC1下流のエフェクターで、Ser371はキナーゼ活性に相関します。 |
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mTORC1の下流のエフェクターであり、キャップ依存的な翻訳を阻害します。Thr37/46からmTOR活性を読み取れます。 |
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mTORのSer2448は、PI3K/AKTの活性化を介してリン酸化されます。 |
AMPK活性の評価:代謝のマスター制御因子
AMPK (AMP-activated protein kinase) は、細胞エネルギーの恒常性維持のマスター制御因子であり、糖代謝と脂質代謝の両方を調節します。AMPKは、下流の標的をリン酸化することにより、糖代謝 (PFKFB3、GYS1など)、脂質代謝 (HMGR、ACC1、PLD1など)、転写 (HDAC4/5/7、p300、Srebp1など)、細胞増殖やオートファジー (Raptor、ULK1、Becilin-1など) を制御します。AMPK substrate sampler kitを用いてAMPKシグナル伝達の構成因子を調べることができます。このキットには、以下の標的に対する抗体が含まれています。
抗体標的 |
説明 |
セリン/スレオニンキナーゼです。 |
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セリン/スレオニンキナーゼで、活性化にはThr172のリン酸化が必須です。 |
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AMPK下流のエフェクターで、セリン/スレオニンキナーゼです。オートファジーに関与します。 |
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AMPKによるULK1のSer555のリン酸化が、飢餓によるオートファジー、低栄養状態での細胞生存、ミトコンドリアの恒常性維持に重要です。 |
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AMPKの基質で、mTORC1の構成成分です。 |
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AMPKによりSer 792がリン酸化され、mTORC1が阻害されます。 |
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AMPK下流のエフェクターで、オートファジーに関与します。 |
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ヒトの場合Ser 93 がAMPKによりリン酸化され、オートファジーを誘導します。ラットではSer 91がこれに対応します。 |
ワールブルグ効果の測定
ワールブルク効果は、多くのがんにみられる特性であり、がん細胞の増殖や生存を促進します。がん細胞は酸素の存在下であっても、効率的で一般的に利用される酸化的リン酸化経路ではなく、解糖による代謝を好む傾向があります。ワールブルク効果にはPI3K/AKTやRASの活性化など、いくつかのシグナル伝達経路が関与します。また、PKM2 (Pyruvate Kinase isoenzyme M2) の二量体型がワールブルク効果の中心的な役割を果たしていると考えられています。ワールブルク効果の特徴の1つに、乳酸の産生量の増加が挙げられます。CSTが提供するワールブルク効果パスウェイ図では、ワールブルク効果に関与する主要な構成因子と、その発現や活性を調べるための製品に直接アクセスできます。
インスリン受容体 (IR) シグナル伝達の評価
Insulinは糖代謝や脂質代謝などの細胞のエネルギー機能を制御する主要なホルモンで、インスリン受容体チロシンキナーゼに結合して活性化することで作用します。受容体の活性化によってアダプタータンパク質IRSファミリーがリクルートされ、主にPI3K/AKT経路とERK1/2経路を介して下流を活性化し、多くの細胞プロセスに影響を及ぼします。Insulin Receptor Substrate Sampler Kitを用いることで、インスリン受容体シグナル伝達の構成因子を調べることができます。このキットには次の標的に対する抗体が含まれています。
抗体/標的 |
説明 |
インスリン受容体シグナル伝達のアダプタータンパク質です。 |
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JNKおよびIKKによりSer 307がリン酸化されます。 |
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mTOR経路のPKCが、Ser 612のリン酸化を媒介します |
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mTORC1下流のエフェクターで、キャップ依存的な翻訳を阻害します。Thr37/46からmTOR活性の読み取れます。 |
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インスリン受容体シグナル伝達のアダプタータンパク質です。 |
その他、化学物質に基づく代謝測定のアッセイ
細胞内の主要な代謝プロセスのレベルや活性の測定法には、さらにいくつかの方法があります。次にその例を挙げます。
- NAD+/NADH、NADP+/NADPHなど酸化補因子の検出。通常マイクロプレート上で細胞抽出物の比色分析をします。
- メチル化サイクルの中心的な構成因子であるS-アデノシルメチオニンやS-アデノシルホモシステインの定量。細胞ライセートのHPLCや比色分析を行います。
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