D先生の2年生の英語のクラスでは、タブーやオフリミットのトピックはほとんどありませんでした。クラスのプロジェクトでさえも私たちが本当に興味があるトピックを選ぶように指導し、時にはD先生が全く知らないことについてD先生に教えることにもなりました。しかし、プレゼンテーションスライドに素晴らしいビジュアルイメージが含まれている場合、その内容を言葉でうまく説明できるように準備しておかなければなりませんでした。黄斑変性症が、彼の健康な目を蝕んでいたからです。
ときどきD先生は、目のサイズが3倍ほど大きく見える虫眼鏡のような眼鏡を試すことがありましたが、あまり効果はありませんでした。彼によると、彼の視力は「良い」方の眼が20/400 vision、悪い方が20/800 visionでした。視力の弱さが彼の気力を削いでいるようには見えませんでしたが、黄斑変性に苦しむ多くの人と同様に、徐々に光が失われていく現実を受け入れていました。
近年、D先生や彼のような人々が待ちに待った良いニュースがあるように思えました。研究者らは、加齢性黄斑変性症 (AMD) の重要な因子としてインフラマソームシグナル伝達の関与を見出し、そのなかでもNLRP3タンパク質に注目しました (1-3)。これは、外界が徐々に見えにくくなる疾患に対する治療法を見つけるという目標に一歩近づいたことを意味します。しかし、最近発表されたScientific Reportsの論文によれば、これらの研究の妥当性は疑問視されており、その原因は間違いなく抗体にあるだろうと疑われています。
AMDには、滲出型と萎縮型の2つのタイプがあります。滲出型AMDについては、疾患のメカニズムが解明されているため、適切な治療法が確立されています (4)。一方、萎縮型AMDは網膜色素上皮 (RPE) の崩壊を伴うことは知られているものの、その発症メカニズムには分かっていない点が多く、治療法の開発を難しくしています (5)。RPEにおいてNLRP3の活性化と発現亢進が観察されていることから、NLRP3が変性因子であろうという仮説が有力となっています。しかし、この仮説と矛盾するデータも発表されていることから、論文著者らは、抗体の感受性が矛盾の原因となっている可能性を疑いました (6-12)。主要な生物資源の認証を必要とする新しいNIHのガイドラインを鑑み、論文著者らはこの仮説を改めて検証する必要があると考えました。
彼らは、NLRP3が発現していることが充分に確立されているモデルを使用して、市販抗体を検証することから始めました。ポジティブコントロールモデルとノックアウトマウスを用いてNLRP3誘発刺激に応答したアップレギュレーションを試験することによって、すべての抗体の特異性を評価しました。さらに、CST抗体のみ、抗体の希釈系列を用いた感受性の評価を行いました。これは、他のすべての抗体が特異性試験をパスしなかったか、検出感度が十分でなかったからです。CSTの検証済み抗体を使用して、様々なNLRP3誘発刺激で処理したヒトRPE細胞株やプライマリー胎児RPE細胞におけるNLRP3発現を調べた結果、これらのモデルではNLPR3タンパク質が発現していないことが示され、NLRP3がAMDに関与する因子である可能性は低いことが示唆されました (13)。
まさに今、再現性は大きな問題になっています。このような恐怖物語を聞いたことは間違いなくあると思いますが、ご自身の実験に対し難しい疑問を投げかけたことはありますか?お手元の試薬が必ず機能すると自信を持って言えますか?その自信はどこから来るものですか?最も最新の報告は悲喜こもごもでした。当社の抗体が試験に合格しました。これも、私たちの検証試験の厳しい基準を満たした抗体だったからこそと確信しています。しかし、この良いニュースは、一方で悪い知らせでもあります。研究者が失敗に行き当たるのを目にするのは辛いことです。それにも増して治療法の到来を待つD先生のような患者さんのことを考えると、身をつまされる思いです。
参考文献
- Doyle, S.L. et al. NLRP3 has a protective role in age-related macular degeneration through the induction of IL-18 by drusen components. Nat Med 18, 791–798, https://doi.org/10.1038/nm.2717 (2012).
- Doyle, S.L. et al. IL-18 attenuates experimental choroidal neovascularization as a potential therapy for wet age-related macular degeneration. Sci Transl Med 6, 230ra244, https://doi.org/10.1126/scitranslmed.3007616 (2013).
- Tarallo, V. et al. DICER1 loss and Alu RNA induce age-related macular degeneration via the NLRP3 inflammasome and MyD88. Cell 149, 847–859, https://doi.org/10.1016/j.cell.2012.03.036(2012).
- Rosenfeld, P. J. et al. Ranibizumab for Neovascular Age-Related Macular Degeneration. N Eng J Med 355, 1419–1431, https://doi.org/10.1056/NEJMoa054481 (2006).
- Deangelis, M. M., Silveira, A. C., Carr, E. A. & Kim, I. K. Genetics of age-related macular degeneration: current concepts, future directions. Semin Ophthalmol 26, 77–93, https://doi.org/10.3109/08820538.2011.577129 (2011).
- Anderson, O. A., Finkelstein, A. & Shima, D. T. A2E induces IL-1ss production in retinal pigment epithelial cells via the NLRP3 inflammasome. PLoS One 8, e67263, https://doi.org/10.1371/journal.pone.0067263 (2013).
- Gelfand, B. D. et al. Iron Toxicity in the Retina Requires Alu RNA and the NLRP3 Inflammasome. Cell Rep 11, 1686–1693, https://doi.org/10.1016/j.celrep.2015.05.023 (2015).
- Shi, G. et al. Inflammasomes Induced by 7-Ketocholesterol and Other Stimuli in RPE and in Bone Marrow–Derived Cells Differ Markedly in Their Production of IL-1b and IL-18. IOVS 56, 1658–1664, https://doi.org/10.1167/iovs.14-14557 (2015).
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- Kosmidou C. et al. Issues with the Specificity of Immunological Reagents for NLRP3: Implications for Age-related Macular Degeneration. https://doi.org/10.1038/s41598-017-17634-1 (2018)