細胞の振る舞いは、様々なシグナルが協調して特定の応答を引き起こす、厳密に微調整されたプロセスです。これらのメカニズムを解明することで、健常な細胞が通常どのように制御されているのかを理解することができます。このような知見は、がんや神経変性疾患、免疫疾患の発症や進行において、これらがどのように抑制されるかを理解する助けとなり、新規バイオマーカーや治療標的の特定に役立てることもできます。
これらのパスウェイを制御する経路を調べるため、組織培養細胞がモデルシステムとしてよく利用されます。しかし、研究したい現象が自然な状態では起こらない場合もあるので、調節因子による処理が必要なこともあります。やはり、増殖中の細胞で細胞老化のメカニズムを調べるのは困難ですし、アポトーシスを起こしていない細胞でアポトーシスを調べるのも困難です。例えば、Caspase-3はAsp175で切断されることで活性化する、アポトーシスの重要な媒介因子です。切断型Caspase-3はアポトーシスを起こす細胞でしかみられず、アポトーシスを誘導してCaspase-3下流の実行因子やシグナル伝達イベントの役割を調べるには、細胞をStaurosporineなどの調節因子で処理する必要があります。
別の例として、低酸素状態の細胞のみで発現するHIF-1αが挙げられます。HIF-1αとその関連シグナル伝達タンパク質、シグナル伝達経路を解析する場合は、正常細胞を塩化コバルトなどのヒドロキシラーゼ阻害剤で処理して低酸素状態を誘導し、発現を誘導する必要があります。逆に、プロテアソーム阻害剤であるMG132を用いてHIF-1αのユビキチン化を阻害し、核ライセートを濃縮することもできます。
細胞を調節因子で処理することで、特定の細胞イベントに関与するタンパク質が修飾され、研究に必要なタンパク質や細胞の状態を誘導することができます。プロセスを制御する様々なシグナル伝達経路や、その間で起こるクロストークは複雑であリ、仮説の確証を得るのに必要な情報を得るため、複数の実験を行う必要がある場合がほとんどです。同じ理由で、理論の証明のために査読者から促進的な効果と抑制的な効果の両方を要求されることが多いです。例えば、あるタンパク質の活性化が細胞の遊走の原因となる場合、そのタンパク質を阻害することで細胞の遊走も阻害されることを示す必要があります。
調節因子には、特定の細胞イベントを促進または阻害する合成分子である化学的な 活性化剤や阻害剤、生体内に存在して機能する生物学的分子である サイトカイン や 増殖因子などがあります。全ての調節因子が重要な研究ツールで、タンパク質を刺激して活性化したり、通常は活性化しているタンパク質を阻害したり、通常は検出できない特定のタンパク質の状態を濃縮したりします。調節因子を使用して、次のように役立てることができます。
- 疾患における特定のシグナル伝達の分岐点の役割を調べることができます
- 主要経路を阻害して代替経路の活性化を調べ、がん耐性のメカニズムを研究できます
- Amyloid βを刺激して、アルツハイマー病の進行に関わる要因を探ることができます
- マクロファージや好中球、NK細胞などの免疫細胞の挙動を調節することで、サイトカインストームがどのように引き起こされるのかを調べることができます
- 個々のシグナルの分岐点の活性化や阻害を行うことで、タンパク質の相互作用やキナーゼの基質を特定することができます
これらはほんの一例です!