Journal Club: YAP-dependent reprogramming of Lgr5+ stem cells drives intestinal regeneration and cancer.
今回は2015年10月29日付けのNature誌に掲載された、カナダのオンタリオ州にあるLunenfeld Tanenbaum Research Instituteとトロント大学のGregorieff氏ら.の論文をご紹介します。この論文「YAP-dependent reprogramming of Lgr5+ stem cells drives intestinal regeneration and cancer」は、成体哺乳類の中で最も迅速に自己再生する組織である腸上皮内の幹細胞の動態に注目しています。
自己再生、細胞の成長や再生など根本的な生物学上の現象を考えるとき、様々なシグナル伝達ノードが頭に浮かびます。Wntシグナル伝達とHippo経路がその例です。Wntシグナル伝達は、恒常的に腸幹細胞 (ISCs) の自己再生を促進することが知られていますが、外傷や組織損傷の状況下では何がISC機能を制御しているのかはっきり分かっていません。この論文は、Hippo経路の大きな役割を裏付けるエビデンスを示しています。
この研究の結果は転写共役因子かつHippo腫瘍抑制経路の下流エフェクターであるYAP (Yes-associated protein) が、電離放射線照射 (IR) への暴露後の再生中、機能性のあるISCのプールの維持に重要な役割を果たしているという主張を裏付けています。
オルガノイドが、幹細胞媒介による腸上皮の形態形成を反復させるex vivoモデルシステムとして使われています。これにはLgr5+幹細胞、その分化した娘細胞およびその他の腸絨毛を構成する特化した細胞の種類 (パネート細胞など) から成り立つ腸陰窩の形成が含まれます。
ISC再生の制御にHippo経路が関わっているという最初のエビデンスは、YAP不在下における照射した腸陰窩の調査を中心としており、YAP欠損ex vivoオルガノイド内の陰窩の増殖が顕著に抑制されてることを明らかにしています。これにより著者らは、YAPは照射誘導によるISC再生を促進するだけでなく、陰窩再生中にWNTシグナル伝達を一過的に抑制することにより、パネート細胞への過剰な分化を強く抑制することを示しました。YAPは、通常ならこの成長の維持に関与しているこのまったく同じタンパク質リガンド (Wnt) を抑制することにより、陰窩内の幹細胞成長を復元しているように見えるため、この現象は多少逆説的です。これによりYAPがWnt応答を下方調節する能力を発揮する状況が、機能性のある幹細胞集団を維持する能力とは分離していることが分かります。
著者らは、YAPを起因とする再生プログラムが意図なく腸腫瘍形成に寄与するかどうかを調べることにより、この生物学的逆説を理解しようとしました。
この考え方を確かめるため、既知のWntシグナル伝達に関与する腫瘍抑制因子Apcの喪失によって促進される、マウスモデルの腸がんを用いました。ApcMinマウス (Minとは多発性腸腫瘍を指します) におけるYAPの除去は、ポリープの形成を著明に低減し、寿命を延ばしました。
APCはプロテアソーム分解のためそれを標的とするβ-カテニンを不安定にし、そのためWntシグナル伝達を阻害することが知られています。著者らは、Apcが喪失した状況下の異常なWntシグナル伝達は、YAPとの相乗効果により腫瘍形成を起こしていると提案しています。さらにYAPの過剰発現はリン酸化-Erk1/2レベルを増加させ、EGF受容体 阻害剤で処置するとApc nullオルガノイドでのYAPの喪失が擬態される一方、YAP喪失は消失することを示しています。これはYAPの媒介による腫瘍化促進性再生プログラムは、EGF受容体を通じてのシグナル伝達に依存することを示唆しています。これはEGF受容体リガンドであるEpiregulinの力により強化され、YAPが欠乏した状態で欠損陰窩が形成されないようにします。
既知のWntシグナル伝達が衰弱する、または、Epiregulinを通じてEGFが活性化することにより、YAPが欠乏した状態でも腸陰窩の形態形成が修復されます。これは、損傷の誘導によるISCの再生はHippo、Wnt、そしてEGFという3つの異なるシグナル伝達経路間のクロストークを引き起こすことを示しています。
読者の方が幹細胞、シグナル伝達、はたまた翻訳ラボのいずれにお勤めであっても、これは次のJournal Clubの論文になるかもしれませんね。お楽しみください!
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