時間をかけて、細胞の処理や細胞抽出物の調製、ウェスタンブロット解析を行った後に、期待するシグナルやタンパク質の発現の変化が確認できずに、がっかりしたことはありませんか?そのような場合、当然のことながら「実験に何か問題があったのだろうか?」と考えます。コントロール細胞抽出液を、ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールとして免疫ブロットに組み込むことにより、問題があったかどうかを確認できます。また、これらのコントロールは、その問題の特定に役立ちます。
サンプルを処理した後に、目的のタンパク質の発現に変化がみられず、コントロール細胞抽出液ではシグナルに変化がみられた場合はどうでしょうか?この場合は、抗体に問題はないので、サンプル調製の方法を見直す必要があります。
コントロール細胞の抽出液は、特に細胞死関連イベントの研究に有用ですが、その理由は次の通りです。
- シグナルの誘導: 細胞死パスウェイは、非常に緻密であるため、サンプルに目的の細胞死パスウェイを誘導することが困難な場合があります。処理方法の違いにより、異なるシグナル伝達カスケードが活性化する場合があります。
- サンプル調製: どのサンプル調製方法が最適であるかを知るには、経験と適切なプロトコールが必要です。
- サンプル収集: 細胞死に関連する標的は、切断イベントなどの一時的な翻訳後修飾 (PTM) を受けることが多々あります。そのため、想定とは異なる時点の抽出物を調製してしまう可能性があります。
Cell Signaling Technologyは、細胞死のウェスタンブロット実験に使用可能なコントロール細胞抽出液をいくつか提供しています。これらには、ネガティブコントロールおよびポジティブコントロールが含まれます。ポジティブコントロールは、標的となるタンパク質やPTMが誘導されており、これらが高いレベルで含まれています。ネガティブコントロールは、標的となるタンパク質やPTMが存在しない、またはポジティブコントロールよりも内在性レベルが低くなっています。また、実験における変数をできる限り最小限に抑えたい研究者向けに、コントロール細胞抽出液における細胞死の誘導にCSTが最も使用する化合物 (Etoposideや Chloroquine、Thapsigarginなど) も提供しています。
本ブログでは、アポトーシスやオートファジー、マイトファジーを研究する際のウェスタンブロットで、ポジティブコントロールまたはネガティブコントロールとしての使用に最適なコントロール細胞抽出液について解説します。
アポトーシスのウェスタンブロットに使用すべきコントロール細胞抽出液
アポトーシスは、プログラムされた細胞死の1つであり、細胞死パスウェイの一部であるカスパーゼの切断イベントにより媒介されます。アポトーシスの特徴は、細胞膜のブレブ形成や細胞の収縮、核の断片化、クロマチンの凝縮、DNAの断片化、mRNAの分解です。アポトーシスの機能不全は、がんや神経変性、心血管障害、自己免疫疾患などと関連します1 。アポトーシスは、EtoposideまたはCytochrome cを用いて化学的に誘導できます2-3。
CSTは、ウェスタンブロットによるアポトーシス検出用の、2種類のコントロール細胞抽出液を提供しています。
Jurkat Apoptosis Cell Extracts (etoposide) #2043は、25 µMのEtoposideで5時間処理したJurkat細胞の全細胞抽出物から作製されており、Caspase-3 Control Cell Extracts #9663は、Cytochrome cで処理したJurkat細胞の細胞質画分から作製されています。どちらも、アポトーシスのウェスタンブロットでコントロール細胞抽出液として使用できます。
図1. Caspase-3 Control Cell Extracts #9663の新ロット試験における代表的なデータを示しています。Caspase-9 Antibody #9502 (上) とCaspase-3 (D3R6Y) Rabbit mAb #14220 (下) を用いてウェスタンブロットで解析しました。予想通り、Cytochrome c処理 (+) により、Caspase-3とCaspase-9の切断が誘導されました。未処理の抽出物 (-) では、全長サイズの両タンパク質が確認できます。異なるロット間で、同様のシグナルが維持されています。
ウェスタンブロットでアポトーシスを研究する際に、Jurkat Apoptosis Cell Extracts (etoposide) #2403とCaspase-Control Extracts #9663をコントロールとして使用できる標的の一部を、以下に示しています。
標的 | Jurkat Apoptosis Cell Extracts (etoposide) #2043 | Caspase-3 Control Cell Extracts #9663 |
Caspase-2 | ✓ | |
Caspase-3 | ✓ | ✓ |
Cleaved Caspase-3 (Asp175) | ✓ | ✓ |
Caspase-6 | ✓ | |
Cleaved Caspase-6 (Asp162) | ✓ | ✓ |
Caspase-7 | ✓ | ✓ |
Cleaved Caspase-7 (Asp198) | ✓ | ✓ |
Caspase-8 | ✓ | ✓ |
Cleaved Caspase-8 (Asp374) | ✓ | ✓ |
Cleaved Caspase-8 (Asp384) | ✓ | ✓ |
Cleaved Caspase-8 (Asp391) | ✓ | |
Caspase-9 | ||
Cleaved-Caspase-9 (Asp315) | ✓ | ✓ |
Cleaved Caspase-9 (Asp330) | ✓ | ✓ |
Cleaved DFF45 (Asp224) | ✓ | |
Cleaved α-Fodrin (Asp1185) | ✓ | |
PARP | ✓ | |
Cleaved PARP (Asp214) | ✓ |
オートファジーのウェスタンブロットに使用すべきコントロール細胞抽出液
オートファジーもプログラムされた細胞死の1つであり、 オートファジーシグナル伝達経路の一部として、オートファゴソームおよびリソソームが、分解された細胞構成因子を除去します。オートファジーの機能不全は、神経変性疾患やがんと関連します4。 オートファジーは、Chloroquine処理により誘導できます5。
ポジティブコントロールであるLC3 Control Cell Extracts #11972は、オートファジーを誘導する40 µMのChloroquineで一晩処理したHeLa細胞の、全細胞抽出物から作製されます。オートファジーを研究する際に、LC3 Control Cell Extracts #11972をポジティブコントロールとして使用できる標的の一部を、以下に示しています。
- LC3A/B
- LC3A
- LC3B
図2. LC3 Control Cell Extracts #11972の新ロット試験における代表的なデータを示しています。LC3B (E5Q2K) Mouse mAb #83506 (左)、LC3A (D50G8) XP® Rabbit mAb #4599 (中央)、LC3A/B Antibody #4108 (右) を用いてウェスタンブロットで解析しました。予想通り、Chloroquine処理 (+) によりLC3アイソフォームが誘導されました。未処理の抽出物 (-) では、全長サイズのLC3がみられます。各ライセートにおいて、現行ロットおよび新ロットの間で同様のシグナルが維持されています。
マイトファジーのウェスタンブロットに使用すべきコントロール細胞抽出液
マイトファジーは、オートファジーの一種であり、ミトコンドリアのホメオスタシスの維持に特化しています。損傷やストレスにより、ミトコンドリアが機能不全となった場合にマイトファジーが起こります。マイトファジーの機能不全は、神経変性や心血管障害、代謝疾患、骨格筋疾患などと関連しています6。マイトファジーは、Thapsigarginで化学的に誘導できます7。
ポジティブコントロールであるCHOP Control Cell Extracts #33263は、300 mM Thapsigarginで2時間処理したC2C12細胞の、全細胞抽出物から作製されており、CHOPの発現や、その他のマイトファジーの標的を研究するためのウェスタンブロットに使用可能です。
図3. CHOP Control Cell Extracts #33263の新ロット試験における代表的なデータを示しています。CHOP (L63F7) Mouse mAb #2895を用いてウェスタンブロットで解析しました。予想通り、Thapsigargin処理 (+) によりCHOPが誘導されました。露光時間を長くすると、とてもわずかですが未処理の抽出物 (-) でもシグナルがみられます。各ライセートにおいて、現行ロットおよび新ロットの間で同様のシグナルが維持されています。
CSTのコントロール細胞抽出液が選ばれる理由
CSTの科学者は、細胞死を化学的に誘導する最も有効的な方法を特定するために、幅広い一次研究や二次研究を行ってきました。CSTのコントロール細胞抽出液は、タイムコース実験を行う場合や、異なるサンプル調製や収集方法を試みる場合などの、様々な用途に応じられるように熟考の上、開発・生産されています。さらに、弊社の製品カタログに記載されたコントロール細胞抽出液と同じものを、社内での抗体検証の際にいつも使用しています。
CSTのコントロール細胞抽出液は、長年社内や社外で使用されています。ロット間で一貫した結果が得られるように、すべてのCST製品と同じく厳密に検証されているため、年月を超えて信頼性が保証されています。このような徹底した製品の品質管理により、標的やPTMの存在の検出が確実となるため、データの解釈が簡単になります。
CSTのコントロール細胞抽出液は、どのように検証されているのでしょうか?まず、細胞の各培養上清を試験し、マイコプラズマのコンタミネーションがないことを確かめます。その後、複数の異なる抗体を使用してウェスタンブロットし、新ロットのコントロール細胞抽出液のシグナル強度およびバックグラウンドのプロファイルを、現行のロットのプロファイルと比較します。PTMの量の変化が予想される場合は、PTMの量の変化が予想される場合、CSTの基準では、新ロットのコントロール細胞抽出液で、標的のトータルタンパク質抗体を1つ以上、標的のPTM抗体を1つ以上使用し、横に並べて試験することを義務付けています。
図4. Jurkat Apoptosis Cell Extracts (etoposide) #2403の新ロット試験における代表的なデータを示しています。Caspase-3 (D3R6Y) Rabbit mAb #14220 (上左)、Caspase-7 Antibody #9492 (上右)、PARP Antibody #9542 (下左)、およびCleaved PARP (Asp214) (D64E10) XP® Rabbit mAb #5625を用いてウェスタンブロットで解析しました。予想通り、Etoposide処理 (+) および未処理 (-) の抽出物の両方で期待通りのシグナルが確認できました。各ライセートにおいて、現行および新ロットの間で同様のシグナルが維持されています。
細胞死のウェスタンブロットを制御する
コントロール細胞抽出液は、サンプル調製またはウェスタンブロットの条件が最適であるかを確認する、時間がかかる作業を省略するためのツールです。CSTの科学者は、確実に細胞死に応答したシグナルを示す多様な細胞抽出物を提供するために、必要なサンプルの処理方法や調製方法、収集の条件を研究してきました。そのため、これらの製品により、自信を持って正確にデータを解釈できます。
その他のリソース
- CSTのコントロール細胞抽出液の一覧をご覧ください
- 各標的に推奨されるコントロール処理方法をご覧ください。
- 実験にどのコントロール細胞抽出液をすべきかお悩みであれば、CSTテクニカルサポートにご連絡ください
- さらなるヒントはウェスタンブロットアプリケーションガイドをご覧ください
参考文献
- Favaloro B, Allocati N, Graziano V, Di Ilio C, De Laurenzi V. Role of apoptosis in disease.
Aging (Albany NY). 2012;4(5):330-349. doi: 10.18632/aging.100459 - Eischen CM, Kottke TJ, Martin LM, et al. Comparison of apoptosis in wild-type and Fas-resistant cells: chemotherapy-induced apoptosis is not dependent on Fas/Fas ligand interactions. Blood. 1997;90(3):935-943
- Li P, Nijhawan D, Budihardjo I, et. al. Cytochrome c and dATP-dependent formation of Apaf-1/caspase-9 complex initiates an apoptotic protease cascade. Cell. 1997;91(4):479-489. doi:10.1016/s0092-8674(00)80434-1
- Yang Y, Klionksky DJ. Autophagy and disease: unanswered questions. Cell Death Differ. 2020;27(3):858-871. doi:10.1038/s41418-019-0480-9
- Mizushima N, Yoshimori T, Levine B. Methods in mammalian autophagy research. Cell. 2010;140(3):313-326. doi:10.1016/j.cell. 2010.01.028
- Doblado L, Lueck C, Rey C, et al. Mitophagy in Human Diseases. Int J Mol Sci. 2021;22(8):3903. Published 2021 Apr 9. doi:10.3390/ijms22083903
- Wang XZ, Kuroda M, Sok J. et al. Identification of novel stress-induced genes downstream of chop. EMBO J. 1998;17(13):3619-3630. doi.1093/emboj/17.13.3619