単一のサンプルで複数のタンパク質の発現を比較できることが、免疫蛍光染色 (IF) 解析のメリットの1つです。IFでマルチプレックス解析を行う場合、いくつかのアプローチがあります。
間接検出:宿主に基づくマルチプレックス免疫蛍光染色解析
現在、最も一般的な方法は抗体の宿主に基づいたマルチプレックス解析です。それぞれ宿主の異なる抗体を使用すれば、蛍光色素で標識した、宿主に特異的な二次抗体を用いることでそれぞれの抗体を独立に検出することができます。この方法は間接検出とも呼ばれます。
直接検出:色素標識一次抗体を用いた解析
マルチプレックスIF解析には色素標識一次抗体を用いる方法もあります。この方法は直接検出と呼ばれます。直接検出にはいくつかの欠点があります。まず、使用する抗体に適したスペクトルが限られるため、実験デザインの柔軟性が低くなります。また、標識抗体を用いる場合は、間接検出に比べて像が不鮮明になりがちです。その理由は、直接検出では抗体を標識する蛍光色素の数が限られますが、間接検出の場合は、1つの一次抗体を複数の蛍光標識二次抗体で検出できるからです。
直接検出にはいくつか欠点がありますが、それを打ち消す利点もあり、宿主に基づく間接検出より迅速に結果が得られます。また、直接検出はたった1回の抗体結合反応により必要なシグナルを得られるため、初心者にとって便利な方法です。さらに、欠点も減りつつあります。マルチプレックスの次元 (同時に染色できる標的の数) と感度を大幅に増加させることができる、オリゴDNAで標識した抗体への関心が高まっています。残念ながら、この方法では色素標識抗体を用いた場合ほど迅速に結果を得ることはできません。
段階的な標識法を用いたマルチプレックスIF解析
3つ目のIFの手法として、段階的な標識を行う戦略がいくつかあります。この戦略の1つに、一次抗体の結合、Tyramide-streptavidin (TSA) による検出、抗体の破壊のサイクルを繰り返す方法 (この手法を一般的にマルチプレックスIHCと呼びます) があります。また、標識抗体による標識、イメージング、抗体からの色素の切除を繰り返す方法 (CyCIFの典型的なプロトコールです) もあります。
標識抗体だけで作業する方がワークフローが単純で迅速になり、魅力的かもしれませんが、間接検出が便利な場合もあります。存在量の少ない標的を調べる場合は、間接検出を用いてより明るいシグナルを得る必要があります。標識抗体が販売されていない場合や、販売されていても必要な色素で標識されていない場合もあります。これらの場合には、抗体の宿主に基づく検出と、色素標識一次抗体による染色を組み合わせることできます。簡単に言うと、ほかの抗体と宿主が重複しない標識抗体を用い、この標識抗体を検出する二次抗体を使用しないようにします。
CST抗体の多くはラビット由来です。CSTは、同じ宿主種の抗体を2種類以上用いてマルチプレックスを行うことができる、有用な手法を開発しました。この手法では、複数の色素標識一次抗体と、これらの標識抗体と同じ宿主種の未標識抗体を1つ組み合わせます。
その手順は以下の通りです。
- すべての未標識一次抗体を推奨濃度で用い、4°Cで一晩、一次抗体とサンプルをインキュベートしてください。
- サンプルを1X PBS (Phosphate-buffered saline) で3回洗浄してください。
- 対応する蛍光標識二次抗体を用い、一次抗体を検出してください。
- サンプルを1X PBS中で3回洗浄してください。
- 適切な宿主の未標識免疫グロブリンを過剰に加え (一次抗体の10倍濃度)、二次抗体の未反応の結合部位を室温で1時間ブロッキングしてください。CSTは、 Rabbit (DA1E) mAb IgG XP Isotype Control #3900 およびMouse (G3A1) mAb IgG1 Isotype Control #5415 がともに、この目的で使用できることを検証済みです。
- サンプルを1X PBSで3回洗浄してください。
- 推奨濃度に希釈した蛍光色素標識抗体を用いて、4℃で一晩、インキュベートしてください。
- サンプルを1X PBSで3回洗浄してください。
この方法では、標識抗体を加える前に、未反応の一次抗体結合部位を宿主の免疫グロブリンでブロッキングすることが重要です。CSTは、この方法を用いてラビット抗体の二重染色 (抗Olfm4抗体 +647標識抗PCNA抗体) とマウス抗体の二重染色 (抗APP/β-Amyloid一次抗体 + 647標識抗GFAP抗体) がともに成功することを確認しています。詳細は以下をご覧ください。
ラビット抗体を用いたIFマルチプレックス化:
マウス小腸組織を、 Olfm4 (D6Y5A) XP® Rabbit mAb (Mouse Specific) #39141 (黄) を用いて免疫蛍光染色し、蛍光顕微鏡で解析しました。 Rabbit (DA1E) mAb IgG XP® Isotype Control #3900を用いて二次抗体上の未反応の一次抗体結合部位をブロッキングした後、組織を PCNA (D3H8P) XP® Rabbit mAb (Alexa Fluor® 647 Conjugate) #82968 (マゼンタ) と Non-phospho (Active) β-Catenin (Ser45) (D2U8Y) XP® Rabbit mAb (Alexa Fluor® 488 Conjugate) #70034 (シアン) を用いて染色しました。核を DAPI #4083 (灰) で染色しました。増殖中の腺窩細胞にPCNAがみられる (右) ことを示すため、20倍の小腸横断面写真 (左) を並べて示しました。
マウス抗体を用いたIFマルチプレックス化:
変異型ヒトAPP695を過剰発現させたTg2576マウス脳組織を免疫蛍光染色し、共焦点顕微鏡で解析しました。切片を初めに HS1 (D5A9) XP® Rabbit mAb (Rodent Specific) #3892 (緑) とAPP/β-Amyloid (NAB228) Mouse mAb #2450 (黄) で染色しました。 Mouse (G3A1) mAb IgG1 Isotype Control #5415を用いて二次抗体上の未反応の一次抗体結合部位をブロッキングした後、切片を GFAP (GA5) Mouse mAb (Alexa Fluor® 647 Conjugate) #3657 (赤) を用いてインキュベートしました。核を Hoechst 33342 #4082 (青) で染色しました。
実験の成功と満足のいくマルチプレックス解析となることをお祈りします!
マルチプレックスIF実験における抗体の選択について、さらにご質問がある方は、 CSTテクニカルサポートにご連絡ください。専門の科学者が回答します。