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抗体の必須知識Part 5:抗体の選択における重要な検討事項

研究者であれば、新たな疑問を投げかけ、新たな知識を追求する場合には、現在の知識やアイデアを基に実験を進めていくことを本質的には理解しているはずです。これは、実験計画の段階で試薬や抗体を比較検討する場合にどのように作用するでしょうか?免疫アッセイを始める前に、標的分子についてなるべく多くの発表された情報を集めることが成功の助けになります。抗体の必須知識の最終回では、これまでの4回の投稿で学んだことを統合し、実験デザインや標的の選択、抗体の選択における検討事項を説明します。目次

標的の理解

仮説駆動型の研究は、実験モデルにおける特定の生物学的活性や機能、メカニズムに対するアイデアが起点となります。この仮説は、所属する研究室の過去の実験結果や文献の精読、共同研究者との議論などから生まれます。標的や抗体の選択などの実験デザインを進めるとともに、仮説がより洗練されていくことも多いです。とはいえ、抗体検索を始める前に標的タンパク質の生物学的性質をよく理解しておけば、より多くの情報に基づいて抗体を選択することができます。

考慮すべき標的の特性として、標的タンパク質の発現レベルや細胞内局在のほか、構造や安定性、関連タンパク質との相同性などが挙げられます。また、標的タンパク質が翻訳後修飾を受けるかどうか、このタンパク質を標的とする上流のシグナル伝達経路を考慮することも重要です。これによって標的タンパク質の全体的な生物学的背景を推測することができ、実験デザインや抗体の選択における更なる検討事項を見出せる場合もあります。UniprotやHuman Protein Atlasのようなオープンアクセスのリソースを利用したり、文献を読んで標的タンパク質についてなるべく多くの知識を得ることが有効です。CST パスウエイ Phosphosite Plusなどシグナル伝達に関するリソースも標的タンパク質の重要な生物学的背景を知るために利用することができます。これらの情報はコントロールの選択や、シグナル伝達活性を撹乱する活性化因子や阻害因子など実験デザインに利用できる要素、フォローアップ実験における次の標的の特定に役立てることもできます。さらに、研究室や同じフロア、ネットワークを介した同僚が情報源になることもあります。研究者が抗体の性能に関するフィードバックを寄せたり、様々な免疫アッセイのプロトコールの最適化に関する助言を共有する、抗体のレビューサイトを利用することもできます。

U5-F1

図1:標的タンパク質の特性が実験デザインやプロトコールの最適化に影響を及ぼす場合があります。こちらに示した標的の特性のいくつかは、標的やモデル系、アプリケーション、実験目的に応じて重要度が変わる可能性があります。 

 

検索エンジンを利用した抗体の検索

実験における標的リストを作成した後、恐らくGoogleなどの検索エンジンにアクセスし、標的名と予定しているアプリケーション (免疫アッセイのタイプ) を検索用語として使用するかと思います。例えば、 ネクロプトーシス (細胞死の一形態) の活性化プロセスを研究していて、モデル系としてマウスの培養細胞株を用い、アプリケーションとして免疫蛍光染色を行い顕微鏡観察を予定していると仮定します。ネクロプトーシスでは、RIP1とRIP3が複合体を形成して相互にリン酸化し、ネクロプトーシスのエフェクターとして機能するMLKLのリン酸化と活性化が誘導されます。

実験デザインにこれら3種のタンパク質の一次抗体が関係してくるので、「RIP1抗体」「RIP3抗体」「MLKL抗体」を検索することになります。「マウス」「モノクローナル」「リン酸化」なども検索用語に加えていきます。それぞれの抗体の検索結果として、様々な製造元のウェブサイトの製品ページなどが表示されます。検索エンジンが要件の全てではなく一部を満たす抗体を返すこともあります。そのため、それぞれの製品ページをよく見て免疫蛍光染色のデータが含まれているかどうか、 どのような検証実験が実施されているのかを正しく確認する必要があります。これらの情報を基にリストを絞り込んでいきます。cellsignal.comの抗体検索ページや、CiteabやBiocompareなど試薬に特化した検索サイトでは「フィルタリング」機能を利用して検索結果を絞り込むこともできます。しかし、いずれにせよ次のステップはより多くの情報を収集することです。

種交差性

それぞれの製品ページで標的生物種への交差性を裏付けるデータを確認してください。 種交差性と宿主動物種の違いを思い出してください。「RIP mouse antibody」というフレーズでは、マウスRIP3タンパク質を必ずしも標的にしない、マウスを宿主とする抗体も検索結果に含まれる可能性があることに注意が必要です。交差生物種リストを調べ、目的の生物種由来の細胞や組織を用いた検証データを探して種交差性を確認してください。

アプリケーション

最初の検索結果で目的の生物種の標的に反応する抗体が多く表示されたとしても、その中には目的のアプリケーションで検証済みのものとそうでないものが含まれます。検索条件に「免疫蛍光染色」などのアプリケーション名を含めた場合でも、製品ページに掲載されているデータをもう1度閲覧し、目的のアプリケーションの検証データを確認することをお勧めします。アプリケーションの適合性を確認するだけでなく、検証実験に用いた実験デザインとプロトコールの詳細を確認してください。実験に用いた細胞や組織、また目的の結果を得るためにリガンドによる刺激や阻害剤処理が必要かどうか。実験に適切なコントロールを置いているかどうか。プロトコール上、サンプルをどのように調製して処理しているのか。これらの情報が、その抗体が自分のサンプルやプロトコールで機能するかどうか、実験をスケールアップする場合に自身で追加の検証試験を行う必要があるかどうかを判断するために役立ちます。

どのようなアプリケーションにおいても、単独で抗体の有効性を判断できるアッセイはありません。抗体が特異的かつ高感度であることの確認は、使用するアプリケーションやプロトコール、解析対象となるサンプルのタイプや品質、抗体自体に固有の生物物理学的な特性に依存します。あるアプリケーション、例えば細胞培養モデルを用いた免疫蛍光染色における抗体の性能は、標的分子のノックアウトでコントロールをとっていたとしても、別のアプリケーションやプロトコール、例えばパラフィン包埋組織サンプルを用いた免疫組織化学染色における特異性や性能とは必ずしも相関しません。この原因としては、サンプルの調製法によってエピトープの構造や有効性に影響が出ることや、抗体の結合条件によって抗体と抗原の相互作用の強さが異なることが挙げられます。CSTによる抗体検証の詳細は、下に示したHallmarks of Validation (抗体検証における戦略) のビデオでご覧いただけます。このビデオでCSTが採用している様々な戦略の概要が説明されていますので、ご自身で行う検証実験の参考にしていただければ幸いです。

 

 

 

 

抗体の宿主種、アイソタイプやサブクラスにおける検討事項

なぜ標的抗体の宿主動物種やアイソタイプに注意する必要があるのでしょうか。多くの免疫アッセイのプロトコールには、標的に結合する一次抗体によるインキュベーションステップの後、最終的に免疫アッセイのシグナルを得るために標識された二次抗体によるインキュベーションステップがあります。ウェスタンブロットにおける化学発光の検出のほか、免疫細胞化学染色やフローサイトメトリーなどにおける蛍光の検出において、このようなアプローチが利用されています。これには一次抗体を認識する二次抗体が必要になりますが、ここで一次抗体の 宿主動物種やアイソタイプ が重要になります。1つの動物種 (マウスなど) の複数のアイソタイプを認識する二次抗体もありますが、1つのアイソタイプ (マウスIgGなど) のみを限定的に認識する二次抗体もあり、さらに限定的に1つのサブクラス (マウスIgG2aなど) のみを認識する二次抗体もあります。一次抗体と二次抗体の組み合わせによって、アイソタイプや蛍光色素の違いを利用したマルチプレックス (多重解析) 実験をデザインすることもできます。また、 一次抗体を直接標識する 方法も考えられます。この場合は、使用を予定している標識抗体を用いた検証データを確認するのが理想的です。

U5-F2図2:ウェスタンブロットの化学発光の検出にはHRPなどの酵素で標識した二次抗体 (左)、間接免疫蛍光染色には蛍光波長の異なる蛍光色素で標識した二次抗体を使用します (右下) 

 

サンプルの由来となる生物種と、抗体の宿主動物種の関係も重要です。免疫組織化学染色では、マウス組織の内因性免疫グロブリンに抗マウス二次抗体が結合し、不要なバックグラウンドシグナルが発生するMouse on mouse交差反応 が起こる場合があります。このため、マウス組織サンプルを扱う場合には、マウス由来の抗体の実用性が制限されることがあります。二次抗体がサンプル中で非特異的に結合する場合には同様のバックグラウンド染色が起こることもあり、誤解の生じる結果を避けるために十分に検証された二次抗体を選択し、関連するコントロールを置くことが重要です。

U5-F3図3:マウス宿主の抗α-Smooth Muscle Actin抗体抗マウス二次検出試薬の組み合わせ (左上) と、抗マウス二次検出試薬のみ (右上) を用いた、マウス肺組織の免疫組織化学染色を行いました。後者の結果から、Mouse on mouseのバックグラウンド染色がみられることが分かります。同じ標的に対するラビット宿主の抗体抗ラビット二次検出試薬に変更することで、Mouse on mouseのバックグラウンドは消失します (左下)。 

 

抗体のクローン性における検討事項

先に投稿した抗体の必須知識のブログで、モノクローナル抗体とポリクローナル抗体の長所と短所を説明しました。ここで繰り返し、安定した性能の恩恵を受けるために、入手が可能な場合はリコンビナントモノクローナル抗体を選択して研究に使用することをお勧めします。しかし、新規の標的を検出する場合には、モノクローナル抗体が開発されるまでポリクローナルが唯一の選択肢となることもあります。その場合は、初期の研究はポリクローナル抗体を用いて行い、マウスモノクローナル抗体またはラビットモノクローナル抗体のいずれかが入手可能になった時点で再検討するのが1つの方法です。マウスおよびラビットモノクローナル抗体はともにポリクローナル抗体に比較して多くの長所がありますが、実施する免疫アッセイにごとの要件によりどちらを選択すべきかは変わってきます。

抗体製造における検討事項

市販されている抗体のほとんどは精製してバッファーに溶解した水溶液として提供されますが、血液から粗精製した血清など、精製度が低い場合もあります。このほか、ハイブリドーマで作製したモノクローナル抗体の場合は、ハイブリドーマの培養上清や、ハイブリドーマを接種したマウスの腹水を回収する場合もあります。これらは抗体を酵素や蛍光色素で標識したい場合に問題となることが多く、また免疫沈降をしたい場合などには、一般に抗体濃度が低くなることが問題になることもあります。このような粗精製品には他のタンパク質や抗体の標識を阻害する成分、その他アッセイに影響を及ぼす成分が混入していることがあるので、追加の精製を検討する必要がある場合もあります。ご自身の研究室でバッファー置換や抗体の濃縮を行うこともできますが、時間がかかる上に、ばらつきが生じる可能性があります。共通実験施設で仕事をする場合や、ハイスループット免疫アッセイフォーマットを利用して仕事をする場合には、ニーズに合ったキャリアフリー製品とカスタム組成製品や、大量注文もご検討ください。実際に実験台で手を動かす科学者の大多数にとっては、標準的な組成の精製抗体を購入し、標準的で一般的なアプリケーションやプロトコールを利用することで、興味のある標的を検出することができます。

抗体の特異性と感度

最初の抗体の必須知識のブログで、抗体の特異性と感度の定義をしました。これらはいずれも、研究をサポートする抗体を選択する際に最も重要なポイントです。まず、特異性について考えてみましょう。密接に関連したタンパク質ファミリーの中から1つのメンバーのみを検出したい場合、選択した抗体が他のファミリーメンバーに交差することなく、目的のタンパク質のみを認識することを確認する必要があります。配列を比較することで相同性の確認はできますが、抗体の特異性を確認するためには、それを証明する試験データを見るしかありません。信頼のおける抗体の提供元であれば、抗体検証の際にこれらのデータを作成しているので、お客様ご自身で交差反応試験を行う必要はありません。また、その抗体が別の生物種の同じタンパク質を認識できるかどうかを調べてある場合もあります。ヒトとマウスの両方の細胞株で薬剤に対する応答性を比較する場合など、生物種を超えた交差反応が有用な場合もありますが、多くの場合はそれを避けることが望ましいです。例えば細胞株に遺伝子工学的手法で発現させたタンパク質の発現レベルを調べる場合、宿主細胞の内因性タンパク質も検出してしまうと、タンパク質の発現を大幅に上方に見積もってしまう可能性があります。

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図4:PKCδのアイソフォーム特異的な検出。GST融合型の各PKCアイソフォームをバクテリアで発現させて精製し、図に示したレーンにロードしてSDS-PAGEを行い、PKCδ 抗体 (上) またはGST 抗体 (下) を用いたウェスタンブロットで解析しました。

 

最後に抗体の感度の検討ですが、これは標的抗原を理解することに帰着します。目的タンパク質の存在量が少ない場合には、複数の異なる抗体を比較し、特異性を保ちつつ最も強いシグナルが得られる抗体を調べる必要があります。リン酸化特異的な抗体を使用する場合には、実際にその抗体が、目的タンパク質の特定の残基がリン酸化された場合のみに特異的であること、また目的のアプリケーションで十分な感度が得られることを確認する必要があります。また、リン酸化されたタンパク質を発現することが知られているのはどのようなタイプの細胞であるか、この検出には刺激が必要かどうかを検討してください。蛍光を検出する免疫アッセイに直接標識した一次抗体を使用する場合には、使用する検出機器で検出が可能な蛍光色素で標識した抗体が入手可能であるかどうか、また標的の発現量も検討する必要があります。

同僚との相談と結論

発表されている文献を検索し、研究論文の材料と方法のセクションや補足図 (Supplementary Figures) を掘り下げることで、検討中の抗体に関するより多くの情報が得られることがあります。特定の抗体が、細胞株や組織などの類似したサンプルを用い、希望するアプリケーションで使用されていることが確認できれば、正しい選択をしているという信頼性の裏付けになります。しかし、文献の不正確な情報や不完全な情報が再現性の危機の一因になっていることを念頭に置き、常に批判的な視点を保っておくことが重要です。もちろん、研究室や同じフロア、ネットワークを介した同僚が情報源になることもあります。彼らは様々な抗体を実際に比較したり、あなたが予定しているものと同じ実験モデルで抗体の最適化を行っている可能性があります。また、研究者が抗体の性能に関するフィードバックを寄せる抗体のレビューサイトや、ソーシャルネットワークを利用することもできます。繰り返しになりますが、詳細は重要であり、抗体が十分に検証されており、自分の手で機能すると確信できるまでは、健全な懐疑心をもつことは重要です。 

研究をサポートする抗体の選択に役立つ情報をお届けできたと思いますが、「抗体の必須知識」の最も重要なメッセージは次の2点です。

  1. 単独で抗体の有効性を判断できるアッセイはありません

  2. 使用を予定している抗体について、自身で作製して検証するつもりで、批判的に考えてみてください

これらの原理を念頭に置くことで、研究の後退を防ぎ、重要で貴重な研究試薬を最大限に活用することができます。

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