ラホーヤ免疫学研究所やブロード研究所、Cell Signaling Technology、およびイェール大学のRajan Burt氏、Samuel Myers氏、および同僚たちが、専門知識を結集し、普遍的なタンパク質の修飾であるO-GlcNAcylation (O-結合型N-アセチルグルコサミン化) を特定するための新しい道を切り開きました。この成果は、Molecular & Cellular Proteomicsに投稿した「Novel Antibodies for the Simple and Efficient Enrichment of Native O-GlcNAc Modified Peptides」と題する論文にて発表しました。
特異性が甘美になるとき
この歴史は古く、約40年前の1984年にTorres博士とHart博士によって単糖であるO-GlcNAcが同定されました。O-GlcNAcは、最も普遍的な翻訳後修飾 (PTM) の1つであり、核や細胞質、ミトコンドリアなど、細胞内のあらゆる区画に存在するタンパク質にみられます。細胞外環境に面して存在する非常に複雑なN-結合型糖鎖とは異なり、O-GlcNAcは単純な単糖で、転写のエピジェネティクス制御、ストレス応答、翻訳、タンパク質分解、恒常性維持など、ほとんどの複雑な生物学的経路に関与しています。
O-GlcNAcは細胞の栄養レベルのセンサーとして機能するので、複数のシグナル伝達経路を統合する機能があります。特筆すべき点に、細胞全体のO-GlcNAc化は、セリン残基とスレオニン残基に単糖を付加するOGTと、PTMを酵素的に除去するOGAの、2つのタンパク質のみで制御されていることが挙げられます。より新しく、より全体論的なシグナル伝達モデルでは、単純な活性化と阻害の線形的なモデルが見直され、複数の経路や、複数のフィードバックやクロストークの状態を組み込んだモデルに移行しつつあります。これにより、糖尿病や神経変性、がんなどの一見多様なヒトの疾患に、あるPTMがどのように関与するかを部分的に説明することができます。
O-GlcNAcに特異的かつ感度の高いモノクローナル抗体
生物学や疾患におけるO-GlcNAcの役割を解明する上で、信頼性の高いPTMの同定は非常に重要になります。そこで、親タンパク質由来のO-GlcNAc化ペプチドを1度に免疫沈降できる、高感度で特異性の高いラビットモノクローナル抗体の混合物が、Cell Signaling Technologyの科学者によって作成されました。この抗体を利用したツールと、ブロード研究所の科学者による質量分析の進歩を組み合わせることで、1度の濃縮ステップで1,000以上のユニークなO-GlcNAc化部位を同定することが可能になりました。
PTMScan® O-GlcNAc [GlcNAc-S/T] Motif Kitを用いて濃縮・同定した、トリプシンペプチドのモチーフ解析。10μM Thiamet-G (TMG) で6時間処理した10mgのHeLa細胞をトリプシンで消化し、PTMScan® O-GlcNAc [GlcNAc-S/T] Immunoaffinity Beadsで免疫沈降しました。Orbitrap Fusion Lumos質量分析計は、合計1,235のnon-redundant部位 (重複の無い配列) を同定しました。
さらに、このO-GlcNAc抗体は、エピマーであるO-GalNAcと比較してO-GlcNAcに強い優先傾向があることが示され、抗体の感度と特異性が裏付けられています。この技術は、天然のO-GlcNAc修飾ペプチドへの適用が容易で、in vivoサンプルや患者由来のサンプルのO-GlcNAcを解析できる可能性があります。
つまり、複雑で時間のかかる化学誘導体化を行うことなく、従来の1/10のサンプル量で、従来より質量分析にかかる時間を大きく短縮することができます。この研究によって、非常に特異的な試薬と革新的な質量分析の相乗効果による、探索研究の新たな道筋が示されました。
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