CSTブログ: Lab Expectations

Cell Signaling Technology (CST) の公式ブログでは、実験中に起こると予測される事象や実験のヒント、コツ、情報などを紹介します。

マイコプラズマのコンタミネーション:予防・検査・対処のためのステップ

詳細を読む
投稿一覧

どのような細胞培養のコンタミネーションもこれまでの大変な作業を一瞬のうちに台無しにしてしまいますが、マイコプラズマコンタミネーションは特に大変です。

マイコプラズマは、細胞膜の周りの壁の内微小な細菌です。光顕微鏡で可視化できないだけでなく除去が難しく、ラボ全体に一気に浸潤する力を持っています。その上、マイコプラズマは培養細胞の形態や生理機能に作用し得るため、実験結果に大きな影響を及ぼす可能性があります。したがって、マイコプラズマはただ煩わしいだけでなく、実験の再現性が取れない場合の、大きな原因となり得ます。 

マイコプラズマで汚染した細胞が、コンタミネーションのない細胞と比較してどのように見えるかの例を下に示します。

マイコプラズマが混入したOVCAR8細胞 コンタミネーションのないA549細胞

マイコプラズマで汚染したOVCAR8細胞 (左) とコンタミネーションのないA549細胞 (右)

マイコプラズマコンタミネーションの防止方法、その試験の方法、そして残念ながら細胞が汚染してしまった場合どうすべきかについて、下にヒントをまとめました。 

マイコプラズマコンタミネーションを予防する

マイコプラズマに対処するための最善の方法は、そもそも汚染を避けることです。コンタミネーションが始まる前に防止するためにすべきこと

  1. 手袋や清潔な白衣等、適切なPPE (個人用保護具) を常に着用し、白衣は週に1回以上、忘れずに交換しましょう。
  2. 次に記したような無菌操作を遵守することは、細胞のコンタミネーションを防ぐために大変重要です。
    • クリーンベンチや安全キャビネットは整理整頓し、気流を妨げないようにします。
    • 培養に用いる器具は、クリーンベンチや安全キャビネットに入れる前に70%エタノールで消毒します。
    • プレートやボトルには蓋をして、むやみに解放しないようにします。
    • 蓋をしていない容器の上に、手や腕をかざさないようにします。
  3. 液体のこぼれはすぐに拭き取ります。
  4. インキュベーターは清潔に保ち、定期的な清掃を実施します。定期的なインキュベーターの清掃には漂白剤を用い、蒸発防止用の水およびその容器は、毎週交換あるいは洗浄し、中の細胞のコンタミネーションを防ぎます。
  5. マイコプラズマは特に周囲に拡散しやすいため、新たに入手した細胞や、過去にコンタミネーション試験を行なっていない細胞は隔離します。汚染がないことを確認できるまでは、他の細胞に近づけないようにします。

マイコプラズマのコンタミネーションを試験する

マイコプラズマは非常に小さく、観察が困難であるため、検出には信頼できる方法が必要になります。

  1. 多くの試験キットが市販されていますが、確実な結論を得るために、複数の方法を並行して行うこともあります。試験にかかるコストや結果の待ち時間、研究室で使用可能な機器などによって、適当な方法を決定します。
  2. 定期的なコンタミネーション試験を行うか、凍結保存用の細胞は複数に分注し、その一部でコンタミネーション試験を行ってください。こうすることで、研究室にはコンタミネーションの無い複数の細胞ストックが保持されることになります。

マイコプラズマのコンタミネーションに対処する

何てこと!細胞のマイコプラズマ汚染が確認されました。どうしたら良いのでしょうか?

  1. 第一にすべきことは、コンタミネーションが確認された細胞を、他の細胞から隔離することです。汚染したプレートやフラスコを隔離することで、うまくいけば、細胞を救済することができます。
  2. コンタミネーション試験キットと同様、複数の除染用抗生物質が市販されています。Plasmocinは最も一般的に用いられる試薬の一つで、25 μg/mLで培養液に加え、1-2週間培養します。 
  3. 除染操作が終わった後、抗生物質を取り除き、細胞をさらに1-2週間培養します。この後、再度コンタミネーション試験を行い、除染が成功したかどうかを確認します。

除染操作後にもマイコプラズマが検出された場合は、より長期間の除染操作を試みる、などの対処法が考えられます。長期間にわたる除染操作が必要な場合は、それに費やすコストや待機時間が、除染すべき細胞の価値・重要性に見合うかどうか十分に考慮し、別の抗生物質を使用するべきか、細胞を廃棄すべきかの決断をする必要があります。

コンタミネーションを寄せ付けない

「コンタミネーションが起こった」という失敗を経験することで、コンタミネーションの予防の重要性に気づくことができ、また、同じ失敗を繰り返さないための動機付けとなります。無菌操作を慎重に行い、細胞をマイコプラズマ等のコンタミネーションから守ることが、細胞を健康に保ち、より信頼性の高い実験結果を得るために役立ちます。

その他のリソース

下のブログ投稿でその他のラボでのヒントをお読みください。

Michelle Graham
Michelle Graham
Michelleは、Cell Signaling Technology (CST) の検証システムコアのグループリーダーの1人で、CST R&Dチームが使用する細胞株やライセート、固定細胞調製用品の標準的な在庫の管理と維持を担当しています。Michelleとそのチームは、健全で汚染のないサンプルの維持に重点を置き、細胞および組織のライセートの作製、過剰発現ベクターとsiRNAのトランスフェクション、ホルムアルデヒドやメタノールを用いた固定などを日常的に行っています。社内在庫の在庫切れをなくすために常に100%の在庫率を維持し、研究に必要な最高品質のサンプル材料がいつでも使用できるようにしています。

最近の投稿

500種類以上の抗体を提供:Simple Western検証済みCST抗体で発見を加速

2022年以来、Cell Signaling Technology (CST) はBio-Techne社と協働し、Bio-Techneブランドである...
Chris LaBreck, PhD2024年10月23日

Menin-KMT2A阻害剤:急性骨髄性白血病 (AML) の有望な治療法

成人の急性白血病の約80%を占める急性骨髄性白血病 (AML) は、クローン性造血幹細胞および前駆細胞の無秩序な...
Homa Rahnamoun, PhD2024年10月16日

CST創立25周年:抗体と革新を支え続けた四半世紀

今年、CSTは創立25周年を迎えます。この重要な節目を祝うとともに、研究用試薬業界がこの四半世紀でどのように...
Alexandra Foley2024年9月24日
Powered by Translations.com GlobalLink Web SoftwarePowered by GlobalLink Web