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SfN 2017レポート:ニューロンはもはや孤独ではありません

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2017年11月、3万人以上の神経科学者がワシントンD.C.に集結し、北米神経科学学会 (Society for Neuroscience:SfN) で脳に関するすべてのことについて話しました。私は何十年も前から、SfNに参加しています。私はしぶしぶとではありますが、ベテランとなったこともあり、今年のSfNは神経科学がこれまでどこのように歩んでききたのか、現在どこに位置するのか、今後どこへ歩んでいくのかを考える良い機会だと考えました。

SfNでは、分子、細胞、回路が複雑な行動をどのように駆動するのかを理解するという研究目標がありますが、その目的は多岐にわたっていて圧倒的です。今でも、会議の後に大学院の指導教官から必ず聞かれる「何を学んだのですか」という質問を思い出すと、思わず息が詰まります。このような質問はどのような会議でも難しい課題であり、特にSfNにとっては、考慮するだけでもしっかりとした視点を持つことが必要です。

SfN 2017:ニューロンだけが存在しているわけではない

私自身の視点から言うと、私は常に「ボトムアップ式」のアプローチを取ってきました。私の研究対象は、脳内の神経情報伝達の個々の単位であるシナプスです。大学院在学中と博士号取得後には、シナプスの形成、機能、可塑性 (有効性の変化) を分子がどのように媒介するかを研究し、シナプスがニューロン回路や最終的には行動にどのように貢献しているのかをより深く理解するために研究しました (つまり、ボトムアップのアプローチです)。シナプスは、基本的にニューロン間の細胞間相互作用であり、還元主義的なアプローチにより、脳内に存在する他の種類の細胞の非存在下でも研究することができます。

しかし、脳内にニューロンだけが存在しているわけではありません。ニューロンは、ニューロンよりも非ニューロン細胞が圧倒的に多く存在するという複雑な環境の中で機能しています。私は、2005年のSfN会議で、ニューロンの可塑性の恒常的な形態であるシナプススケーリングのメカニズムに関する注目すべきポスター発表があったことを思い出します。スタンフォードのRobert Malenkaのグループが報告したメカニズムには、AMPA型のグルタミン酸受容体の輸送に関連しており、これ自体は私にとっては驚くべきものではありませんでした。しかし、非ニューロン細胞がシナプス可塑性の鍵となる分子メディエーターとしてTNF-α を供給していることを発見したという著者の報告は、何かが明らかになった瞬間でした。この会議では、非ニューロン細胞がシナプス可塑性のような基本的な神経細胞のプロセスに、私たちが十分に理解していなかった方法で貢献していることをより確信を持って認識しました。

約10年前から考えると、非神経細胞は、正常な脳機能と疾患の両方の分野において、現在、SfNでブームになっています。今年、私は非神経細胞に関するいくつかのポスターや発表に興味を持ちましたが特に、ミクログロリアアルツハイマー病 (Alzheimer's disease:AD) に関連していることに注目しました。ADは、アミロイド斑および神経原線維変化に関連する神経変性疾患で、その詳細はまだあまり知られていません。研究者たちは、脳の常在するマクロファージであるミクログリアが、どのようにADの神経細胞の損失と機能不全に寄与するかを理解するために努力しています。最も基本的な疑問 (例:ミクログリアは保護的なのか有害なのか) は、ここにあります。

何故、ミクログリアがこれほど多くの研究者たちの注目を集めているのでしょうか?ミクログリアは、ADの病理学的な特性であるアミロイド班に関連しています。さらに、いくつかのミクログリアの特異的遺伝子は、ADリスクと関連していることがあります。そして、ミクログリアとその機能を研究するための新技術が登場してきているからです。

SfN 2017SfN 2017での3万人 (!) の来場者のうちのごく一部。 

 

それでは、今、私たちはどの位置にいるのでしょうか?2017年のSfN会議で、私の想像力をかき立てた研究のハイライトをいくつかご紹介します。

「アルツハイマー病と神経炎症」のシンポジウムでは、Orit Matcovitch-Natan氏が、ワイツマン化学研究所のIdo Amit氏の研究室で特定の疾患状態に関連する特定のミクログリアのトランスクリプトームを同定し、分類する研究を行っていることを説明しました。ミクログリアは、末梢マクロファージと同様に、特定の条件下で「活性化」される細胞です。Matcovitch-Natan氏は、シングルセルRNA-seqアプローチを活用して、コントロールおよびADモデル (5xFAD) マウスに由来するミクログリアの転写プロファイルを比較し、ADマウスに存在する転写的に固有なミクログリアのタイプ (Disease-associated microglia:DAM) を同定したことを報告しました。ADとミクログリアの間の直接的な関連性に一致する所見として、同定されたいくつかのマーカーは、アミロイド斑を取り囲むミクログリアにおいて特異的に発現が増加していることを示しました。アミロイド斑を取り囲むミクログリアにおけるこれらのDAMマーカーの発現上昇は、DAM転写プロファイルを開始または維持が可能な相互作用を示唆しています。この知見は、特定のDAM機能を動員するために活性化される可能性がある特定の経路を示唆している可能性があります。Amit研究室では、少なくとも2つ特異的なDAM活性化状態を提案しており、そこに内在する複雑な生物学はさらなる研究を要することを示唆しています。今後の研究で、さらなるDAMの状態が明らかになる可能性があります。これらの状態は、より時間的、空間的に定義されたものなのか、また疾患特異的なDAMが存在するのかは今後の研究課題です。

同シンポジウムでは、マサチューセッツ総合病院のBrad Hyman研究室のSarah Hopp氏が、病的なタウがニューロンからニューロンへと広がる新たな細胞の機構について説明しました。AD患者は、アミロイド斑だけでなく、微小管関連タンパク質タウの誤った折り畳みから生じる神経原線維のもつれを示します。タウは、ご存知の通り、ニューロンからニューロンへと広がる細胞内タンパク質です。病的なタウが介在ニューロン輸送のために採用している特定の輸送機構は謎のままですが、Hopp氏は、ミクログリアが関与している可能性に関する知見を説明しました。彼は、ヒトAD患者から分離したミクログリアとタウオパチーADマウスモデル (rTg4510) を使用して、ミクログリアがタウの断片 (神経原線維変化を含むニューロンのミクログリアの排出物である可能性が高い) を含んでいることを報告しました。興味深いことに、これらのタウの断片は、少なくともin vitroでは、正常なタウから誤った折り畳みを促進するタウの「種」として機能します。この「種」の拡散にミクログリアはどのように貢献しているのでしょうか?Hopp氏は、ミクログリアがこの「種」をエクソソームで包み、正常なニューロンによって取り込まれるという証拠を示しました。ミクログリアによる病的タウの神経間輸送のこの新しいメカニズムには、いくつかの意味があります。タウを含むエクソソームの形成止めることにより、病気の進行を防ぐことができるのでしょうか?ミクログリアの機能を強化/変更して、タウの「種」の生成/拡散を防ぐことができるのでしょうか?ミクログリアに関連した遺伝的危険因子は、この過程に寄与しているのでしょうか?今後の研究により、これらの問題は明確にされていくことでしょう。

「神経炎症とアルツハイマー病」に関するポスターセッションでは、マウントサイナイ医科大学のSam Gandy氏とMichelle Ehrlich氏のグループに所属するMichael Audrain氏は、ADに関連したミクログリアのシグナル伝達経路とシナプスの除去を伴う過程の収束について説明しました。ミクログリアは、シナプスの剪定と呼ばれる過程を介して、ニューロンの接続を形成することが知られています。シナプスの剪定は、発生中に起こりますが、成人でも正常な状態や疾患状態で起こる可能性があります。補体タンパク質であるC1qは、ミクログリアの貪食作用によって剪定されるシナプスを識別するいわゆる「eat me」シグナルである可能性があります。貪食作用など多くのミクログリアのプロセスを調節する膜ミクログリアタンパク質であるTREM2の変異は、ADリスクの増加に関わっています。Gandy研究室では、TREM2の下流エフェクターであるDap12の発現レベルを調節することで、ADモデルマウスにおけるシナプスC1q剪定の表現型を調節するのに十分であることを報告しています。興味深いことに、南カリフォルニア大学ケック医科大学のTerrence Town研究室に所属するBrian Leung氏は、「アルツハイマー病における保護と病原性メカニズム」のシンポジウムで、TREM2、C1q、およびAβモノマー (アミロイド斑の構成単位) との直接的な相互作用を独立して報告しました。これらの2つの研究を合わせると、ニューロンとミクログリアのような非神経細胞からの分子が、細胞レベルで収束し、ADの進行に寄与する研究という新たな研究領域が活発であることを示唆しています。

SfN 2017とこの先の展望

来年以降のSfNでは、何が大きな話題となるでしょうか?もちろん、一概には言えませんが、今後の課題は、ニューロンが非ニューロン細胞 (アストロサイトやミクログリア) とどのように統合するのか、また正常時または疾患時の反応をどのように制御するのかを解明することではないかと私は考えています。例えば、C1qが「eat me」シグナルであるならば、「don't eat me」シグナルも存在するのでしょうか?ミクログリアの活性化状態は、どのくらい継続できるのでしょうか?また、これらの細胞の状態を識別するためには、どのようなツールを開発する必要があるでしょうか?脳の時間的及び空間的複雑さを解明するために、ミクログリアやアストロサイト、ニューロンをin vivoin vitroの両方で効果的に研究するにはどうすればよいでしょうか?この統合がどのように機能しているのか、また、疾患時にどのように変化するかを研究することが極めて重要であり、これにより神経変性疾患のメカニズムと新しい治療標的が明らかにされる可能性があります。

Richard Cho, PhD
Richard Cho, PhD
Richard Cho博士は、Cell Signaling Technolgyの神経科学部門のアソシエイトダイレクターです。ジョンズ・ホプキンス医学校とMITで教育を受けた神経生物学者です。CSTでは、神経科学ポートフォリオの開発と管理に携わっています。神経変性と神経炎症を調査するための抗体ベースツールの開発に、特に焦点を当てています。次回のSfNまたはAD/PDで皆さんにお会いできるのを楽しみにしています。

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