マルチプレックス免疫組織化学染色 (mIHC) とマルチプレックス免疫蛍光染色 (mIF) は、組織サンプル内の異なる細胞の種類を特定し局在を調べるために広く利用されています。しかし正しい技法を選択するのは、研究の目的と利用可能なツールに依存します。最近発表された論文では、mIHC/mIFの異なる方法の利点と欠点、そしてこのような方法がどのように異なっているかを説明しています1。
マルチプレックス発色IHC
従来の発色IHCは、スライド全体の上にある1つの標的を可視化するためにDABまたはAECを使用します。しかし新しい発色基質により、わずか10-15時間で3-5種類のマーカーを同時に、または順番にマルチプレックスできます。発色IHCの利点の例としては、コストが低く比較的簡単に使えること、また確立されたプロトコールやガイドラインで使用できることがあります。またスループットの高いアプリケーション用に自動化することも簡単にできます。欠点としては、発色基質のほとんどがダイナミックレンジに限りがあること (つまりマーカーの強度が良くて半定量的である) 、そしてマーカーの共発現を調べるために組み合わせることができるものはほんの少数であるということがあります。
1枚のスライド上でのマルチプレックスIHC連続染色 (MICSSS)
MICSSSは、従来の発色IHCに類似していますが、この技法は、反復サイクルを使用して最大10個のマーカーをスライド全体で可視化します2。一度に1個のマーカーを検出すると、結果に干渉する可能性のある立体障害や漏れ込みのリスクがなくなります。しかし、スループットに限りがあり (各サイクルが完了するのに1 - 2日かかる)、個々のMICSSS画像を解析のために結合させるのは困難な場合もあります。
MICSSSのその他の欠点としては、サイクル間のカバーガラスの除去と化学薬品による脱染/抗原賦活により組織が損傷を受け、マーカーの強度は半定量的でしかないという点があります。
マルチプレックスIF
マルチプレックスIFは、複数のマーカーを同時に検出するため蛍光色素標識抗体を使用します。プロトコールによりますが、2 - 20時間ほどで完了します。標準IF顕微鏡は、通常1回の染色で4から5マーカーの全スライド可視化が可能です。それに対し、マルチスペクトル顕微鏡は明確に区別できる (0.66 mm2) 関心領域 (ROI) 内の最大数8マーカーを解析し、その後タイル表示するために使用されます。
最近の研究では、マルチプレックスIFで周期的染色を行うと30 - 60マーカーの検出が可能であることが示されています3,4,5。マルチプレックスIFの最も重要な利点は、マーカー強度の定量化で大半の蛍光色素の大きな直線ダイナミックレンジが使用できる点です。しかし、漏れ込みを防ぐために蛍光色素は注意深く選択する必要があり、シグナル強度を上げるためにチラミドシグナル増幅 (TSA) が使われる場合は、TSA試薬による遮断がないようにするため追加の確認が必要です。
組織ベースの質量分析
メタルタグの付いた一次抗体を使用することにより、組織をベースとする質量分析では40個以上ものマーカーを同時に可視化でき、4℃でほんの12時間での染色が可能です。マルチプレックスIFと同様に、明確に区別できる (1 mm2) ROIを解析するのに使用され、マーカーの強度を定量的に測定します。これには、主に2つの方法が用いられます。飛行時間型 (MIBI-TOF) によるマルチプレックスイオンビームイメージングと、イメージングサイトメトリー (IMC) の2つです。どちらも、TOF解析の前に各ROIからイオンを生成する明確に区別される機構を使用しています。組織ベースの質量分析では蛍光色素の使用が避けられるため、シグナルの弱化、スペクトルの重複、自己蛍光のリスクが排除されます。上記の利点を相殺すると、組織ベースの質量分析の最も大きな欠点は機器の費用が高く相当のトレーニングが必要という点となります。
デジタル空間プロファイリング (DPS)
デジタル空間プロファイリングは、比較的新しい技法であり、紫外線により解裂可能な蛍光DNAタグに結合した一次抗体を用いてマーカーを定量化します。6 マルチスペクトル型顕微鏡と組織をベースとする質量分析と比較すると小さめのROI (0.28 mm2) ですが、DSPはたったの1回の染色でより多くの (実質的には40 - 50、理論的には800もの) マーカーをより短い時間で (1時間) 検出することができます。DSPの主な限界は、画像を作成しないということです。代わりに、開裂したDNAタグをマルチウェルプレートに移動して解析する前に、最大数4個の蛍光標識した抗体を使用してROIを選択します。
マルチプレックス実験用抗体の選択
ここで説明した技法にはすべてそれぞれ長点と欠点がありますが、いずれの方法も成功させるにはサンプル調製方法に合った高度に特異的な抗体を使用することが必要です。Cell Signaling Technology、FFPEF組織にはIF-パラフィンまたはIHC検証済み抗体を提供しており、凍結組織にはIF凍結検証済み抗体の選択を推奨しています。
弊社はどのようなアッセイにおいても、抗体の機能性、特異性、および感度の決定に使用できる6つの補完的な戦略抗体の検証における戦略—を遵守していますので—どの方法をお選びになっても信頼できるmIHC/mIF結果を得ることができます。
追加リソース:
- 関連ブログ:複数の抗体を用いた蛍光染色:2つの一般的な手法
- 関連ブログ:マルチプレックスIHCの抗体パネルデザインを解読する
- 関連ブログ:マルチプレックス免疫蛍光染色実験の成功のための標識抗体を用いた戦略
参考文献:
- Taube JM, Akturk G, Angelo M, et al. The Society for Immunotherapy of Cancer statement on best practices for multiplex immunohistochemistry (IHC) and immunofluorescence (IF) staining and validation [published correction appears in J Immunother Cancer. 2020 Jun;8(1):]. J Immunother Cancer. 2020;8(1):e000155. doi:10.1136/jitc-2019-000155
- Remark R, Merghoub T, Grabe N, et al. In-depth tissue profiling using multiplexed immunohistochemical consecutive staining on single slide. Sci Immunol. 2016;1(1):aaf6925. doi:10.1126/sciimmunol.aaf6925
- Goltsev Y, Samusik N, Kennedy-Darling J, et al. Deep Profiling of Mouse Splenic Architecture with CODEX Multiplexed Imaging. Cell. 2018;174(4):968-981.e15. doi:10.1016/j.cell.2018.07.010
- Lin JR, Izar B, Wang S, et al. Highly multiplexed immunofluorescence imaging of human tissues and tumors using t-CyCIF and conventional optical microscopes. Elife. 2018;7:e31657. Published 2018 Jul 11. doi:10.7554/eLife.31657
- Gerdes MJ, Sevinsky CJ, Sood A, et al. Highly multiplexed single-cell analysis of formalin-fixed, paraffin-embedded cancer tissue. Proc Natl Acad Sci U S A. 2013;110(29):11982-11987. doi:10.1073/pnas.1300136110
- Merritt CR, Ong GT, Church SE, et al. Multiplex digital spatial profiling of proteins and RNA in fixed tissue. Nat Biotechnol. 2020;38(5):586-599. doi:10.1038/s41587-020-0472-9