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アルツハイマー病のバイオマーカーTauを追跡する Part 2

大きな課題:アルツハイマー病 (AD) 進行の重症度を正確に予測するためには、どのような血漿マーカーが利用できるでしょうか? このような分子は脳内のニューロンから分泌されて、間質液 (ISF)、次いで脳脊髄液 (CSF)、最終的に血漿中に拡散するので、理論上は血中でのシグナルが大幅に減弱すると予測されます。

(Part 1はこちら)

脳内の発症を示すバイオマーカーの特定を成功させるには、非常に高感度で、なおかつ特定の分析物の予測力をテストするため、無症候段階と症候段階のADの両方の群をカバーする複数年の長期変化を回顧的に研究するため、綿密に設計されたアッセイの開発が必要になります。

洗練された質量分析を用いたプロテオミクスでTauなどの候補分子を解析する戦略は、生の、あるいはアフィニティー精製した生物学的サンプルを優れた分解能で解析できることが示されています。しかしながら、バイオマーカーの分野では、スループット性など、考慮すべき課題があります。20サンプルの解析と、2,000サンプルの解析は全くの別物です。また、サンプルの量は言うまでもなく、異なるバッチや日数で採取されるサンプルの、群全体を解析する際の信頼性も問題です。規模の大きな群では、可能な限り多くの方法で解析するため、血液サンプルを分注します。そのため、結果を得るために必要な血液量と、将来の診断アプリケーションのため、手順と自動化の煩雑さが、重要な要素になります。 

これらの懸念を考慮すると、2,000サンプルから成る群を解析する場合に、超分解能プロテオミクスを利用するのは、複雑すぎてスループットが低く、大量のサンプルを必要とするため (アフィニティー精製の場合) 達成が困難です。これに対して免疫アッセイは、AD患者の血液サンプルのタンパク質の測定に、最も直接的で信頼性の高いツールと言えます。免疫アッセイはスループットが高く、使用する血漿は少量で、高価な技術でもありません。 

Tau上には多くのリン酸化部位があり、これらが様々な組み合わせでリン酸化されたり、されなかったりしているため、AD患者の血中Tauの検出は複雑です。 Tau上のいくつかの残基のリン酸化がADに関与する一方、未修飾Tau、不溶性Tau、凝集型Tauなど、リン酸化されていないTau種のいくつかがADのバイオマーカー候補となります。

しかし、何より上で簡潔に述べたように、抗体は免疫アッセイの「魂」です。免疫アッセイプラットフォームの背後にある技術を改善するだけでは、ADのバイオマーカーを検出するという目的を達成するには不十分で、適切で十分に検証された抗体が、これらの超高感度システムの力を解き放ちます。一方、低品質な抗体は臨床開発のプロセスを台無しにします。

世界中のグループが、非常に多くの商用の候補抗体や、新たに開発されたADの2つの主要タンパク質 (AβとTau) をより高い親和性で補足し、より特異的に検出する抗体を、精力的にテストしています。このステップは、常に最も重要で時間がかかります。 

多くの研究から、181番目のスレオニン、217番目のスレオニン、3964番目のセリンなど、特定の残基がリン酸化されたTau種が、血漿中で測定可能なADのバイオマーカー候補となることが示されています。可溶性Tau、凝集型Tau、不溶性Tauなど、未修飾Tau (あるいはトータルTau) もADのバイオマーカーになると考えられています。このアプローチは、抗体補足技術を用いてADでこれらのタンパク質を標的にするバイオ医薬品企業の、いくつかのプログラムの中核となっています。製薬企業のプログラムにも、トータルTau、PTM Tauなどを標的とするこのようなアプローチが実施されていますが、多くの企業の中でBiogen、Eli Lilly’s、 Novartisnなどが構造特異的なTauを標的としています。このように、これら全てのTau種を測定することが、バイオマーカーとして便利に利用できる最良のTauを特定するために重要です。Tauの生物学は豊かで複雑であり、Tauバイオマーカーの探索は大きな課題です。

さらに、近代的な免疫アッセイでは、感度を向上させるために多くの新しい工夫がなされています。電気化学発光プラットフォーム (Meso Scale Discovery)、ビーズベースの単分子計測のSimoa HD-1 (Quanterix)、平面アレイベースのSimoa SP-X (Quanterix) などの一連の技術を日常的に利用することができます。 感度の範囲は、異なるプラットフォーム間で高ピコグラム/mLから低フェムトグラム/mLに設定されています。血液マトリクスの複雑さと、問題の分析物自身の天然構造のため、感度を超えてどのようなプラットフォームでも分析物を正確に測定できるかどうかの検証が必要です。そのため、特定の分析物に最適なプラットフォームが何かを知るためには試行錯誤が唯一の方法であり、複数の生物学的モデルも同様に使用されます。

CSTは現在、ブリガム・アンド・ウイメンズ病院およびハーバート大学メディカルスクールのDennis Selkoe博士、Lei Liu博士の学術研究室と共同研究を進めています。この研究で、様々なやTau種のほか、Presenilin-1、Nicastrinなどの潜在的な標的候補に対するラビットモノクローナル抗体の開発を行っています。ラビットの免疫系は、小さな抗原に対してより多様なエピトープを認識する抗体を産生する、優れた免疫応答を備えています。この性質を利用して、小さな欠失や、リン酸化やアセチル化などの翻訳後修飾を持つ、様々なAβやTau種を区別する抗体を設計することができます。Selkoe博士とLiu博士の、サンプル群のCSFおよび血漿の複数年の長期変化を解析する試みは、CSTの知識を実践に移すためのまたと無い機会であり、両グループはADの知識と進歩に貢献するという恩恵を受けることができるでしょう。

参考文献:

  1. Mattsson N, et al. CSF biomarkers and incipient Alzheimer’s disease in patients with Mild Cognitive Impairment. CSF Biomarkers and Alzheimer’s disease. 2009.
  2. Tauvid approved by FDA imaging tau pathology by PET.
  3. Leuzy A, Heurling K, Ashton NJ, Schöll M, Zimmer ER. In vivo Detection of Alzheimer's Disease. Yale J Biol Med. 2018;91(3):291-300. doi:10.1371/journal.pone.0038284.
  4. Barthélemy NR, et al. Cerebrospinal fluid phospho-tau T217outperforms T181 as a biomarker for the differential diagnosis of Alzheimer’s disease and PET amyloid-positive patient. Alzheimer’s research and Therapy. 2020.

 

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