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Cell Signaling Technology (CST) の公式ブログでは、実験中に起こると予測される事象や実験のヒント、コツ、情報などを紹介します。

ウェスタンブロットの標準化:正しくローディングコントロールの設定ができていますか?

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研究室の進捗報告会あるいは学位論文発表会で発表するために、これまでの実験ノートからデータを集めています。あなたは興味深い仮説を立て、ウェスタンブロッティングで標的タンパク質を特異的に認識する抗体を使って実験したところ、バンドの分子量は正確で、標的タンパク質の発現は予想通りに変化しています。

さて、発表スライドの用意が終わったところであなたは、発表会ではだれかが必ず、いや家を賭けていいほど間違いなく、ローディングコントロールに関して質問してくるだろうと気づきます。

ウェスタンブロットデータの解釈

新たなウェスタンブロッティング実験を設定したり、文献に掲載されたウェスタンブロッティングデータを解釈したりする際に、ウェスタンブロッティングのバンドの比較には以下の2点に注意する必要があります。

  1. 各レーンにライセートは等量ロードされていますか?
  2. シグナル強度は線形検出範囲にありますか?

サンプル間のばらつきを補正し、等量ロードされていることを担保するために、しばしば、ローディングコントロールとして、β-ActinやGAPDHのようなハウスキーピングタンパク質と呼ばれる細胞内タンパク質のウェスタンブロッティングも同時に行われます。

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ローディングコントロールを用いてウェスタンブロットの標準化を行う際の注意事項 

理論的には、ブロットのハウスキーピングタンパク質の量は細胞数に比例すると考えられますが、データの標準化に1種類のタンパク質しか使わない場合は特に、この考え方は誤った判断に繋がる可能性があります1。1つのローディングコントロールを使うことが一般的ですが、複数使うことでばらつきが小さくなるため、5つのローディングコントロールの使用が最適と言われています。5つのローディングコントロールの使用が最適と言われています 2, 3

ローディングコントロールタンパク質は標的タンパク質よりもはるかに多量に存在することが多いため、同じ希釈率で両者を検出しようとすると、残念ながら、より多量に存在するタンパク質のシグナルがサチュレーションしてしまい、線形検出範囲を超えてしまうことがあります。コントロールバンドがサチュレーションしていると、レーン間の変化を低く見積もる結果となります。こうなると、もはやライセートが等量ロードされているかどうかがわからず、実験結果を間違って解釈してしまう恐れもあるのです。

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また、場合によっては、オーバーローディングやサチュレーションによってバンドが乱れたり、HRP標識抗体が局所的に化学発光試薬を使い切って「焼け焦げた」り、「白抜けした」バンドが観察されることがあります。これはペルオキシダーゼ活性が高すぎることによって生じる副産物で、膜上に茶色の斑点として観察されます。

下図はその現象の極端な例です:

ウェスタンブロット標準化の失敗例、Casp1 (Asp296) の過負荷と飽和。

しかし、ブロットに「奇妙な」バンドや茶色の斑点がないからといって、そのデータが線形検出範囲にあるとは限りません。コントロールバンドが問題なさそうに見えても、サチュレーションしている可能性があるのです2

ローディングコントロールの線形検出範囲の確認

ローディングコントロールと目的のタンパク質が線形検出範囲にあるかを検証するには、同じゲルに一定範囲の段階希釈したサンプルをロードするか、複数のゲルを同時に転写して転写効率のばらつきの度合いを確認する必要があります2, 3特に、発現量の高いローディングコントロールの場合は、シグナルの直線性を担保するために、ライセートのロード量、一次抗体濃度、化学発光の露光時間の検討を行う必要があります。下図は、HNF1とGAPDHについて、直線性のあるシグナルを得るために露光時間を検討した例です。

HNF1A-GAPDH-10-+-83-sec_c.gif

様々な細胞株の抽出物を、HNF1α (D7Z2Q) Rabbit mAb #89670 (左) またはGAPDH (D16H11) XP® Rabbit mAb #5174 (右) を用いてWBで解析しました。2種類の露光時間で得た結果を動画で示しています。

ウェスタンブロッティングのシグナル強度は、検出方法によっても大きく変わります。ECLシグナルをCCDカメラで検出すれば、フィルムよりもダイナミックレンジを広くできます。また、ソフトウェア設定によりサチュレーションしたシグナルを赤色のピクセルとして表示できます。HRP標識二次抗体の代わりに蛍光標識二次抗体を用い、蛍光スキャニングを行えば、サチュレーションしやすいという化学発光固有の性質を回避し、より良好なデータを取得することも可能です。

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こうしたアプローチを採用すれば、少ない希釈系列のサンプルで実験をデザインすることができますが、最新の優れたテクノロジーにアクセスできない場合でも、ロード量を揃えたり、事前にダイナミックレンジの検討実験を行うことで、伝統的なECLとフィルムを使用しても良好なデータを取得することができます。

とはいえ、複数のローディングコントロールを使う実験は、多くの時間と試薬を必要とします。代替の手段として、各サンプルレーンにロードしたトータルタンパク質量の測定があります。複数のローディングコントロールの検出の必要性を回避するという複数のコントロールの概念の、論理的な拡張です。ゲルもしくは転写膜を染色して、各レーンの全バンド 1、あるいは個々のバンド 3 を可視化し、レーン間のタンパク質量のばらつきを予測します。事前に、採用する染色がウェスタンブロッティング実験に影響がないことを確認しておくか、トータルタンパク質量の測定用とウェスタンブロッティング用に別々にゲルを用意しておくことをお勧めします。

よくあるWBの落とし穴を回避

多くの大学院生、ポスドクの皆さんにとって、ウェスタンブロッティングの実験は「ルーティン」に感じられるかもしれません。しかし、ウェスタンブロッティング実験のデータを解釈する時には (どんな実験にも言えることですが)、あらゆる細部に落とし穴が潜むことを肝に銘じてください。とりわけ、サンプル調製、転写条件、一次抗体等の問題を注意深く考慮することで、落とし穴を回避するのに役立ちます2, 4-5

そして、結果を公開する際は、他の人が実験結果を正確に再現できるように、詳細な情報を提供することが大切です。つまり、責任をもってブロットする必要があるということです。

 

参考文献

  1. Eaton SL, Roche SL, Llavero Hurtado M, Oldknow KJ, Farquharson C, Gillingwater TH, Wishart TM (2013) Total protein analysis as a reliable loading control for quantitative fluorescent Western blotting. PLos One 8(8):e72457.
  2. Janes KA (2015) An analysis of critical factors for quantitative immunoblotting. Sci. Signal. 8(371): rs2. 
  3. McDonough AA, Veiras LC, Minas JN, Ralph DL (2015) Considerations when quantitating protein abundance by immunoblot. Am J Physiol Cell Physiol. 308(6):C426-33. 
  4. Ghosh R, Gilda JE, Gomes AV (2014) The necessity of and strategies for improving confidence in the accuracy of western blots. Expert Rev Proteomics. 11(5):549-60. 
  5. Gorr TA, Vogel J. (2015) Western blotting revisited: critical perusal of underappreciated technical issues. Proteomics Clin Appl. 9(3-4):396-405. 
Kenneth Buck, PhD
Kenneth Buck, PhD
細胞生物学を学んだKenは、ラトガース大学で博士号を取得し、その後イェール大学でポスドク研究を行い、再生する神経細胞の細胞運動性に関与する細胞骨格の動態とシグナル伝達機構について学びました。CSTでは、他の科学者と協働してマルチメディアによる科学コミュニケーションを構築しています。ビデオのスクリプトを書いているときや、スタジオにいるとき以外は、Kenの庭ともいえる岩でごつごつしたマサチューセッツ州ノースショアで、同僚と共にマウンテンバイクを乗り回しています。

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