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ウイルス感染におけるオートファジーと小胞体ストレスの役割

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ウイルス感染時の小胞体ストレスとオートファジーの制御は、ウイルスと宿主の生存のバランスを保つための重要なファクターです。このシリーズでは、ウイルスやウイルス由来のタンパク質への細胞応答に関与するパスウェイを概説します。コロナウイルスSARS-CoVや SARS-CoV-2の感染は、肺胞や気管支上皮細胞の広範な損傷を伴う重篤な肺の障害や、肺外の損傷の原因となります。

ウイルス (SARS-CoV-2) 感染における様々な細胞死の役割については、こちら投稿をご覧ください

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コロナウイルスの複製は小胞体 (ER) に大きく依存しており、これによってウイルスの膜型タンパク質のプロセシングが行われます。よって、ウイルス感染が小胞体ストレスの原因となり、小胞体ストレス応答 (UPR) を引き起こします。UPRは主に、PERK経路、IRE1a経路、ATF-6の3つの経路の活性によって制御されています。これらの経路の活性化は、異常に折り畳まれたタンパク質に結合して修復するERシャペロンタンパク質BiPによって制御されています。異常に折り畳まれたタンパク質の蓄積によりBiPがPERKやATF-6から解離し、これらが活性化します。活性型PERKはThr980がリン酸化され、eIF2aのSer51をリン酸化します。ほとんどのmRNAは、これによって翻訳が抑制されますが、この経路の重要な転写因子ATF-4は、翻訳の変化により発現が誘導されます。コロナウイルスは、転写因子ATF-6の活性化を誘導します。また、小胞体ストレスによってBiPが解離することでATF-6はゴルジ体に移行し、プロテアーゼによって活性化されます。BiPによる異常に折りたたまれたタンパク質の蓄積によって、IRE1aが直接的に活性化されます。活性化されたIREaはXBP1 mRNAの選択的スプライシングを誘導します。選択的スプライシングを受けたXBP1 (XBP-1s) は転写因子として機能し、ストレス応答遺伝子の発現を誘導します。これらの経路によってCHOPやGADD34などのストレス応答遺伝子の転写が誘導されます。これらが協調的に機能して細胞死やオートファジーなどの細胞応答を制御します。

オートファジーは、凝集したタンパク質、損傷したオルガネラ、細菌やウイルス性の病原体など、細胞成分を分解する異化作用のプロセスです。オートファジーのプロセスで、分解の標的となる成分は、オートファゴソームと呼ばれる二重膜構造に取り込まれ、これがリソソームに融合して分解されます。オートファジーは、ウイルス感染や免疫の制御に非常に重要なプロセスであることが分かってきました。コロナウイルス感染におけるオートファジーの正確な役割はまだ明らかにされていませんが、ウイルスの促進と抑制の両方に寄与している可能性があります。抗マラリア薬であるクロロキンとヒドロキシクロロキンは、オートファゴソームとリソソームの融合に干渉し、オートファジーを阻害します。また、これらの薬剤は、エンドソームの酸性化を防ぐことでSARS-CoVの細胞侵入を抑制します。RNAウイルスは、自身の複製と放出を促進するため、オートファジーを抑制することが報告されていますが、多くの場合、上記のUPRプロセスによってオートファジーは活性化されます。通常、オートファジーのプロセスの観察は、LC3で染色されるオートファゴソームの蓄積をモニタリングします。オートファジーのプロセスでLC3はLC3-IからLC3-IIに変換され、脂質が共有結合することでオートファゴソーム膜に組み込まれ、様々な分解標的複合体の受容体として機能します。オートファジーは、エネルギー感知酵素AMPKmTORC1の拮抗的な活性によって制御されています。この2つのキナーゼは、オートファジーキナーゼULK1に対して反対の作用をもち、AMPKはULK1を活性化し、mTORC1はULK1を阻害します。AMPKはULK1のSer555とSer317、mTORC1はULK1のSer757をリン酸化します。ULK1は一連のオートファジータンパク質をリン酸化し (Atg13のSer355、Atg14のSer29、Beclin-1のSer15、Beclin-1のSer30など)、 オートファゴソーム形成と成熟化を促進します。また、mTORC1は転写因子TFEBのSer211とSer122をリン酸化して抑制し、リソソームの生合成にも関与しています。SARS 3aによるリソソームの損傷はTFEBを活性化します。いくつかの研究成果から、mTORC1を阻害してオートファジーを促進することで、呼吸器コロナウイルスに対する抗ウイルス効果が得られることが示唆されています。

ウイルス感染への応答には小胞体ストレスやオートファジー経路の活性化が関与し得ることが分かっており、これらがウイルス毒性や宿主組織への損傷に重要な役割を果たします。これらの経路は高度にクロストークしていますが、これらの経路を解明するための新しい試薬の出現が、より理解に役立つものと期待されています。これらの応答を制御する、新規の治療薬の役割が非常に注目されています。

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Gary Kasof, PhD
Gary Kasof, PhD
Gary Kasof博士は抗体開発に携わるシニアリサーチフェローで、Cell Signaling Technologyに入社して17年になります。細胞死とオートファジーを中心に、複数の研究分野で1,000近くもの抗体のリリースに貢献してきました。CST入社前は、1995年にコロンビア大学で博士課程を修め、ラトガース大学とアストラゼネカでの勤務経験があります。

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