前回のブログでは、急速に伸びているがん免疫療法の人気と、それが悪性腫瘍を根絶するために私たち自身の免疫系をどのように利用しているかについてお話しました。
私たちは、中和モノクローナル抗体を含む免疫チェックポイント阻害の利点を、がん細胞の正体を明らかにし、がん細胞を免疫攻撃に対して脆弱にすることを可能にする戦略として議論しました。実際、この戦略に基づいたがん免疫療法は、2013年に「今年のブレークスルー」に選ばれるほど成功しています。
しかし、すべての患者において免疫チェックポイント阻害が有効ではありません。そのため、改善の余地が未だあり、代替的なアプローチや患者の層別化、与えられた治療の予後をより正確に予測するためのバイオマーカーの改善などが急務となっています。
それでは、がんに取り組むための免疫療法戦略をさらに発展させるためには、どのような点が必要でしょうか?
1. 受容体アゴニスト
中和モノクローナル抗体は、通常は免疫応答を停止させるCTLA-4やPD-1などの抑制性受容体に対するアンタゴニストとして大きな成功を収めていますが、その一方で、受容体アゴニストは共刺激性相互作用を増強し、すでに進行中の応答を増強することもあります。
いくつかの例としては、OX40 (CD134) (1、2) および4-1BB (CD137) (3) に対するアゴニスティックモノクローナル抗体、腫瘍壊死因子 (Tumor Necrosis Factor:TNF) 受容体スーパーファミリーのメンバーが挙げられ、これらはT細胞活性化後に強力な共刺激に関わるシグナルを刺激します。特にOX40は、T細胞の分化および細胞溶解機能を促進、がん免疫の強化につながります (2)。
微生物起源の免疫賦活剤 (特定の抗原に対する免疫応答を増強する物質) を含むがん免疫療法は、歴史的に広範囲の免疫刺激効果を持つものとして認識されてきましたが、これは現在ではToll様受容体 (Toll-Like Receptor:TLR) の活性化によるものとされています (4)。TLRは、病原体に関連した異なる分子パターンを認識し、自然免疫応答において不可欠な役割を果たします。
このように、樹状細胞を介してがん抗原提示を強化することに役立つと考えられる病原体由来または合成TLRアゴニストの配列を含む戦略は、現在進行中の治験で採用されており、ある程度の成功を得ていると考えられます (4、5)。
2. 養子細胞移植
1960年代から1970年代に至るまでの長い間、研究者たちは養子細胞移植 (Adoptive Cell Transfer:ACT) について検討していました。免疫療法という観点から言えば、ACTは、宿主の腫瘍塊から分離され、劇的な増殖を促すために生体外で予め調製され、活性化 (IL-2のような刺激性のサイトカインの導入を介して) されたがん浸潤性T細胞の移植 (ドナーと移植患者が同一の場合も有り) を含みます。この細胞は増殖して、腫瘍を全滅させます。ACTの前に、宿主が化学療法や放射線による免疫細胞の切除を受けたていた場合、この増殖により病態は著しく改善されます。ACTの概念は目新しいものではありませんが、遺伝子操作されたT細胞受容体 (T Cell Receptor:TCR) やキメラ抗原受容体 (Chimeric Antigen Receptor:CAR) を持つT細胞 (CAR-T細胞) を用いたアプローチにより、遥かに優れたがん抗原の認識と特異性を達成するためのいくつかの顕著な進歩が成し遂げられています (6、7)。
遺伝子組み換えTCRの設計は、抗原認識ドメインを構築する特異的TCRαおよびβ鎖の発現を介したT細胞の特異性を微調整することに基づいています。がん特異的αおよびβ鎖は、同定、単離され、形質導入ベクターにクローンされた後、これらはT細胞中に送達されて、それぞれのがん抗原に対する非常に特異性の高い細胞を生成します。
CARは、抗体様抗原結合ドメイン (典型的には抗体に由来する) を介して抗体認識を遂行します。これは、CARをT細胞に固定するための膜貫通ドメインとCD28やCD137などのような共刺激シグナルのためのドメインを含む1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメインとを組み合わせたものです。CAR-T細胞のユニークな特徴は、設計されたTCRを発現するT細胞とは異なり、MHC (主要組織適合性複合体) 分子による抗原処理および提示に依存せず、がん細胞の表面に発現することが多い糖鎖や糖脂質などの非タンパク質抗原を認識することができる点です。この方法で設計されたCARは、有望ながん縮小作用をもたらします (7)。
3. 抗がんワクチン
免疫チェックポイントと養子細胞移植を含む治療法は、前例のない客観的な奏効率 (腫瘍体積の部分的または完全な減少が観察される) を治療患者に示してきましたが、がん反応性のワクチン導入に基づく免疫療法は、FDAに承認されたワクチンが無く、現在のところ十分な結果が得られていません。
免疫療法におけるワクチンとは、一般的にはがん関連抗原またはがん関連抗原 (Tumor Associated Antigens:TAA) を抗原提示を助ける免疫賦活剤と一緒に宿主に送達することを意味します。このようなの治療法が、単独で用いると特に有効では無くなってしまう理由の一つとして、TAAが必ずしも「新しい抗原」では限らないことが考えられます。さらに、この抗原に特異的な内因性T細胞は、PD-1、CTLA-4、LAG-3などの抑制性受容体を発現している可能性が高く、「アレルギー性」 または「疲弊した (抗原に応答しない)」 状態になっています。このことは、がんの微細環境が、腫瘍から分泌される免疫抑制分子とその近傍におけるPD-L1発現の上昇により、T細胞増殖に好ましくない環境であることにより強化されています。したがって、このような治療法は免疫チェックポイント (例えばPD-1やPD-L1) 、免疫賦活剤であるTLRアゴニストおよび樹状細胞による抗原の処理や提示を促進する放射線療法などとの併用療法から大きな利点を得ることができます (8)。
4. 併用療法
抗がんワクチンは、がん細胞の縮小にはあまり好ましく無い影響を与えますが、上述した他の免疫療法を単独で行う場合よりも効果的です。しかしながら、これらの免疫療法は、一部の患者でしか測定できるほどの反応を引き起こさな傾向があり、併用療法の必要性が強調されています。
併用療法の中には、2種類の中和抗体を組み合わせたり、チェックポイント遮断に加えて免疫賦活剤や受容体アゴニストを使用したりするものがあります。
例えば、今年5月のアメリカ免疫学会議 (American Association of Immunologists) で、Jedd Wolchok博士は、進行性の転移性黒色腫におけるがん組織量の軽減において、CTLA-4とPD-1阻害性の受容体の両方を標的とした併用チェックポイント遮断薬は、CTLA-4遮断薬単独の11%と比較して、61%というはるかに優れた奏効率をもたらすことを報告しました (9)。さらに、奏効率を改善しただけでなく、この方法は高い耐久性を示しました。この研究は、New England Journal of Medicine誌5月号に掲載されました。
前臨床研究では、共刺激性のアゴニスティック抗体 (例:CD137を標的とする) とチェックポイント阻害剤を組み合わせることで優れた抗悪性腫瘍効果が得られることも示されています (10) が、これは少なくとも部分的には、Tリンパ球を中心として適応免疫応答を再構築するだけでなく、CD8陽性T細胞と同様の細胞傷害効果を媒介するNK細胞のような自然免疫に関与する因子を動員することに起因しています (11、12)。
がん免疫療法の進歩とそのために費やされた微調整の努力は、とても大きな功績であることを、あなたが理解されることを望んでいます。そして、基礎および橋渡し研究の両方の影響が、この壮大な進歩の中核をなしていることをご理解いたければと思います。そして、まだやるべきことがたくさんありますが、がんに関して言えば免疫療法は、有効な手段であることは間違いありません。
がん免疫の重要な標的タンパク質についてまとめましたので、こちらもご活用ください。免疫療法ががんと闘うためにどのように使われているかを学ぶためには、こちらをご確認ください。
CSTのがん免疫学に関するパンフレットは、こちら。
参考文献
- Weinberg AD, et al. (2011) Science gone translational: the OX40 agonist story Immunol Rev 244(1), 218-31.
- Linch SN, et al. (2015) OX40 Agonists and Combination Immunotherapy: Putting the Pedal to the Metal Front Oncol 16;5:34 eCollection 2015.
- Yonezawa A, et al. (2015) Boosting Cancer Immunotherapy with Anti-CD137 Antibody Therapy Clin Cancer Res 21(14), 3113-20.
- Galluzzi L, et al. (2012) Trial Watch: Experimental Toll-like receptor agonists for cancer therapy Oncoimmunology 1(5), 699-716.
- Vacchelli E, et al. (2012) Trial Watch: FDA-approved Toll-like receptor agonists for cancer therapy Oncoimmunology 1(6), 894-907.
- Rosenberg SA, Restifo NP. (2015) Adoptive cell transfer as personalized immunotherapy for human cancer Science 348(6230), 62-8.
- Sharpe M, Mount N. (2015) Genetically modified T cells in cancer therapy: opportunities and challenges Dis Model Mech 8(4), 337-50.
- Kissick HT, Sanda MG. (2015) The role of active vaccination in cancer immunotherapy: lessons from clinical trials Curr Opin Immunol 35, 15-22.
- Postow MA, et al. (2015) Nivolumab and ipilimumab versus ipilimumab in untreated melanoma N Engl J Med 372(21), 2006-17.
- Wei H, et al. (2014) Dual targeting of CD137 co-stimulatory and PD-1 co-inhibitory molecules for ovarian cancer immunotherapy Oncoimmunology 3:e28248. eCollection 2014.
- Houot R, et al. (2012) Boosting antibody-dependant cellular cytotoxicity against tumor cells with a CD137 stimulatory antibody Oncoimmunology 1(6), 957-8.
- Galluzzi L, et al. (2014) Classification of current anticancer immunotherapies Oncotarget 5(24), 12472-508.