CSTブログ: Lab Expectations

Cell Signaling Technology® (CST) の公式ブログでは、実験台に向かう時間に期待すること、ヒント、コツ、情報などを紹介しています。

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がんにおける代謝の役割

悪性細胞における代謝の変化は、長い間がん研究の中心的な課題でした。がん細胞は多くの新しいメカニズムを適応させて、栄養素の獲得や代謝経路のリプログラミングを行い、生体エネルギーの需要の増加に対応しています。CSTはがんの細胞生物学における重要な代謝の変化を検出、測定するための有用なツールを提供しています。

ワールブルグ効果、解糖系とがん

ワールブルグ効果は、多種のがん細胞で無秩序な増殖と生存を促進すると考えられている代謝適応です。

  • 正常な細胞では、正常な酸素条件におけるエネルギーは主にミトコンドリアの酸化呼吸で産生されます。これに対してがん細胞では、解糖系が盛んに利用され、ピルビン酸が乳酸に変換されます。このような酸素存在下における乳酸の産生への変化は、「好気的解糖」または「ワールブルグ効果」と呼ばれています。
  • PKM2 (Pyruvate Kinase isoenzyme M2) の二量体型がワールブルグ効果の中心的な役割を果たしていると考えられています。

 ワールブルグ効果シグナル伝達のインタラクティブ パスウェイ

グルタミン代謝とがん

アミノ酸であるグルタミンは、急速に増殖する細胞の重要な代謝燃料となります。実際に、多くのがん細胞がエネルギー需要の増加に対応するためにグルタミンに依存しており、そのためグルタミン代謝はがん治療の重要な治療標的であると考えられ始めています。

  • グルタミンは血中や細胞内プールに最も豊富な遊離アミノ酸で、しばしば血管が乏しく栄養不足になりがちな、がんの微小環境においてエネルギーを産生するための主要な基質として機能しています。
  • グルタミンは特異的なアミノ酸トランスポーターによって細胞内に取り込まれ、ミトコンドリアでグルタミン酸に変換されます。グルタミン酸はTCA回路の中間体であるα-ケトグルタル酸の前駆体となります。
  • イソクエン酸デヒドロゲナーゼ (IDH1およびIDH2) はグルタミン代謝の中心的な役割を果たす酵素で、イソクエン酸の可逆的な酸化的脱炭酸反応を触媒してα-ケトグルタル酸を産生します。IDH1とIDH2の両方の変異が、様々ながんでみられる代謝のリプログラミングに関連づけられています。
  • グルタミナーゼ (GLS) とグルタミン酸デヒドロゲナーゼ (GDH) はミトコンドリアの酵素で、これらの阻害剤はそれぞれ、グルタミンからグルタミン酸への変換と、α-ケトグルタル酸の産生を触媒します。現在、様々な悪性腫瘍の治療を目的とした、これらの阻害剤の臨床試験が行われています。

グルタミン代謝シグナル伝達のインタラクティブ パスウェイ

脂質シグナル伝達とがん

脂質シグナル伝達経路は、がん細胞で最も頻繁に変化するシグナル伝達系の1つです。特に、PI3K (PhosphoInositide 3- Kinase) 経路は複数の受容体クラスと下流のがん遺伝子を繋ぐ重要な役割を果たし、細胞機能に影響を及ぼします。

  • PI3Kは3つのクラスが知られていますが、PI3KクラスIが最もよくがんに関与していると言われています。
  • PI3Kは、一連の受容体チロシンキナーゼ (RTK) やGタンパク質共役型受容体 (GPCR) に応答して活性化されます。
  • PI3K経路を構成する重要な分子には、セリン/スレオニンキナーゼであるAKTmTORが含まれ、これらのキナーゼが下流のエフェクターに作用して、細胞の増殖、分裂、生存、代謝を制御します。
  • PTEN (Phosphatase and Tensin homolog) は、PI3Kシグナル伝達のブレーキの役割を果たしています。この腫瘍抑制因子はがんで頻繁に変異し、PI3K経路の過剰活性化を引き起こします。
  • PI3K経路の異常な活性化は、しばしばがん治療に対する抵抗性やがんの進行に関与しています。

ホスホイノシチド (脂質) シグナル伝達

代謝シグナル伝達とがん

がん細胞でみられる代謝の変化は多くの場合、主要な代謝シグナル伝達経路の変化に関連づけられます。最も有名な例は、AMPK (AMP-activated Protein Kinase) とmTOR (Mechanistic Target of Rapamycin) のシグナルネットワークの変化で、これらは協調的かつ独立した機能を果たしています。

  • AMPKは細胞のエネルギーと、酸化還元の恒常性維持のマスターレギュレーターで、低酸素、酸化ストレス、栄養飢餓などの様々な代謝ストレスシグナルに応答して、細胞内のATP供給の補充を促します。
  • AMPKシグナルの増強と減弱は共に、がん細胞の増殖と生存を促進します。まず、AMPKの活性化はがん細胞に代謝ストレスへの適応能力を与えます。逆に、AMPKシグナルが損なわれると、AMPKシグナルネットワークに含まれるLKB1TSC2P53などのがん抑制因子、すなわち発がんドライバーの作用が増強され、細胞の増殖、分裂、がん細胞の代謝のリプログラミングが促進されます。  
  • mTOR (mechanistic target of rapamycin) は、2つの異なる細胞内シグナル伝達複合体 (mTORC1およびmTORC2) に存在するセリン/スレオニンキナーゼです。多くの増殖因子による受容体チロシンの活性化に応答するだけでなく、mTORは細胞内の主要な栄養センサーでもあります。
  • 細胞の増殖、分裂、タンパク質合成の中心的な制御因子であるmTORの過剰な活性化は、多くのがんの発生や成長に有意に寄与することが示されています。PTENの機能が失われたり、PI3KやAKTのシグナル伝達が過剰に活性化されたりする重要な変異が、がんにおけるmTORの過剰な活性化に寄与します。

AMPKシグナル伝達のインタラクティブ パスウェイ

 

mTORの相互作用シグナル伝達経路

細胞代謝の詳細は、こちらのガイドをご覧ください

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