Reuben Shaw博士
ソーク研究所、分子細胞生物学研究室教授、ソークがんセンター副所長
AMPKは、高度に保存された細胞のエネルギー状態のセンサーであり、すべての真核細胞にみられ、細胞ストレスに直面した場合に増殖、代謝、オートファジーをリプログラミングすることにより代謝恒常性を維持します。
AMPKは、AMPとADPが調節サブユニットに直接結合することにより活性化され、上流キナーゼLKB1によるリン酸化が促進されます。LKB1は、がん抑制遺伝子であり、孤発性のヒト肺がんや子宮頸がんでは不活性化されています。AMPKは、このようながんに対する直接的な因果関係に加えて、多くの糖尿病治療薬によって活性化されるため、遺伝子操作されたがんや糖尿病のマウスモデルでLKB1やAMPKの役割を詳細に検査することになります。LKB1は、エネルギー状態に感受性のある、唯一の増殖や代謝リプログラミングに固有の制御因子であり、AMPKを介してその効果を媒介することが次第に明らかになっています。過去10年間にわたり、私達の研究室では、リン酸化プロテオミクスや遺伝学的手法、バイオインフォマティクスアプローチを組み合わせて、高度に保存されたAMPKの直接的な基質を特定してきました。それらが、代謝や増殖制御に対するAMPKの作用を媒介します。これらの研究を通じて、mTORシグナル伝達経路、オートファジー経路、代謝の転写調節因子のコンポーネントが特定されました。すべてがAMPKの直接的な基質です。また、下流のキナーゼULK1を特徴付けるためにかなりの努力がなされました。ULK1は、オートファジーの開始に関与する高度に保存されたキナーゼであり、意外なことに、主要なオートファジー経路に存在する唯一のプロテインキナーゼです。 我々は最近、オートファジーを阻害する低分子ULK1阻害剤を開発し、他のがんのターゲット療法と組み合わせ、原理実証細胞培養実験でその有用性を検証しています。
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オートファジーの詳細については、CSTのオートファジーのリソースページや、ブログ記事 (Autophagy:細胞の自食作用;Zikaウイルスは発達段階の神経組織においてAktシグナリングを抑制し、オートファジーをハイジャックする) をご覧ください。
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演者略歴
Reuben Shaw博士は、ソーク研究所の分子細胞生物学研究室の教授です。Shaw博士の研究室では、真核生物の細胞および組織レベルで代謝と増殖を調節する、AMPKシグナル伝達経路に着目しています。この経路はヒトの多くのがんで不活性化され、代謝性疾患で変調がみられます。Shaw博士は、コーネル大学で学士号を取得した後、M.I.T.のTyler Jacks博士の研究室でPh.D.コースを修了しました。博士号取得後、Shaw博士はハーバード大学医学部のLewis Cantley博士の下で研究を続け、がんと代謝の直接的な関連性を予期せず発見しました。2006年1月よりソーク研究所に研究室を構え、生化学、細胞生物学、遺伝子工学的なマウスがんモデルを組み合わせ、代謝、オートファジー、細胞増殖の調節における、がん抑制経路LKB1-AMPKの役割を解析しています。この研究を通じてAMPKの数多くの新しい直接的な基質を特定し、これによって栄養の欠乏によって細胞が代謝と増殖をリプログラミングするメカニズムの分子基盤が明らかになりつつあります。Shaw博士の研究室では遺伝子工学的なマウスモデルを利用して、糖や脂質代謝のリプログラミングが腫瘍形成に与える影響の解析し、複数のタイプのがんに対する新規治療法を開発や試験も行っています。Shaw博士は、米国がん協会や米国糖尿病協会による若手研究者の表彰など、数々の権威ある賞を受賞しています。Shaw博士は、2006年にはがん研究奨学生としてV財団に、2009年にはハワード・ヒューズ医学研究所のアーリーキャリア・サイエンティストに任命されました。2014年にShaw博士は、NCIが資金提供するソーク研究所がんセンターの副所長に着任されました。