がん細胞は、増殖を止めるための抑制シグナルに抵抗性を示します。増殖を抑制する主要な経路には、 オートファジーやですレセプターシグナル伝達 (アポトーシス) があり、どちらも最終的に細胞死を誘導して増殖を抑制します。
オートファジーは動的な細胞リサイクルシステムであり、細胞質内容物や異常なタンパク質凝集体、余剰あるいは損傷したオルガネラを分解します。これにより、生体分子の基本構成単位 (アミノ酸など) を確保し、新たな細胞成分を作り出すことができます。つまり、オートファジーは、生存を促進するプロセスであると考えられます。がんは、オートファジーを促進して微小環境ストレスを乗り切り、増殖を亢進させて悪性度を高めます。オートファジーのプロセスには、オートファゴソームの形成が含まれ、これがリソソームと融合してオートファゴリソソームを形成します。このプロセスは、 mTOR/AMPK/PI3K/MAPK 経路によって制御されます。
注目すべきタンパク質:
- Atg16L1は、細胞質成分をリソソームに搬送する構造体であるオートファゴソームの形成に必要な、巨大複合体の形成において重要な役割を担います。
- Sequestosome 1 (SQSTM1、p62) は、ユビキチン結合タンパク質であり、いくつかのシグナル伝達タンパク質の足場として機能し、プロテアソームやリソソームによるタンパク質分解を誘導します。
- オートファジーのマーカーである軽鎖3 (LC3) は、オートファジー小胞と関連しています。オートファゴソーム中のLC3の存在や、LC3からLC3-IIへの変換がオートファジーの指標として利用されています。
- Atg1/ULK1は、オートファジーを制御する複数のシグナルの収束点として機能します。
アポトーシス (プログラムされた細胞死) は、デスレセプターの活性化により誘導されます。
注目すべきタンパク質:
- Caspase-8: アポトーシスは、Caspase-8を活性化させてCaspase-8の活性型フラグメントの放出を促す、いくつかの受容体により誘導されます。Caspase-8の活性型フラグメントは、さらに下流のカスパーゼを切断して活性化させます。
- RIPキナーゼ:RIPキナーゼは、細胞ストレスにより誘導されるNF-κBを介した生存促進応答と炎症応答や、アポトーシス促進経路の重要な制御分子です。
- Bcl-2:Bcl-2は、アポトーシスを誘導する様々な刺激に応答し、ミトコンドリアからのシトクロムcの放出を抑制することで細胞の生存を維持します。
増殖抑制の回避に関与する経路やタンパク質についてもっと詳しく知りたい方は、こちらのリンクからパスウェイ図をご確認ください。
がんの特性研究の標的に関する、完全なガイドをご覧ください。
がんの特性 (Hallmarks of cancer) とは、Robert Weinberg博士とDouglas Hanahan博士が提唱し、Cell誌に発表したものです1。彼らは、複雑ながんの性質を、より小さなサブセットに分解して理解することが重要であると述べています。今回の記事では、これらの特性の一部である「増殖抑制の回避」について記載しました。本シリーズの他の記事では、今回触れなかった他の特性についても解説します。
詳細は「がんの特性」シリーズのブログをご覧ください。
- 細胞死への抵抗性
- 細胞エネルギー代謝の調節解除
- 血管新生の誘導
- 増殖シグナルの持続
- 無秩序な複製による不死化
- 浸潤能および転移能の活性化
- 腫瘍による炎症の促進
- ゲノムの不安定性と変異
- 免疫による排除の回避
参考文献:
- Hanahan D, Weinberg RA (January 2000). "The Hallmarks of Cancer". Cell. 100 (1): 57–70. doi:10.1016/S0092-8674(00)81683-9
- Hanahan D, Weinberg RA (March 2011). "Hallmarks of Cancer: the next generation". Cell. 144 (5):646-74. doi: 10.1016/j.cell.2011.02.013.