どのような細胞培養のコンタミネーションもこれまでの大変な作業を一瞬のうちに台無しにしてしまいますが、マイコプラズマコンタミネーションは特に大変です。
マイコプラズマは、細胞膜の周りの壁の内微小な細菌です。光顕微鏡で可視化できないだけでなく除去が難しく、ラボ全体に一気に浸潤する力を持っています。その上、マイコプラズマは培養細胞の形態や生理機能に作用し得るため、実験結果に大きな影響を及ぼす可能性があります。したがって、マイコプラズマはただ煩わしいだけでなく、実験の再現性が取れない場合の、大きな原因となり得ます。
マイコプラズマで汚染した細胞が、コンタミネーションのない細胞と比較してどのように見えるかの例を下に示します。
マイコプラズマで汚染したOVCAR8細胞 (左) とコンタミネーションのないA549細胞 (右)
マイコプラズマコンタミネーションの防止方法、その試験の方法、そして残念ながら細胞が汚染してしまった場合どうすべきかについて、下にヒントをまとめました。
マイコプラズマコンタミネーションを予防する
マイコプラズマに対処するための最善の方法は、そもそも汚染を避けることです。コンタミネーションが始まる前に防止するためにすべきこと
- 手袋や清潔な白衣等、適切なPPE (個人用保護具) を常に着用し、白衣は週に1回以上、忘れずに交換しましょう。
- 次に記したような無菌操作を遵守することは、細胞のコンタミネーションを防ぐために大変重要です。
- クリーンベンチや安全キャビネットは整理整頓し、気流を妨げないようにします。
- 培養に用いる器具は、クリーンベンチや安全キャビネットに入れる前に70%エタノールで消毒します。
- プレートやボトルには蓋をして、むやみに解放しないようにします。
- 蓋をしていない容器の上に、手や腕をかざさないようにします。
- 液体のこぼれはすぐに拭き取ります。
- インキュベーターは清潔に保ち、定期的な清掃を実施します。定期的なインキュベーターの清掃には漂白剤を用い、蒸発防止用の水およびその容器は、毎週交換あるいは洗浄し、中の細胞のコンタミネーションを防ぎます。
- マイコプラズマは特に周囲に拡散しやすいため、新たに入手した細胞や、過去にコンタミネーション試験を行なっていない細胞は隔離します。汚染がないことを確認できるまでは、他の細胞に近づけないようにします。
マイコプラズマのコンタミネーションを試験する
マイコプラズマは非常に小さく、観察が困難であるため、検出には信頼できる方法が必要になります。
- 多くの試験キットが市販されていますが、確実な結論を得るために、複数の方法を並行して行うこともあります。試験にかかるコストや結果の待ち時間、研究室で使用可能な機器などによって、適当な方法を決定します。
- 定期的なコンタミネーション試験を行うか、凍結保存用の細胞は複数に分注し、その一部でコンタミネーション試験を行ってください。こうすることで、研究室にはコンタミネーションの無い複数の細胞ストックが保持されることになります。
マイコプラズマのコンタミネーションに対処する
何てこと!細胞のマイコプラズマ汚染が確認されました。どうしたら良いのでしょうか?
- 第一にすべきことは、コンタミネーションが確認された細胞を、他の細胞から隔離することです。汚染したプレートやフラスコを隔離することで、うまくいけば、細胞を救済することができます。
- コンタミネーション試験キットと同様、複数の除染用抗生物質が市販されています。Plasmocinは最も一般的に用いられる試薬の一つで、25 μg/mLで培養液に加え、1-2週間培養します。
- 除染操作が終わった後、抗生物質を取り除き、細胞をさらに1-2週間培養します。この後、再度コンタミネーション試験を行い、除染が成功したかどうかを確認します。
除染操作後にもマイコプラズマが検出された場合は、より長期間の除染操作を試みる、などの対処法が考えられます。長期間にわたる除染操作が必要な場合は、それに費やすコストや待機時間が、除染すべき細胞の価値・重要性に見合うかどうか十分に考慮し、別の抗生物質を使用するべきか、細胞を廃棄すべきかの決断をする必要があります。
コンタミネーションを寄せ付けない
「コンタミネーションが起こった」という失敗を経験することで、コンタミネーションの予防の重要性に気づくことができ、また、同じ失敗を繰り返さないための動機付けとなります。無菌操作を慎重に行い、細胞をマイコプラズマ等のコンタミネーションから守ることが、細胞を健康に保ち、より信頼性の高い実験結果を得るために役立ちます。
その他のリソース
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