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論文がリジェクトされた際に異議申し立てを行う理由やタイミング、その方法

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研究論文の投稿は、多くの若手科学者にとって、高等教育という壁を乗り越えて専門的な科学論文の領域に踏み出す最初の一歩となります。研究者が、実験や解析、論文の執筆に数か月、時には数年をかけて取り組み、熟考と忍耐の果てにまとめ上げた論文は、その分野の発展に大きく寄与する可能性があります。しかし、その後の道のりは平坦ではありません。アクセプトに辿り着く前に、リジェクトされる可能性もあります。よくあることですが、喜ばしいものではありません。 

論文のリジェクトに対する異議申し立てのタイミング、理由、および方法

このような状況に対応する能力は、若手研究者にとって不可欠です。本ブログ記事では、様々なタイプのリジェクトを例に挙げ、どのような場合に異議申し立てを行うか、また、異議申し立てを「なぜ、いつ、どのように」行うかを解説します。また、学術誌でリジェクトされた際に異議を申し立てた経験を持つ、CSTのデベロップメントサイエンティストであるHoma Rahnamoun博士の談話も紹介します

編集者によるリジェクトと査読者によるリジェクトの違い

投稿論文のリジェクトは、主に2つのカテゴリーに分けられます。編集者によるリジェクト (デスクリジェクトとも呼ばれます) と、査読者によるリジェクトです。編集者によるリジェクトでは、投稿先の学術誌の編集部による編集の段階でリジェクトが決定されており、査読に回されていないことを意味します1。投稿論文の約20 - 30%が、査読されることなくリジェクトされます2

編集者によるリジェクトには、様々な理由があります:

  • 概念の新規性が不十分:論文から得られる知見が、その分野において大きな貢献を果たさないと判断された場合
  • 内容が乏しいまたは不完全:結論に至るまでのデータが不足していると判断された場合
  • 編集部における一貫性の保持: 投稿先の学術誌において、最近、同様の原稿をリジェクトしている場合 (通常、著者にはその情報は開示されません)
  • 学術誌の趣旨や焦点との不一致:論文の内容が、学術誌の対象領域や使命、優先事項に適していないと判断された場合

編集者によるリジェクトは、上記の理由によるリジェクトであるため、異議申し立てが行われることは稀であり、決定が覆ることはほぼありません3。しかし、この編集者によるリジェクトは、不幸中の幸いでもあるため落胆しないでください。長い査読プロセスに入る前にリジェクトされた場合は、すぐに方向転換し、より適切な学術誌に速やかに再投稿できます。

論文の査読後のリジェクト

編集者の許可が出れば、投稿論文は査読者に渡されます。このステップでは、第三者である該当分野の専門家が、論文を評価し、建設的なフィードバックと助言を編集者に返します4

ブログ:査読プロセス:査読の概要と査読者の推薦方法

様々な理由により、約40%の論文が査読後にリジェクトされます2

  • 方法論における不備:査読者が、実験計画やデータの収集方法、統計解析に不備を見つけ、それにより研究結果の妥当性や信頼性が損なわれていることを指摘した場合
  • 査読者間での評価の不一致:査読者間で、相反する評価や助言が得られた場合 (編集者が、総合的な評価やコンセンサスの欠如に基づいてリジェクトを決定することがあります)
  • 提示された結果の不備:提示された結果が不明確、不完全、または証拠による裏付けが不十分な場合 (査読者は、所見の妥当性や確実性に疑問を抱く可能性があります)

これらの理由によるリジェクトは、査読者がデータや結論を誤解していたり、視点が異なっていたりすることもあるため、反論する余地があります。

「大学院生の時に、投稿論文がリジェクトされたことがあります。」と、Homa博士は述べます。「編集者が味方ではなく、論文が編集者によりリジェクトされた場合は、あなたができることはほとんどありません。しかし、査読者によりリジェクトされた場合、特に編集者がその研究に興味を持っている場合であれば、適切な方法で異議申し立てすることにより、最終的に論文がアクセプトされることもあります。」  

論文のリジェクトに対して異議申し立てを行う理由とタイミング

査読者によるリジェクトに異議を申し立てることは、非常に困難な作業に思えるかもしれません。しかし、そのプロセスは非常に価値のあるものとなる可能性があります。アクセプトされるチャンスが再び訪れるだけでなく、投稿した論文に関する貴重な意見を得ることができます。結果に関わらず、査読者が抱いた懸念についてより多くの情報を集めることは、自身の論旨をより強固なものにし、研究に対する第三者の視点を取り入れ、学術誌の編集者との関係を築くのに役立ちます。

しかし、異議申し立てを行う前に、他の選択肢をすべて検討してください。別の学術誌に投稿した方が、時間とエネルギーを効率的に使える場合もあります。異議申し立ては通常、編集者から優先順位が低いとみなされ、投稿数の多い学術誌では特にその傾向にあることに注意してください。一度リジェクトされた後にアクセプトされる確率は、最初の投稿時よりもかなり低くなります。また、自身が対応可能かどうかだけでなく、共著者が対応可能かどうかも考慮してください。共同研究の場合は、チーム全員で異議申し立てを行うかどうかを話し合ってください。査読者が抱いた懸念にどう対処するかや、修正が論文全体に与えるかもしれない影響、チームの対応可能な範囲、最終的な目標とのバランスを考慮してください。

次のステップに進むかどうかは、数日かけて慎重に検討する必要があります。具体的には、以下のような内容を検討します:論文に技術的な問題はなかったか?あった場合、合理的な時間内で既存の方法を用いて解決できるか?データや結論に誤解はないか?技術的には問題ないが、概念的な進歩や新規性に欠けていないか? 先に述べた技術的な問題であれば、異議申し立てが受け入れられる可能性が高いかもしれません。しかし、後に述べた概念的な進歩の不足が問題であれば、一般的に異議申し立てが成功する可能性は低くなります。

「結局のところ、1人でも好意的な査読者がいれば、編集者に連絡を取り、どうすれば懸念に対処できるかを話し合うのは、当然の流れだと思います。」と、Homa博士は述べます。

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効果的な異議申し立て書の書き方

異議申し立てを行うと決心したら、異議申し立て書を作成します。一般的に、異議申立て書とは、最初の評価プロセスで編集者や査読者により提起された懸念や批判に対応するために著者が書く正式な回答書のことを指します。これは、著者が自身の研究の科学的妥当性、重要性、独創性を伝える機会であると同時に、提起された懸念に対する解決策や修正を提案する機会でもあります3

異議申し立て書を作成する前に、まずは編集者に連絡をとり、異議申し立てが可能かどうかを問い合わせます。「私の経験上、ほとんどの場合、研究責任者が編集者に連絡を取り、話し合いの場を設けます。Eメールまたは電話のどちらで問い合わせるかは、既存の関係性によります。」と、Homa博士は述べます。「このプロセスは、少数の査読者が否定的な立場であった場合に、非常に大きな意味を持ちます。」 

研究室の主催者や他の著者と協力して異議申し立て書を作成する際は、論文の修正時に行う通常の作業と同じく、まずは提供されたフィードバックに対処するための、ポイントごとの包括的な回答の作成と行動計画の作成から始めます。論文の強化または提示された懸念の払拭が可能な、論文の投稿後に実施した新しいデータや実験にも着目します。次に、重要な論点を簡潔にまとめ、リジェクトが不当であると考える理由を詳しく説明してください。専門性や明瞭さ、厳密さをもつ理路整然とした論拠を有するよく練られた異議申し立てにより、編集者に決定を再考するよう説得することができます。 

編集者が、各論点を確認し、対話の準備をする時間を持てるように、最初に送るEメール中で、あるいは話し合いを行う少なくとも数日前には、各ポイントに対する回答を共有しておくのが最善な方法です。

反論のトーンと編集者とのコミュニケーションは非常に重要であることに注意してください。フィードバックや改善のための提案をすべて受け入れ、査読者が抱いた懸念に対処するための解決策を積極的に提案することが重要です。 

「異議申し立て後に論文がアクセプトされた経験のうちの1つでは、3人の査読者のうち2人がその研究を肯定的に評価し、編集者もその研究に興味を持っていました。これが重要だったのだと思います。」と、Homa博士は続けます。「私の研究室の主催者は、編集者と会い、3人目の査読者の懸念と、それに対処するための計画について話し合いました。その編集者はとても乗り気だったので、私たちは論文を修正して再提出しました。論文は再び査読者たちに送られ、その後すぐにアクセプトされました!」 

編集者と建設的な対話をすることで、審査結果に大きな影響を与えることができます。編集者は、貴重な情報を与えてくれます。また、決定通知書の内容を整理し、実験や考え方に優先順位をつける手助けをしてくれます。新しいデータや詳細な実験計画を示さずに編集者を説得しようとしても、ほとんど効果はないことを覚えておいてください。編集者と協力して論理的で実現可能な計画を立て、どの実験を行うか、どのようにして懸念事項に対処するか、論文全体をどのように強化するかを明確する必要があります。

また、編集者は、論文の投稿先として適切な他の学術誌を、優先順位をつけて紹介してくれることもあります。

話し合いの後、編集者は、著者に正式に修正を依頼する前に、提案された実験に対する具体的なフィードバックを同僚や査読者に相談することがあります。時には、特定の実験により、査読者の懸念を払拭できるかどうかを編集者が予測することは難しい場合があります。これらの懸念がリジェクトの主な理由である場合、編集者は、著者に対し正式な修正を勧めるより前に、査読者などに話し合いの結果を確認してもらうことがあります。

編集者と共に修正計画を最終決定した後は、それを効率よく遂行することが不可欠です。科学的研究では、綿密な計画を立てたにも関わらず、予期しない遅延または変更が生じる可能性があります。そのような場合、著者は、実験の実施状況や潜在的問題について編集者と率直に話し合い、今後の予定や現実的な期限について再度話し合う必要があります。改定計画に不測の事態を盛り込み、編集者と定期的に連絡を取る事により、タイムラインをとスケジュールを適切に管理し、論文の再提出に向けて原稿を書き進めることができます。

異議申し立ての結果

異議申し立てが認められるかどうかは、リジェクトされた状況と理由により大きく異なります。新たなデータに基づいて再検討されるケースや、やはりリジェクトが妥当であるという理由が示されるケースまで、その結果は多岐にわたります。最終的には、著者による努力と主張の説得力によって結果が左右されます。

最後になりますが、ポジティブな姿勢を保ち、リジェクトに落胆しないでください。リジェクトも大事な経験の1つであり、結果がすべてではありません。前向きな態度とフィードバックに耳を傾ける姿勢をもって異議申し立てに臨めば、少なくとも、有用な知見をいくつか得られるはずです。そして、異議申し立てが認められれば、あなたの名前が学術誌に掲載される事になります!

CSTは、あなたの論文が査読の後すぐにアクセプトされることを祈っています。しかし、もしも、すぐにアクセプトされない場合に、本ブログ記事が役立つことを願っています。

 

参考文献

  1. Scholz, F. Writing and publishing a scientific paper. ChemTexts. 2022;8(8). doi:10.1007/s40828-022-00160-7
  2. Ali J. Manuscript rejection: causes and remediesJ Young Pharm. 2010;2(1):3-6. doi:10.4103/0975-1483.62205
  3. Taylor & Francis. [Online] Peer review appeals and complaints from authors.
  4. Kelly J, Sadeghieh T, Adeli K. Peer Review in Scientific Publications: Benefits, Critiques, & A Survival GuideEJIFCC. 2014;25(3):227-243. Published 2014 Oct 24.
  5. Lin, Y. "We agree completely with the reviewer, but…: Stance in author rebuttal letters for journal manuscript reviews. Engl Specif Purp. 2024;73:159-171. doi:10.1016/j.esp.2023.10.004
  6. Sullivan GM, Simpson D, Yarris LM, Artino AR Jr. Writing Author Response Letters That Get Editors to "Yes"J Grad Med Educ. 2019;11(2):119-123. doi:10.4300/JGME-D-19-00161.1
  7. Tress, G., Tress, B. and Saunders, D. (2014). How to write a paper for successful publication in an international peer-reviewed journalPacific Conservation Biology20, 17–24. https://doi.org/10.1071/PC140017
24-FLE-99100
Alexandra Foley
Alexandra Foley
Alexandraは、CSTのサイエンティフィックマーケティングライターであり、Lab Expectationのエディターです。

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