CSTブログ: Lab Expectations

Cell Signaling Technology (CST) の公式ブログでは、実験中に起こると予測される事象や実験のヒント、コツ、情報などを紹介します。

顕微鏡愛好家の視点から見た組織の透明化

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生物学的な画像データは、実験の複雑さとデータセットの豊富さから大きな可能性を秘めています。初期のイメージング実験はほとんど説明的で「標的であるXが対象の細胞に存在するかどうか」を示しています。現代の実験は、大規模にマルチプレックス化し、複雑な空間的関係を定義し、小さな細胞内成分のレベルや数を測定し、mRNAさえ測定します。

研究者は、より大きくより複雑なデータセットを作成するのに非常に多くのアプローチを採用しています。CyCIF1やMIBIマスサイトメトリー2などの技術と、Fluidigm社 (CyTOF)、NanoString社 (GeoMx)、NeoGenomics社 (MultiOmyx) から市販されたハイプレックスな製品を用いて、数十 (あるいは数百!) のタンパク質を調べることでシステム生物学の理解を深めようとしています。細胞集団と空間的な関係を定量化して明らかにするのに、組織サイトメトリー3、画像サイトメトリー4、デジタル病理学5などの技術を用いた機械学習のアプローチを採用している研究グループもあります。

さらに、CLARITY6のような組織透明化技術を用いて臓器レベルでのタンパク質染色を検討している研究グループもあります。これらすべての技術からはプラットフォームに関係なく、これまで以上に多くの画像データが得られます。では、非常に多くのオプションが利用可能な場合、どの段階で組織透明化実験の実施を検討すべきでしょうか?この技術は、巨視的なレベルで詳細を調べたい場合に最適です。

 

最近、CLARITY法の発明者であるKwanghun Chung研究室が作成した透明なマウス脳の美しいビデオには、GFAP陽性アストロサイトとNeuN陽性成熟ニューロン、そして脳全体でのそれらの位置関係が示されています。この技術は視覚的に素晴らしい描画を作成するだけでなく、神経科学者が大規模な解析にて詳細を研究するのに有用なツールでもあります。特に脳は複雑な構造を持ち、研究者は臓器全体と局所の詳細の両方を知ることから有用な情報を得られます。

脳においてニューロンの数は比較的変わりませんが、アストロサイトは絶えず変化する細胞集団です。ニューロンとアストロサイトの関係を調べることは、疾患の状況を知るのに非常に有益です7。GFAPはアストロサイトに特有の構造タンパク質です8。アストロサイトは、健康な中枢神経系においてニューロンを構造的・機能的にサポートするという役割を果たしているほか、反応性のアストロサイトはアストログリオーシスというプロセスを通じて中央神経系の損傷や疾患に反応します9。  

現在NeuNは、RBFOX3と同一のタンパクであることが分かっていますが、もともとはニューロン特異的抗体の組織学的スクリーニングで見つかったものです10。NeuNの機能は完全には明確ではありませんが、ほとんどのニューロンの核を染色するためこのマーカーが使用されています。このビデオで取り上げられた美しいデータの他に、CLARITY法を使用してGFAPとNeuNを見ることにより、頭部外傷、一過性の虚血と脳卒中、神経変性疾患、およびがんによる脳損傷モデルを研究することも可能でしょう。

臓器の全体レベルのデータを見ることにより、生物学的イメージングにて長い間無視されてきた新しいレベルの解析、すなわち空間的な関係が明らかになります。位置情報から、がん生物学や臓器の解析、システム生物学 (サイズや位置、組織化など)、胚発生の理解に役立つデータが得られます。これらすべての分野において、透明化された組織の大規模な解析が役立つかもしれません。しかし、CLARITY法やその他の組織透明化技術に関していくつかの課題があります。

まず、長い距離をイメージングするには特殊な対物レンズが必要です11。また、組織の透明化や抗体をサンプルの隅々まで行き渡らせる作業に数日を要するため、実験に長い時間がかかります。さらに、多量の試薬が必要なため高いコストがかかります。しかも、免疫蛍光染色で機能するすべての抗体が組織透明化技術で機能するわけではありません12。最後に、大量の画像ファイルの解析や保存、表示も困難です。それでも、CLARITY法は注目に値する技術であり、その結果には努力する価値があると思います。

CLARITY法について、詳細はこちら

参考文献:

  1. http://www.cycif.org/
  2. http://web.stanford.edu/group/nolan/technologies.html
  3. Gerner M, Kastenmuller W, Ifrim I, Kabat J, Germain RN. Histo-Cytometry: A Method for Highly Multiplex Quantitative Tissue Imaging Analysis Applied to Dendritic Cell Subset Microanatomy in Lymph Nodes. Immunity 2012; 37(2):364-376.
  4. Tsujikawa T, Thibault G, Azimi V, Sivagnanam S, Banik G, Means C, Kawashima R, Clayburgh DR, Gray JW, Coussens LM, Chang YH. Robust Cell Detection and Segmentation for Image Cytometry Reveal Th17 Cell Heterogeneity. Cytometry A. 2019 Apr; 95(4):389-398.
  5. Komura D, Ishikawa S. Machine Learning Methods for Histopathological Image Analysis. Comput Struct Biotechnol J. 2018;16:34–42.
  6. http://lifecanvastech.com/technology/
  7. Phatnani H, Maniatis T. Astrocytes in Neurodegenerative Disease. Cold Spring Harb Perspect Biol. 2015 (6): a020628.
  8. Yang Z, Wang KK. Glial fibrillary acidic protein: from intermediate filament assembly and gliosis to neurobiomarker. Trends Neurosci. 2015; 38(6):364–374.
  9. Sofroniew, M. Astrogliosis. Cold Spring Harb Perspect Biol. 2015 (2): a020420.
  10. Duan W, Zhang YP, Hou X, Huang C, Zhu H, Zhang QC, Yin Q. Novel insights into NeuN: from neuronal marker to splicing regulator. Mol Neurobiol, 2016, 53:1637-1647
  11. Li W, Germain RN, Gerner MY. Multiplex, quantitative cellular analysis in large tissue volumes with clearing-enhanced 3D microscopy (Ce3D). PNAS 2017;114(35):E7321-E7330
  12. http://wiki.claritytechniques.org/index.php/Immunostaining#Primary_antibodies_used_in_CLARITY_literature
Ginny Bain, PhD
Ginny Bain, PhD
Ginny Bain博士は、Cell Signaling Technology免疫蛍光染色グループのグループリーダーです。自称顕微鏡オタクのGinnyは、定量的バイオイメージング、t-SNEプロット、そしてノースショアでのサイクリングのファンでもあります。

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