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ビデオ:がん微小環境におけるマクロファージ研究の新展開

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マクロファージの可塑性に関する研究の傾向

予測バイオマーカーを探求する細胞の種類が増え続ける中、免疫腫瘍研究分野は重要な時期に差し掛かっています。この5分間のビデオでは、CSTの開発科学者であるSarah Klein博士が、腫瘍関連マクロファージ (TAM) とM1状態とM2状態を見分けることの困難さについてお話しします。 

上に埋め込まれたビデオが視聴できない場合は、ここをクリックしてご覧ください。

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 ビデオの書き起こし:TMEにおけるマクロファージ研究の新展開

免疫系は、体の中の正常で健康な細胞とがん細胞を区別することができます。がん細胞の大きな問題に、免疫系からの攻撃を回避する手段を身につけるという点があります。これは多くの場合、がんの微小環境でPD-1IDOといった免疫抑制性のタンパク質発現を増加させることで起こります。

過去15年以上に亘り、免疫抑制タンパク質を特異的に阻害し、T細胞や適応免疫を活性化させる治療法のがん治療における有効性が実証されてきました。この成功に基づき、マクロファージや樹状細胞といった自然免疫系を標的とした治療法も、前臨床や臨床の場で研究が進められています。

Immune Checkpoint Signaling Pathway

免疫チェックポイントシグナル伝達パスウェイ図インタラクティブパスウェイ図もご覧ください

免疫療法が類を見ない成功を収めているにも関わらず、さらなる改善を目指した努力が続けられています。全ての患者に免疫療法が有効である訳ではないので、免疫療法の有効性を事前に検査するためのバイオマーカーの探索が進められています。このようにして、それぞれの患者がより成功の見込みが高い、個別化された治療戦略を享受することができるようになります。このいわゆる効果予測バイオマーカーとして、PD-L1などの免疫抑制タンパク質や、腫瘍関連マクロファージ (TAM) などの免疫抑制型の細胞の蓄積が考えられています。

マクロファージはがん細胞の発生、維持のほか、がんの除去にも重要です。一般に、がんの微小環境や創傷治癒の場においてマクロファージの機能は2つに分極化し、マクロファージと呼ばれます。M1マクロファージはいわゆる古典的な活性化マクロファージで、インターフェロンγなどのサイトカインで活性化され、インターロイキン-12や-23などの炎症性、免疫刺激性のサイトカインを産生します。M1マクロファージは抗腫瘍的に機能することが示されており、貪食された腫瘍細胞の除去や破壊、ヘルパーT細胞I型応答を誘導します。

M2マクロファージは選択的活性化マクロファージとも呼ばれ、インターロイキン-4、-10、13などのサイトカインによって活性化されます。ほとんどの腫瘍関連マクロファージ (TAM) は、M2マクロファージの類縁であると考えられています。これらの細胞は、炎症とがんを結びつける上で重要な役割を果たします。これらは抗炎症性サイトカイン、スカベンジャー受容体、血管新生因子、プロテアーゼをM1マクロファージより高レベルに発現します。TAMは免疫抑制性の微小環境を再構築して、腫瘍細胞の増殖、浸潤、転移を促進することができます。これらは腫瘍血管新生を促進し、T細胞による抗腫瘍免疫応答を阻害することができます。TAMと悪性腫瘍の関連性が明らかになるにつれて、これらの診断や予後のバイオマーカー、がん治療の標的としての有効性が指摘されるようになりました。このため、M1とM2マクロファージを明確に区別することは大変重要です。

Understanding Macrophages still 3-1

実際のところ、M1とM2の機能状態は連続的な極値として存在しており、このバランスはがんの微小環境におけるある種のサイトカインレベルの高低により変動します。さらにマクロファージは可塑性に富み、M1マクロファージを適切な環境で適切な刺激を与えるとM2様に変化します。その逆も同様です。

この性質がこれらの細胞の分類を困難にしています。M1とM2の機能状態を区別するために複数のマーカーの検討が必要で、フローサイトメトリー、免疫蛍光染色、免疫組織化学染色などで多重染色解析する必要があります。それぞれの機能状態に固有なマーカーがいくつか同定されていますが、これらを区別するより良い、より特異的なマーカーの探索が精力的に続けられています。マクロファージの機能状態を制御するタンパク質の多くは細胞内に存在するため、細胞表面の染色だけでは不十分で、細胞内と細胞内の検出を同時に組み合せて行う複雑なプロトコールが必要になります。

この様な複雑さに加えて、M1とM2の機能状態に関与する主要なタンパク質のいくつかが、マウスモデルとヒトで異なり、バイオマーカーを前臨床から臨床応用へ直接適用することができない場合もあります。免疫学者にとってエキサイティングで挑戦的な時期であり、がんやその他の様々な疾患研究領域で、マクロファージをはじめとした自然免疫細胞の役割を解明するため、多くの課題が残されています。

ご視聴ありがとうございました。CSTのYouTubeチャンネルWebサイトにもお役立ち情報をご用意していますので、ぜひそちらもご覧ください。実験の成功をお祈りします。そしてまたお会いしましょう。

 

参考文献:

Kenneth Buck, PhD
Kenneth Buck, PhD
細胞生物学を学んだKenは、ラトガース大学で博士号を取得し、その後イェール大学でポスドク研究を行い、再生する神経細胞の細胞運動性に関与する細胞骨格の動態とシグナル伝達機構について学びました。CSTでは、他の科学者と協働してマルチメディアによる科学コミュニケーションを構築しています。ビデオのスクリプトを書いているときや、スタジオにいるとき以外は、Kenの庭ともいえる岩でごつごつしたマサチューセッツ州ノースショアで、同僚と共にマウンテンバイクを乗り回しています。

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