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Cell Signaling Technology (CST) の公式ブログでは、実験中に起こると予測される事象や実験のヒント、コツ、情報などを紹介します。

迅速なT細胞の活性化や増殖を活用してがん免疫学研究を加速

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がん免疫療法の成功により、がんを排除するための新たな戦略が登場しました。しかし、いまだにがんを一昔前の疾患と考えることはできません。自己免疫疾患やサイトカインストームなどの副作用を引き起こすことなく、免疫系をがん細胞に対して誘導する新たなアプローチを開発するためには、免疫系がどのように活性化し制御されるのかを理解する必要があります。

しかし、免疫系は非常に複雑な生物学的ネットワークです。様々な細胞タイプからなり、互いに協調しながら、膨大な数の自己抗原と非自己抗原を区別して病原体を除去し、また自己組織に対して免疫応答を示さないように自己制御しています。この複雑なシステムの絶妙なバランスを理解することは、想定していた以上に困難であり、それらを理解し安全で効果的な治療法の開発に役立つ、信頼できるツールが必要とされます。

T細胞 (Tリンパ球とも呼ばれる白血球) を分子生物学的および細胞生物学的に解明した数々の発見は、チェックポイント阻害剤や養子細胞療法、がんワクチンなどの新たながん免疫療法につながっています1。研究者はしばしば、T細胞の研究をin vitroで行うために、求める研究成果に応じた異なる手法を用いてT細胞の活性化と増殖を刺激する必要があります: 

  • 長期的なT細胞活性化: 長期的なT細胞活性化は、T細胞の増殖や疲弊、分化の研究にしばしば用いられます。また、大きな細胞集団が必要な際にも役立ちます。 
  • 短期的なT細胞活性化:急性のT細胞活性化は、Zap-70のリン酸化やERKのリン酸化、カルシウム流出、転写の変化など、活性化の数秒後から数分以内に発生する細胞イベントの研究に用いられます。

基本の復習:T細胞の活性化とは?

現在のがん免疫学療法の多くは、T細胞を用いて新生悪性細胞を攻撃します。治療は、単独または他のがん免疫療法や化学療法などの従来の治療法と組み合わせて用いることができます。T細胞がどのように活性化されるのかについての知識や、がんが免疫系の回避に用いるメカニズムなどを含めたT細胞と他の免疫細胞との相互作用についての理解を深めることが、新たな治療法の開発につながります。

In vivoでは、T細胞は、主要組織適合性 (MHC) 分子を介してペプチド抗原をT細胞に提示する樹状細胞などの抗原提示細胞 (APC) と相互作用することにより活性化します2。 T細胞受容体複合体は、T細胞受容体 (TCR) そのものと、シグナル伝達を担うCD3鎖を含む様々なITAM (Immunoreceptor tyrosine-based activation motif) で構成されます。TCRが、抗原提示細胞の表面のペプチド-MHC複合体を認識すると、CD3受容体の細胞質内側の末端に存在するITAMのチロシンがリン酸化されます。また、CD28のような共刺激受容体も、T細胞の活性化を維持し、不応性となるのを防いでいます。また、活性化サイトカインは、二次的および三次的なシグナルを提供することにより、T細胞の活性化を調節することができます。この共刺激受容体によって増幅された複合的なTCRシグナルにより、T細胞は活性化します。この時点で、抗原特異的なT細胞集団は、急速に増殖および分化します。

関連リソース:インタラクティブなT細胞受容体シグナル伝達パスウェイ

CD3とCD28のアゴニスト抗体は、研究室ではT細胞活性化にしばしば用いられています。これらは、TCR/CD3複合体とCD28共刺激性受容体両方へのリガンド結合を模倣し、T細胞の活性化と増殖につながる下流のシグナル伝達を引き起こします。

T細胞の活性化と増殖に用いるAnti-CD3/CD28抗体のキット

長期的なT細胞活性化

長期的なT細胞活性化は、より大量の活性化T細胞が必要な際や、分化や疲弊のような数日間にわたって起こる生物学的プロセスを研究する際に用いられます。Human Anti-CD3/CD28 T Cell Activation Kit #70976は、エンドトキシンおよびアジ化物フリーの検証済み抗体であり、数日間にわたって培養するT細胞の活性化に適しています。

Human Anti-CD3/CD28 T Cell Activation Kit #70976で処理された、Jurkat細胞のウェスタンブロット解析

Jurkat細胞の抽出物をPhospho-SLP-76 (Ser376) (D7S1K) Rabbit mAb #92711 (上)、SLP-76 (E4N7E) Rabbit mAb #25361 (中)、またはβ-Actin (D6A8) Rabbit mAb #8457 (下) を用いて、未処理 (レーン1)、またはHuman Anti-CD3/CD28 T Cell Activation Kit #70976 処理 (30分間:レーン2) してウェスタンブロットで解析しました。

 

より迅速かつワンステップのT細胞活性化

T細胞のシグナル伝達における初期のイベントは、活性化の数秒後から数分以内に発生するため、通常は、数日間かけて行う従来の長期的なT細胞活性化手法では研究できません。このようなイベントの測定にご興味がある、あるいは、より短い実験時間で実施できる迅速な活性化キットをお探しの場合は、Rapid-Act T Cell Activation Kit (Human, Anti-CD3/CD28) #70976または Rapid-Act T Cell Activation Kit (Mouse, Anti-CD3/CD28) #86772をお選びください。活性化に用いるRapid-Act法は、T細胞を刺激するタイムコース実験の微細なコントロールを可能にし、活性化過程の初期に発生するシグナル伝達イベントを理解するためのメカニズム解析において特に有用です。

Rapid-Act T Cell Activation Kit (Human, Anti-CD3/CD28) で処理したフローサイトメトリー解析末梢血単核細胞ヒト末梢血単核球細胞を未処理、Phospho-SLP-76 (Ser376) (E3G9U) XP® Rabbit mAb (Alexa Fluor® 488 Conjugate) #47876 (上段) または同濃度のRabbit (DA1E) mAb IgG XP® Isotype Control (Alexa Fluor® 488 Conjugate) #2975 (下段) を用いてRapid-Act T Cell Activation Kit (Human, Anti-CD3/CD28) #88179) で処理 (15分間:右カラム) し、CD3 (UCHT1) Mouse mAb (APC Conjugate) #19881と共染色してフローサイトメトリーで解析しました。

従来のキットと同様に、これらのキットにはT細胞の活性化に必要なエンドトキシンおよびアジ化物フリーの検証済み抗体が含まれていますが、CD3抗体とCD28抗体は、あらかじめ組み合わせた単一の抗体カクテルとして提供しています。 

 

RAPID-ACT T細胞活性化キット

 

たった1回のインキュベーションで細胞が刺激できるこの迅速なプロトコールは、インキュベーションと洗浄にかかる時間を最小限に抑え、活性化のタイムコース実験を数分レベルで実施することを可能にし、T細胞の増殖を刺激する他の従来の方法と比べて、高い柔軟性を有しています。さらに、ダイナビーズを用いてT細胞を活性化するプロトコールでは、目詰まりによってデータが損なわれ、活性化効率が低下しないように、フローサイトメトリー解析の前にサンプルからビーズを除去するステップの追加が必要であり、より実験に時間がかかります。

活性化からサンプル解析までの時間の短縮は、初期のイベントまたは短い間だけ生じるシグナル伝達イベントの測定を行う際に、極めて重要になります。CST® Rapid-Act T Cell Activationキットを用いて活性化されたT細胞は、T細胞の増殖および疲弊アッセイにも使用可能であり、免疫応答の初期および後期に生じる生物学的プロセスを調査することができます。

Cell Stimulation Cocktail (with Protein Transport Inhibitors) (500X) #23318などの細胞刺激カクテルとPMA (phorbol 12-myristate 13-acetate) およびIonomycinを用いた、化学的な急性のT細胞活性化の誘導はどうでしょうか?この方法で細胞を処理すると、T細胞受容体を介さずに下流のシグナル伝達カスケードを活性化するため、実際のin vivoにおける生物学を反映していない可能性があります。 

T細胞活性化の次に行うこと

T細胞を活性化したら、フローサイトメトリー免疫ブロット法などのアプリケーションを用いて次の実験を行います。ウェスタンブロットおよびフローサイトメトリー用のCST抗体は、Hallmarks of Antibody Validationに従って、CSTの科学者によりアプリケーションごとに厳密かつ独立して検証されているため、研究者は細胞ベースのアッセイを用いて答えを導き出すことに集中できます。CSTが提供する、信頼できる検証済みツールにより、免疫系を刺激し、がん細胞を識別して攻撃するという革新的な方法を簡単に特定できるようになりました。これにより、がんが過去の疾患となる日が近づいてきています。 

その他のリソース

 

参考文献 

  1. Waldman AD, Fritz JM, Lenardo MJ. A guide to cancer immunotherapy: from T cell basic science to clinical practice. Nat Rev Immunol. 2020;20(11):651-668. doi:10.1038/s41577-020-0306-5
  2. Shah K, Al-Haidari A, Sun J, Kazi JU. T cell receptor (TCR) signaling in health and disease. Signal Transduct Target Ther. 2021;6(1):412. Published 2021 Dec 13. doi:10.1038/s41392-021-00823-w
    23-CAN-85595dk
    G06
Andrea Tu, PhD
Andrea Tu, PhD
Kallidus社グループのScientific Marketing ManagerであるAndrea Tu博士は、最新の科学的動向や開発の知識を得るのに夢中です。博士は、カリフォルニア大学バークレー校で分子細胞生物学の博士号を取得し、TGF-βシグナル伝達経路におけるSmadの翻訳後修飾について研究しました。Andrea博士は、カリフォルニア大学サンディエゴ校、ソーク研究所、スタンフォード大学、Agilent Technologies社、Bio-Techne社で20年にわたり、研究開発、営業サポート、マーケティングなどの技術職に携わってきました。

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