CSTの研究室で使用頻度が高く、ストックを大量に保管している抗体があります。それはS6 Ribosomal Protein (5G10) Rabbit mAb #2217で、その抗原特異性から非常に便利に活用することができます。本記事では、サンプルの品質や免疫蛍光染色 (IF) 実験が適切に行われたことを示す指標として5G10を活用する方法を紹介します。5G10を活用することで、可能な限り最高品質のデータと画像を得ることができます。本記事が、皆様の研究室で得られるデータの信頼性向上に役立てば幸いです。
5G10の抗原は、アルデヒド感受性のリジン残基に富んだ特徴的な構造をしています。このため、この抗体の結合はホルムアルデヒドによる固定に感受性となります。社内試験で、この性質はホルムアルデヒド固定したサンプルでみられ、ホルマリン固定したパラフィン包埋サンプルではみられないことが分かっています (恐らく、ホルマリン固定したパラフィン包埋サンプルは抗原の賦活化を行うためであると考えられます)。また、社内試験で5G10はサンプルを4%ホルムアルデヒドで5-30分間固定した場合のみに機能することが分かっています。下の図に示したように、固定が不十分な場合も、過剰な場合も十分なシグナルが得られません。5G10がS6を染色できないということは、サンプルの固定が不十分であったか、過剰であったことを示します。サンプルの固定が不適切な場合は、他の抗体を用いて染色した場合も最適な結果が得られない可能性があります。
これは特に、組織を染色する場合に有用です。臓器ごとに固定の速度が異なるということは、同一バッチで固定した場合、臓器ごとに固定の程度に差が出ることになります。これは文献 (1) で「浸透と固定のパラドックス」と呼ばれています。CSTは通常、齧歯類モデルを用いる場合は灌流固定を行っています。この方法は、浸漬固定よりはるかに速やかに固定できますが、適切に行わないとホルムアルデヒドの浸透にばらつきが生じることがあります。組織全体を通して5G10で陽性に染色されたことを確認することで、サンプルが適切に固定されたことが分かります。下の図では、2つの異なる肝臓から作成した切片で、S6のシグナルが異なっています。右図では、弱く散在したS6シグナルしかみられず、固定の状態が適切な範囲に収まっていないため、IF染色に用いるのを避けるべきです。左図では、期待されるS6のシグナルがみられ、適切に固定されていると考えられるため、この組織は染色に十分な品質であることが分かります。
5G10にはもう1つ隠れた活用法があります!この抗体のシグナル強度が低い場合、固定が不適切である可能性のほか、バッファーのpHが不適切である可能性もあります。見逃されがちですが、バッファー調製はIF実験の結果を左右する重要な要素です。下の実験では、バッファーのpHを下げることで5G10のシグナル強度が低下することを示しています。固定状態への感受性も相まって、この抗体は染色プロセスを評価するための、優れたオールラウンドなコントロールとなります。
本記事では、固定や染色プロセスが適切であることを確認するための指標としてS6 Ribosomal Protein (5G10) Rabbit mAb #2217を活用する方法を紹介しました。CSTのIFグループは最高品質のデータを得るための取り組みを進めています。CSTの全ての免疫蛍光染色実験で、5G10をコントロールとして使用することが、サンプルの固定や染色プロトコールの問題点を特定するためのステップとなります。今後の実験で5G10を是非お役立てください。
(1) Thavarajah, Rooban et al. “Chemical and physical basics of routine formaldehyde fixation.”Journal of oral and maxillofacial pathology : JOMFP vol. 16,3 (2012): 400-5. doi:10.4103/0973-029X.102496