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細胞老化とは何か?

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細胞老化は細胞周期の永続的な停止により定義されます。老化細胞は加齢とともに蓄積し、正常な加齢の過程と加齢に伴う疾患に寄与します。がん、神経変性疾患、代謝疾患、循環器疾患など、老化、加齢、加齢に伴う病態を解明する上で、細胞老化の研究が進められてきました。

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細胞老化はHayflick博士とMoorhead博士によって発見された現象で、培養した細胞が有限回数の複製の後、増殖を止めて永続的な細胞周期の停止状態に入ることを指します (複製老化)。これは、細胞分裂を重ねてテロメアが短縮することでDNA損傷応答 (DDR) が活性化され、細胞周期の停止が起こるためであると考えられています。

 

これまでに、がん遺伝子の発現や酸化ストレスのほか、ある種の化学療法などのストレスに応答して細胞老化が誘導されることが分かっており、また、老化した細胞は種々の生理活性物質を分泌する性質 (SASP:Senescent Associated Secretory Phenotype) を獲得することも示されています。したがって、細胞老化は、「ストレスによって誘導される、分泌現象を伴う安定的な細胞周期の停止」と捉えられています。

多くの場合、細胞老化に伴う細胞周期の停止は、持続的なDNA損傷によりp53-p21 Waf1/Cip1経路またはRb-p16 INK4A経路が活性化され、CDK (cyclin dependent kinase) が阻害されることによって起こります。OIS (oncogene-induced senescence) は、がん遺伝子の活性化またはがん抑制遺伝子の不活化によって引き起こされる持続的な細胞増殖の抑制反応です。がん化前の細胞が細胞周期から離脱するという細胞応答は、発がんに対する防御機構の一つとして機能すると考えられます。化学療法に用いる薬剤も、DDRを誘導して細胞老化の原因となることがあります。マウスモデルで老化細胞を除去した研究の成果から、化学療法による倦怠感の原因が老化した細胞の蓄積だとする指摘もあります。 

SASPは分泌されたサイトカイン、ケモカイン、増殖因子、プロテアーゼの複雑な混合物から成り、その組成は細胞や組織の状況と、老化を誘導した刺激により大きく異なります。この分泌現象は、老化細胞の近隣にある細胞や免疫系との情報伝達に寄与し、最終的には細胞の運命に影響を与えます。例えば、SASPは免疫細胞を老化細胞に動員して排除するため、この点において腫瘍に抑制的な機能を持ちます。しかし、SASPは血管新生や細胞外マトリクスのリモデリング、上皮間葉転換 (EMT) を促進する分子を分泌し、腫瘍を促進する機能を持つことも分かっています。

老化した細胞の特定

重要なことに、現在老化の普遍的なマーカーはありません。細胞老化を誘導する刺激、細胞の種類、タイミングなどにより老化した細胞で発現するマーカーは異なるので、細胞老化の表現型を決定する場合は複数の細胞老化関連因子を調べる必要があります。

広く用いられる老化のマーカーには、老化に関連した細胞周期の停止に関するものがいくつかあります。例えば、CDK阻害タンパク質p16INK4Aやp21Cip1の発現、53BP1やγ-H2A.XといったDNA修復タンパク質の染色で見られるDNA損傷部位を示す斑点、あるいは本来増殖中の細胞で見られるKi67の消失などがこれに当たります。

また、老化細胞の一般的なマーカーとして、TNFαやIL-1α、IL-1β、IL-6、IL-8、マトリクスメタロプロテアーゼ (MMP) などのSASP因子や、HMGB1の核局在性の消失が用いられます。

リソソームの内容物や活性の増加による、SA-β-gal (Senescence-associated β-galactosidase) の活性化や、老化細胞における核膜の変化によるLamin B1の消失、SBB (Sudan Black B) 染色によるLipofuscinの検出の増加、細胞体の肥大化や扁平化といった細胞形態の変化なども細胞老化の指標となります。

さらに、広範囲なエピジェネティクスの再構成によって老化細胞が分類されることもあります。HIRAやASF1Aといったクロマチン再構成因子がヒストンH3の9番目のリジン残基のトリメチル化レベルを増加させ、老化細胞に特有のクロマチン構造SAHF (senescence-associated heterochromatin foci) を形成します。

加齢と疾患

細胞の老化は腫瘍の防止、発生段階におけるリモデリング、創傷治癒などにおいて有益な作用が知られていますが、一生涯を通して起こる老化細胞の蓄積は、加齢 (個体レベルでの老化) 現象や、加齢に関連した疾患に関与することも知られています。老化細胞は組織年齢に伴って蓄積し、免疫系による除去が起こらなければ、がん、循環器疾患、アテローム性動脈硬化、2型糖尿病など、様々な加齢に関連した病態に寄与します。

加齢組織における老化細胞の有害な作用の主な原因の1つにSASP因子があると考えられています。SASP因子は、炎症誘発性環境を構築するだけでなく、周辺組織の再生能力を阻害する老化のパラクリン効果を誘導します。

モデルマウスの研究成果から、老化細胞を除去することで生存期間が延び、健康寿命も向上することが分かっています。現在、ヒトの加齢関連疾患の治療薬として、老化細胞を除去する薬剤であるSenolyticsの臨床試験が行われています。老化した細胞ではある種の抗アポトーシス経路が活性化し、細胞周期チェックポイント機構が誘導する細胞死に抵抗性を持ちますが、この経路を分子標的として、老化細胞を除去する薬剤 (セノリティクス) が開発されています。

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