低酸素は、生物学的環境における酸素の欠乏と定義され、細胞ストレスを引き起こし、正常な代謝活動を変化させます。低酸素は、活性酸素種 (ROS:Reactive oxygen species) の蓄積の増加を引き起こし、酸化ストレスの発生を誘導することにより、様々な細胞成分に有害な影響を与えます。細胞は、低酸素の条件下では、全体的な代謝活性を抑制する細胞内シグナル伝達のメカニズムを適応させて、細胞が生存および回復できるようにしています。
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低酸素は、多くの固形がんに共通する特徴です。がんの増殖が血液の供給を上回っているがん組織では、周囲の正常組織と比較して著しく酸素濃度が低くなっています。
低酸素とは?
病態生理学上の低酸素とは、細胞のO2 (酸素) 消費量と血流の不均衡により、O2が欠乏している状態を指します。低酸素では電子伝達系の最終的な電子受容体である酸素分子が不足するため、活性酸素種 (ROS) の産生が増加します。この酸化ストレスにより、ROSの産生と細胞の抗酸化防御のバランスが崩れ、脂質やタンパク質、DNAが損傷される可能性があります。
細胞は、低酸素応答に特化した経路を活性化して、低酸素に適応します。これらの経路は、代謝活性を抑制することで生体エネルギー産生機構の過剰な活性を防ぎます。HIF-1 (Hypoxia-inducible factor-1) は、低酸素応答の主要な調節因子として機能する転写因子であり、電子伝達系の活性を抑制することで、タンパク質の翻訳およびNa-K-ATPaseの活性を抑制します。
未処理 (左) または塩化コバルト処理 (500 μM、24時間、右) したHep G2細胞を、HIF-1α (D1S7W) XP® Rabbit mAb #36169 (緑) を用いて免疫蛍光染色し、解析しました。CoCl₂処理した細胞内では、HIF-1αが核に蓄積しており、低酸素経路が活性化していることが分かります。DyLight™ 554 Phalloidin #13054 (赤) を用いてアクチンフィラメントを染色しています。
活性酸素種とは?
ROSは、酸素分子に由来する反応性の高いフリーラジカルです。ROSは、ミトコンドリアの電子伝達系におけるATP産生時に作られる正常な副産物であり、細胞のシグナル伝達や恒常性において重要な役割を担います。
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関連ずるCST抗体製品を含む低酸素シグナル伝達のインタラクティブパスウェイ図をご覧ください。 |
正常細胞では、カタラーゼやグルタチオン、スーパーオキシドジスムターゼ (SOD) などの細胞内抗酸化システムによりROSの毒性を抑制します。低酸素などのストレスに晒された細胞では、ROSが蓄積し、酸化ストレスが誘導されます。
過剰なROSの蓄積はDNA、RNAへの損傷やアミノ酸の酸化、脂質の過酸化、酸化による酵素の不活化など、細胞成分に有害な影響を与えます。