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ウェスタンブロットのローディングコントロールの選び方

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最後にウェスタンブロットのデータを作成したときを思い出してください。実験サンプル間に、期待通りのシグナルの差異がみられましたか?それとも、タンパク質の発現量に差異がみられなくて、何が間違っていたのか悩みましたか?ここで、もう1つ質問があります。信頼できるローディングコントロールタンパク質を忘れずに確認しましたか?

多くの人は、ウェスタンブロットのローディングコントロールについて深く考えることなく、一般的な細胞骨格やハウスキーピングタンパク質を用いています。しかし、このしばしば見落とされがちな作業には、さらなる注意を払うべき数多くの理由が存在します。

ローディングコントロールとは何か?なぜ重要なのか?

ローディングコントロールは、サンプル中に高度かつ恒常的に発現するタンパク質であり、ウェスタンブロット実験のポジティブコントロールとして用いられます。ローディングコントロールを用いる最も重要な理由として、検出したタンパク質発現のあらゆる差が実験条件によるものであり、ローディングしたサンプルや転写膜への転写によるばらつきでないことを証明し、データの信頼性と結論を確実なものにすることが挙げられます。サンプルのゲルへのローディングが不均一であったり、転写膜への転写に偏りがあったりすると、立てた仮説が正しいか否かを判断できません。

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一般的なローディングコントロールには、GAPDHやβ-Actin、α-Tubulin、Histone H3、Vinculin、他にも基本的な細胞機能に必要である、普遍的なハウスキーピングタンパク質などの抗体が用いられます。これらのタンパク質は通常、多くのサンプルにおいて恒常的に発現しており、その発現量は生物学的変動の影響を受けません。しかし、実験条件によっては異なる抗体が適している場合もあるため、ローディングコントロールは入念に検討して選択する必要があります。

ローディングコントロールを選択する際に、3つの重要な基準を考慮する必要があります:

  1. ローディングコントロールのタンパク質量は、実験条件により変化しない 

  2. ローディングコントロールと標的タンパク質は、ウェスタンブロットで簡単に区別できる

  3. ローディングコントロールと標的タンパク質の両方のシグナルが、線形範囲内にある

<< 上記の各リンクから、関連するセクションに飛ぶことができます>>

では、ローディングコントロールタンパク質のウェスタンブロットを準備するときに、これらの基準をどのように検証すればよいのでしょうか?よくある問題の解決方法を以下に記載しますので、参考にしてください。また、ローディングコントロールタンパク質の分子量と細胞内局在、宿主種を記載した参照表をご用意しました。このページをブックマークして、次回のローディングコントロールの選択にお役立てください。


1. ローディングコントロールのタンパク質量は、実験条件により変化しない


ローディングコントロールを選択する最初のステップとして、まずは候補となるローディングコントロールタンパク質が実験に適しているかを確認します。標的タンパク質が発現している場所や、同じ細胞内の場所に発現しているローディングコントロールタンパク質があるかどうかを考慮すると良いでしょう。例えば、核タンパク質のみのライセートを用意した場合、細胞骨格よりもDNA結合タンパク質の方が標準化により適していると考えられます。

ウェスタンブロットのローディングコントロールの解析様々な細胞株からの抽出物を、 TBP (D5C9H) XP® Rabbit mAb #44059を用いてウェスタンブロットで解析しました。

また、タンパク質が発現している場所だけでなく、実験条件による発現の変化も理解しておく必要があります。サンプル中のトータルタンパク質量を定量し、ゲルの各レーンに確実に等量ずつロードしたとします。しかしながら、画像化して確認すると、実験サンプルのレーンにコントロールサンプルと比べて大きく異なるローディングコントロールのシグナルが見つかることがあります。

関連リソース:ウェスタンブロットのトラブルシューティングガイド

何が起こったのでしょうか?ローディングコントロールタンパク質の発現量が、実験条件の影響を受けた可能性があります。多くの場合、ローディングコントロールを選択する前に文献を軽く検索することにより、実験条件によって選択した標準化用コントロールタンパク質の発現量に変化が生じるかどうかを、事前に予測することができます。


2. ローディングコントロールと標的タンパク質は、ウェスタンブロットで簡単に区別できる

締切に追われている、貴重なサンプルなどリソースに限りがある、または、とにかく可能な限り最も効率的な実験を計画したいという場面に遭遇することがあります。このような場合、ローディングコントロールの抗体と、標的タンパク質の抗体の共インキュベーションを検討しても良いかもしれません。抗体の混合を開始する前に、結果がどのようになるのか、効率的でありながらもデータの完全性を維持するにはどうすれば良いのかを考えておく必要があります。

 

抗体を混ぜてインキュベーションする際は複合シグナルを回避するために分子量を考慮する

複合シグナルを回避する1つの方法は、分子量が標的タンパク質と大きく異なるローディングコントロールタンパク質を選択することです。これにより、両方の一次抗体を共インキュベートし、同じブロット上の異なる位置でそれぞれのシグナルを確認することができます。 

下の表は、一般的にローディングコントロールとして用いられるタンパク質の分子量と細胞内局在を示しています。

分子量 (kDa) 全細胞/細胞質 ミトコンドリア 細胞骨格 形質膜
230       Myosin IIB  
124 Vinculin     Vinculin  
100       α-Actinin NA,K-ATPase
90 HSP90        
74   Lamin A/C      
70 HSP70        
68   Lamin B1      
63   Lamin A/C      
62   HDAC1      
60 HSP60   HSP60    
52       α-Tublin  
45   Lamin B1      
38   TBP      
37 GAPDH        
36   PCNA      
35       β-Tubulin  
34     VDAC    
24          
21         Caveolin-1
19       Cofilin Caveolin-1
17   Histone H3 COX IV    
9       Profilin 1  
5       Profilin 1  

表1:一般的なローディングコントロールタンパク質と、その細胞内局在および分子量 (kDa)。 

標的タンパク質と、検出したいローディングコントロールタンパク質が同じような分子量の場合はどうすれば良いのでしょうか?簡単です!ただ、異なる宿主種で製造された抗体を選べば良いのです。各CST® 抗体の宿主種は、データシートやウェブサイトのSupporting DataセクションにあるSourceに記載されています。

標的タンパク質を検出する抗体がラビットで製造されている場合、ローディングコントロールの抗体はマウスで製造されたものを用いることにより、両一次抗体で転写膜を共インキュベートすることができます。洗浄した後、抗ラビット二次抗体でインキュベートし、現像して標的タンパク質のバンドを示した画像を取得します。その後、さらに洗浄を行い、抗マウス二次抗体を用いてインキュベートします。抗ラビット抗体と同様に、洗浄、現像、そして画像を取得すればできあがり!これで、ローディングコントロールタンパク質のバンドを取得することができました。

下の表は、一般的なローディングコントロール抗体の宿主種を示しています。

タンパク質 Rabbit Mouse Rat
α-Actinin α-Actinin (D6F6) XP® mAb #64887 α-Actinin (E7U1O) mAb #69758  
α-Tubulin α-Tubulin (11H10) mAb #2125 α-Tubulin (DM1A) mAb #3873  
β-Actin β-Actin (13E5) mAb #4970 β-Actin (8H10D10) mAb #3700  
β-Tubulin β-Tubulin (9F3) mAb #2128 β-Tubulin (D3U1W) mAb #86298  
Caveolin-1 Caveolin-1 (D46G3) XP® mAb #3267    
Cofilin Cofilin (D3F9) XP® mAb #5175    
COX IV COX IV (3E11) mAb #4850 COX IV (4D11-B3-E8) mAb #11967  
GAPDH GAPDH (D16H11) XP® mAb #5174 GAPDH (D4C6R) mAb #97166  
HDAC1 HDAC1 (D5C6U) XP® mAb #34589 HDAC1 (10E2) mAb #5356  
Histone H3 Histone H3 (D1H2) XP® mAb #4499 Histone H3 (1B1B2) mAb #14269  
HSP60 HSP60 (D6F1) XP® mAb #12165    
HSP70 HSP70 (D69) Antibody #4876 HSP70 (D1M6J) mAb #46477 HSP70 (6B3) mAb #4873
HSP90 HSP90 (C45G5) mAb #4877    
Lamin A/C Lamin A/C Antibody #2032 Lamin A/C (4C11) mAb #4777  
Lamin B1 Lamin B1 (D9V6H) mAb #13435    
Myosin IIB Myosin IIb (D8H8) XP® mAb #8824    
Na,K-ATPase Na,K-ATPase Antibody #3010    
PCNA PCNA (D3H8P) XP® mAb #13110 PCNA (PC10) mAb #2586  
Profilin 1 Profilin-1 (C56B8) mAb #3246    
TBP TBP (D5C9H) XP® mAb #44059    
VDAC VDAC (D73D12) mAb #4661    
Vinculin Vinculin (E1E9V) XP® mAb #13901    

表2:一般的な、CSTのローディングコントロール抗体の宿主種。

標的タンパク質とローディングコントロールタンパク質のシグナルのオーバーラップを回避する最後の方法は、2つの戦略を併用、つまり、タンパク質の抗体とは異なる宿主種で製造された、分子量が標的タンパク質と大きく異なるローディングコントロールタンパク質の抗体を用いることです。これにより、どのバンドがどのタンパク質を示しているのか、わからなくなるリスクを最小化することができます。

関連ブログ:各マウス組織における、ローディングコントロールの発現

どの戦略も、時間と試薬を節約できるだけでなく、貴重なサンプルで重複して実験を行う必要がなくなります。さらに、たった1回のブロットで、ゲルにローディングしたタンパク質量がサンプル間で一致していることを示し、定量解析が容易になるという「おまけ」もついてきます。ただし、両方のタンパク質の最適なシグナルを得るために、複数回の露光を行う必要があることを忘れないでください。


3. ローディングコントロールと標的タンパク質の両方のシグナルが、線形範囲内にある

ローディングコントロールの選択の際に最終的に考慮すべきことは、シグナルの線形範囲についてです。ローディングコントロールと標的タンパク質の両方から検出されるシグナルが線形範囲にない場合は、バンドが過露光、すなわち「焼失」してしまい、定量解析ができなくなります。 

関連ブログ:正しくローディングコントロールの設定ができていますか?

では、どうすれば良いのでしょうか?この場合、予防しておくことが最善策となります。標的タンパク質とローディングコントロールのダイナミックレンジを決定するために、実験サンプルのタイトレーションが必要になるかもしれません。予め対策しておくことにより、定量的なデータを得るために何度もブロットする必要がなくなります。弊社は、トータルタンパク質20-50 μgをミニゲルの各レーンにロードすることを推奨しています。CST抗体を用いて検出する多くの標的タンパク質やモデルシステムでは、これが最適なトータルタンパク質量となります。

CSTのローディングコントロール抗体のSamplerキット

CSTは、理想的なコントロールの決定に役立つ、2種類のローディングコントロールSamplerキットを提供しています。例えば、Loading Control Antibody Sampler Kit (Rabbit) #5142 には、以下の一般的なローディングコントロール用抗体が含まれます:

  • β-actin: アクチンは、真核生物の細胞骨格の主要な成分であり、恒常的に発現しているタンパク質です。アクチンは、主に線維状に重合したF-Actinとして存在しています。
  • Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase (GAPDH): GAPDHは、解糖系においてGlyceraldehyde-3-phosphateのリン酸化を触媒します。近年の研究により、GAPDH はアポトーシスや遺伝子発現、核輸送に関与することがわかっています。
  • Histone H3: Histone H3を含むヒストンタンパク質は、ヌクレオソームとして知られるクロマチンの主な構成要素です。クロマチン構造の調節は、真核生物での転写の制御において重要な役割を果たします。
  • β-tubulin: α-およびβ-Tubulinのヘテロ二量体からなる球状のチューブリンサブユニットは、細胞骨格を構成する3種類の細胞質線維のうちの1つである微小管の構成要素です。
  • COX IV: COX (Cytochrome c oxidase) は、13のサブユニットからなるヘテロオリゴマー酵素であり、ミトコンドリアの内膜に局在します。電子伝達系の最後の酵素複合体であり、ミトコンドリアの内膜を通過するプロトンの還元を触媒し、ATP合成を促進します。

マウスで製造した抗体Samplerキット#9774も入手可能です。

 

追加リソース: 

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Supriya Singh, PhD
Supriya Singh, PhD
Supriyaは、高校生の時に小さなバイオテクノロジー企業のインターンシップに参加し、科学の面白さに目覚めました。それから10年経ち、分子生物学と細胞生物学の博士課程を修了したSupriyaは、科学者に最高品質の抗体とテクニカルサポートを提供する、プロダクトサイエンティストとしてCSTに入社しました。シニアプロダクトサイエンティストとして実績を重ねた後、Supriyaはマーケティング部に異動し、CSTが提供する製品の認知度を高めることにより、研究者が研究に没頭できる環境を作ろうと邁進し続けています。

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