CSTブログ: Lab Expectations

Cell Signaling Technology (CST) の公式ブログでは、実験中に起こると予測される事象や実験のヒント、コツ、情報などを紹介します。

CST創立25周年:抗体と革新を支え続けた四半世紀

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今年、CSTは創立25周年を迎えます。この重要な節目を祝うとともに、研究用試薬業界がこの四半世紀でどのように変化してきたか、この業界にもたらされた革新にCSTはどのように貢献してきたかを振り返り、さらに今後どこへ向かうのかを考えたいと思います。

会社沿革:CSTの歴史

まずは、1999年10月に遡ります。当時は、インターネットがまだ普及し始めたばかりであり、2000年問題が間近に迫り、携帯電話の所有率が上昇しつつありました。また、研究室で生物学的システムを研究する科学者が用いる研究ツールは、現在とはまったく異なるものでした。 

「当時は、放射性同位元素32Pで標識したATPを用いてタンパク質のリン酸化部位を検出していました。」と、CSTの最高科学責任者であるRoberto (Roby) Polakiewicz博士は振り返ります。「ベータ粒子から身を守り、線量計を使用して被爆量をモニターしなくてはなりませんでした。実験は、指定された場所のみで行い、ゲルの泳動も自身の実験台で行うことはできません。政府の特別な許可を受ける必要があり、使用する試薬や機器等の適切な保管方法や洗浄方法、廃棄方法が定められていました。また、完全に無くすことが難しい、例えば試験管を落とすといった事故が起きれば、研究所の一部が数日間閉鎖されてしまうこともありました。」

当然のことながら、実験そのものも大変手間がかかるものでした。32Pによる標識は、翻訳後修飾 (PTM) の研究だけでなく、DNAの検出にも用いられるごく一般的な手法でしたが、その実験プロセスは手間もコストもかかる上、非常に危険でした。しかし、細胞の中を観察し、タンパク質の相互作用を研究するには、当時はこれが最善の方法でした。

「[CSTの創立者兼CEOである] Micheal Combの研究室では、細胞同士がどのように伝達しあうか、細胞シグナルがタンパク質を「オン」または「オフ」にするためにどのように変化させるか、そしてこれらのシグナルがそれを介して細胞の行動を制御する機構、つまり経路に関する研究が行われていました。しかし当時は、この研究は非常に難しいものだったのです。」とRoby博士は続けます。「ですが、Micheal博士はこの頃すでに、タンパク質の特定部位のリン酸化を測定する抗体が作製可能であることを理解しており、シグナル伝達の研究に取り組もうとしている科学者のために、確実で高品質な抗体を作る方法を考えていました。」

CSTチームの創立時のメンバーマサチューセッツ総合病院のMichael Comb博士の研究室から始まり、その後NEBを経て創立されたCSTの初期従業員の一部のメンバーです。当初の研究者の多くは、現在もCSTに在籍しています。 

Michael博士と、マサチューセッツ総合病院の研究室やNew England Biolabs (NEB) でMichael博士と共に働いていた初期のCSTチームは、まず主要なシグナル伝達経路に関連するリン酸化抗体の開発に着手しました。このプロジェクトに欠かせなかったのが、後にCSTの抗体開発グループ本部長となる故Yi Tan博士です。このグループの当初の目的は、大規模な商業化ではありませんでしたが、彼らが作製した抗体の品質の高さとこれらに対する切実なニーズが相まって、これらの抗体は高い人気を獲得しました。 

CSTの製品デザイン&戦略部門のシニアダイレクターであるTony Wood博士が話を続けます。「当時、私は大学院生でした。細胞シグナル伝達経路の研究はまだ始まったばかりであり、研究は遅々として進みませんでした。そこに、Cell Signaling Technologyが登場したのです。CSTは、PTMを迅速かつ容易に研究できる技術を提供し、この分野を一変させました。これは、非常にエキサイティングな体験でした。」

CSTが提供した製品は画期的なものでした。科学者は、迅速かつ簡単に、そして手頃な価格で基礎生物学を研究できるようになったのです。CSTの最初の製品となったPhospho-p44/42 MAPK (Erk1/2) (Thr202/Tyr204) Antibody #9101は、このブログ記事の執筆時点で8,000報以上もの科学論文に引用されています。

Right_immunofluorescent analysis using Phospho-p44_42 MAPK_PDGF treated_small

 

Left_immunofluorescent analysis using Phospho-p44_42 MAPK_U0126 treated_small

 

U0126​処理 (左) またはPDGF処理 (右) したNIH/3T3細胞を、Phospho-p44/42 MAPK (Erk1/2) (Thr202/Tyr204) Antibody #9101を用いて免疫蛍光染色して解析しました。

CSTは、当初はPTM検出用抗体のサプライヤーとして知られていましたが、現在は代謝や神経科学、線維症からエピジェネティクスまでのあらゆる研究用の10,000種類を超える厳密に検証された抗体と高品質な試薬を提供しています。弊社は、研究者が信頼できる抗体を必要とする時に最も選ばれるサプライヤーであり、1抗体あたりの被引用数が他社よりも多いことを誇りに思っています。

CST Headshot_Steve Gygi Harvard

Steve Gygi, PhD
ハーバード大学医学大学院
生物学教授

「私は、これまでに数多くの科学諮問委員会に参加してきましたが、誰もがいつも同じことを言います。『一体どうすればCSTの抗体に近いものが作製できるのだろうか?』と。CSTの検証は信じられないほど素晴らしいものです。

CSTが抗体の検証に非常に力を入れているからこそ、研究者は彼らの製品を信頼できるのです。」

 


しかし、CSTの物語はこれで終わりではありません。弊社はこの四半世紀の間、抗体技術の開発に精力的に取り組み続けており、さらに、一流の研究者と協力して科学を前進させる重要な科学的発見に貢献し続けています。 

また、弊社は、ライフサイエンス業界におけるサステナビリティと環境スチュワードシップの基準を設定し、これを遵守しながら上記の開発と貢献を成し遂げてきました。まだまだ、お伝えしたいことがあります。

ブログ:CSTはライフサイエンス企業として初めて1% for the Planetに参加

「科学的厳密性」と「責任ある科学」の両立

CSTは、現役の研究科学者が設立し、所有・運営する他とは違うライフサイエンス企業であり、「優れた科学」だけでなく「ただ良いことをする」ことにも注力しているという話も耳にされたことがあるかもしれません。

しかし、それは具体的に何を意味しているのでしょうか?

広義的には、細胞内の小胞輸送といった非常に細やかなものから、地球規模での気候変動を引き起こす複雑な相互作用ネットワークに至るまで、大小さまざまなコミュニティを大切にすることを意味しています。つまり、弊社は、あらゆる物事が相互に関連していることを理解しているため、未来の世代のために健全な地球を維持する努力を行いながら、ヒト疾患を理解し治療するための努力をサポートするツールの開発に取り組んでいます。

それではまず、研究者で構成されるCSTにとって「優れた科学」とは何かを解説します。弊社は、科学に精力的に取り組む科学者集団です。抗体が導く発見に大いに期待を寄せています。

「私は、初めにNEBのMichael博士の研究室に研究員として入りました。」と、Roby博士は続けます。「CST創立時の私の仕事は、革新を続けるための研究プログラムを確立することでした。それから何年も経った現在でも、技術革新は私たちの文化の中核をなす要素であり続けており、その文化がCSTの在り方を明確にしてくれています。」 

科学的再現性の重要性を強く提唱するRoby博士をはじめとするCST創立時のメンバーは、卓越した研究文化を社内に根付かせ、それは今日でも各部門に浸透しています。弊社の、製品の品質へのこだわりは、この文化から生まれているのです。

 

「再現性の危機に対するソリューションは、抗体そのものを適切に検証することです...

弊社は、優れたモノクローナル抗体を開発するために不可欠な、関連するすべてのアプリケーションごとに特異性と感度を検証するという大規模な作業に対して最大の投資を行っています。」

CST Headshot Roberto Polakiewicz_CST

Roberto D. Polakiewicz 「Antibodies: The solution is validation」(Nature, 2015)

 

「科学者で構成される弊社は、科学が非常にやりがいのあるものであると同時に、非常にフラストレーションのたまるものであることを理解しています。」と、Roby博士は述べます。「科学者なら誰でも、実験の大半は失敗すると言います。そして、実験が失敗した時に最初に考えるのは『なぜ失敗したのだろうか?』です。次に、『同じ内容を別の方法で確認するには、どのように実験を再設計すればよいだろうか?』と考えます。しかし、まず最初にやるべきことは、試薬が正しく機能しているかを確認することです。」

CSTは、新しい抗体クローンを検証する際に、この抗体を用いてどのような研究が行われるかを根本的に理解し、抗体検証を他の科学的研究と同様に行います。弊社は、お客様による実験が「型にはまったもの」ではないことを理解しているため、あらゆる研究を想定して検証試験を行います。すべての実験が、同じサンプル、同じアプリケーション、同じ標的で行われるわけではありません。CST抗体の検証についても同じことが言えます。標的の生物学的背景、アプリケーションの特殊性、そしてお客様が使用する可能性のあるサンプルの種類を考慮し、アプリケーションごとに抗体の特異性を検証するための独特な実験セットを独自に設計する必要があります。このアプリケーションごとに特化したアプローチがあるからこそ、弊社が特定のアプリケーションで検証済みであることを明示している抗体は、初回ならびに毎回確実に機能するのです。

「弊社は、100%すべての抗体を社内で検証し、特定のアッセイで機能することを保証しています。」と、抗体のアプリケーション&バリデーション部門のシニアダイレクターであるKatherine (Katie) Crosbyは述べます。「お客様からは、「CSTブルー」のキャップのバイアルを見ると、それは本当に信頼できる抗体であることがすぐに分かるというお言葉をいただいています。」

CST抗体を使用する際に、試薬の品質の悪さが実験失敗の原因に決してならないようにすることが弊社の使命です。弊社は、試薬の背景にある科学に焦点を当てて開発を行うため、研究者は発見に必要な科学に集中できます。

弊社の科学者は、この使命を念頭において、定期的に産業界向けの学会に参加しており、本ブログ記事を執筆している時点で他のどの抗体会社よりも圧倒的に多い350報を超える査読付き論文を発表しています。

「弊社の科学者は好奇心旺盛なので、抗体ツールを作るだけにとどまりません。」と、CSTの研究本部長であるSean Beausoleil博士が述べます。「弊社は、これらのツールを用いて、これまでの発見をさらに発展させようとしています。また、科学における喫緊の疑問に対し、弊社抗体を活用してどのように答えを取得できるかの探索にかなり多くのリソースを割いています。」

CST Headshot_Michael Yaffe_MIT

Dr Michael Yaffe
マサチューセッツ工科大学デビッドHコーク研究所教授兼マサチューセッツ工科大学高精度がん医療センター所長

「CSTは、創立当時から今までずっと先駆者であり続けています…CSTの最も特筆すべき特徴の1つに、単に試薬を製造していただけではないことが挙げられます。彼らは、実際に自分たちでも研究を行っていたのです。

これが、今日に至るまで、CSTが他社と一線を画す存在であり続けている理由だと思います。」

 

CSTの科学者が、有望な新規標的に対する抗体を開発する際は、一流の研究者に協力を仰ぎ、研究の推進に弊社のツールを使用してもらいます。非小細胞肺がんにおけるALK/ROSの役割の発見1などへの貢献から数千もの新規PTM部位の特定2,3,4まで、弊社はただ傍観していただけでは決してありません。弊社は常に、限界に挑戦し、新しい研究能力を開拓しています。弊社は長年にわたり、革新的なPTMScan®プロテオミクス技術やCUT&RUN試薬、空間生物学用のSignalStar Multiplex IHCアッセイ、受賞歴のあるCAR-T研究用の抗CARリンカー抗体などの、市場初となる画期的な試薬を開発し続けています。

ブログ: The Kinase Library:ビッグデータを用いて新たなキナーゼ薬剤標的を同定する方法

弊社はまた、タンパク質のPTMに関する無料のバイオインフォマティクスリソースであるPhosphoSitePlus®️ウェブサイトを作成および運営しています。NIHの助成金などで運営されているこのウェブサイトは、実験により発見された13万種類以上のPTMに関する包括的な情報を研究者に提供しています。さらに、最近では、Lewis Cantley教授やMichael Yaffe教授、Benjamin Turk教授と共同で、特定のタンパク質基質を修飾する可能性が最も高いキナーゼを強力なアルゴリズムを使用して予測する、画期的な予測ツールであるThe Kinase Library を開発し、PhosphoSitePlus上で公開しています。

自然と地域社会に配慮

CSTは、科学的厳密性を追求すると同時に、環境への影響を減らし、地球を保護するためにできる限りのことをしています。弊社は、研究が資源を大量に消費するものであることを認識しており、すべての活動において、それが環境にどのような影響を与えるかを考慮し、環境フットプリントを軽減する方法を模索しています。その一環として、弊社は2029年までに炭素排出量ネットゼロを達成することを目標に掲げ、研究活動にサステナビリティを組み込む画期的な方法を常に模索しています。

 

「サステナビリティーへの貢献は、Cell Signaling TechnologyのDNAに刻み込まれた使命です」 (GEN News)

Julianna LeMieux博士
サステナビリティは、Cell Signaling TechnologyのDNAに刻み込まれた使命です。

「CSTは、創立以来、社会への還元とサステナビリティを優先し続けています。

Boston Business Journalの「マサチューセッツ州で最も慈善的な企業トップ100」に常にランクインしており、これは、家族経営の株式非公開企業としては異例の快挙です。」

例えば、ソーラーパネルの設置やコンポストおよびシングルストリームリサイクルの実施、従業員用カフェテリアでの植物由来ランチの無料提供、研究室での有害な化学物質の使用削減または廃止、サステナブルな梱包と配送方法の設定など、数多くのグリーンイニシアチブを実施しています。そして2022年、CSTはライフサイエンス企業として初めて1% for the Planetのメンバーとなりました。これにより、弊社は、地球の生物多様性の保全や気候変動の緩和、未来の世代のための地球保護のために活動する非営利団体に、年間総収益の少なくとも1%を寄付します。

これらの取り組みには、サステナブルな科学を推進するための知識や経験、手段を備えた次世代を育成することも含まれます。弊社は、学生や教師、STEM教育およびグリーンケミストリー教育への投資を行うことにより次世代の科学者を鼓舞し、より健全で多様なグローバルコミュニティを実現するために業界全体に対して変革を促しています。また、地域社会への助成金や慈善活動、環境保護に取り組む企業とのパートナープログラム、従業員が行った寄付と同額の寄付、災害救済基金など、グローバルな寄付プログラムも充実しています。

ダンバース本社のCSTアトリウム米国マサチューセッツ州ダンバースにあるCST本社は、ISO 9001認証を取得しており、鯉の池や滝、岩などの造形を備えた11,000平方メートルを超える屋内トロピカルオアシスが設置され、従業員のワークスペースとカフェテリアとして利用されています。

CSTのCEOであるMichael Comb博士は、常日頃から「人間社会が自然界に与える影響は目に見えて明らかなものとなっています。祖父として、科学者として、そして実業家として、そして人類の一員として、気候変動や生物多様性の喪失に立ち向かうことが、私たちの世代、そしてこれからの世代にとって最も差し迫った課題と言えるでしょう。」と述べています。

次の四半世紀の展望 

 これまでに、CST試薬を使って世界中の研究者が多くの画期的な発見をしたことを考えると、わずか25年前、細胞シグナル伝達の研究がまだ黎明期にあったことに本当に驚きを隠せません。かつては、放射性物質や煩雑なプロトコール、何日もかかる準備が必要であった実験が、今では前例のない精度とスピードで実施できるようになりました。これらの最先端の研究ツールは、人類が個別化医療の新時代へと進むのに役立っており、それが実現される頃には、がんの根絶やアルツハイマー病の治療、老化を遅らせるといったムーンショットのアイデアが、もはや手の届かないものではなくなっていると思います。

弊社の画期的な最新技術であるInTraSeq™シングルセル解析試薬は、タンパク質とRNAをシングルセルレベルで同時定量できる技術であるため、研究者は、細胞の情報をこれまで以上に多く取得できます。その結果、個々の細胞や細胞亜集団が疾患の発症に果たす役割について、より詳しく理解できます。

このような革新は、世界中の研究者の献身的な努力によって達成される次の科学的発見を間違いなく後押しします。CSTは、皆さんと共に前進し続けます。また、次の四半世紀の科学の未来を決定づける新たなブレークスルーを楽しみにしています。


参考文献

24-BRE-13852
Alexandra Foley
Alexandra Foley
Alexandraは、CSTのサイエンティフィックマーケティングライターであり、Lab Expectationのエディターです。

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