CSTブログ: Lab Expectations

Cell Signaling Technology (CST) の公式ブログでは、実験中に起こると予測される事象や実験のヒント、コツ、情報などを紹介します。

一次抗体を凌駕する:クロマチンプロファイリング実験の成功に必要なもの

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CUT&RUNCUT&Tag、またはChIP/ChIP-seq実験で信頼できるデータを作成するには、高品質な抗体を使用することがいかに重要かはすでにご存知だと思います。しかし、CSTが、品質と再現性が確かなデータの取得に役立つ、クロマチンプロファイリングアッセイをサポートする試薬も提供していることはご存知ですか?

本ブログでは、抗体以外の関連試薬がデータにどれほどの影響を与えるかを紹介し、クロマチンプロファイリング実験の最適化に関するよくある以下の質問に回答します。

CSTは、クロマチンプロファイリングに関するすべてのニーズへのサポートこれらの関連試薬の開発や設計、実際に実験台で使用される前の厳密な検証による、データの品質の保護を行っています。さらなるサポートをお求めですか?これらの試薬は、研究者が利用しやすいように、カタログ製品であるCUT&RUNキットCUT&TagキットChIP/ChIP-seqキットまたは単品販売試薬の購入が可能です。

ブログ: 実験を成功に導くCUT&RUN検証済み抗体

誰しも、バッファーや酵素が本来の性能を発揮しないことにより、失敗したり曖昧な結果になったりする実験に時間を費やしたいとは思わないでしょう。

ChIP/ChIP-seq実験にどのビーズを使用すべきでしょうか?

プロテインGアガロースビーズまたは磁気ビーズは、抗体と組み合わせて、クロマチンに結合したタンパク質の濃縮に使用されます。しかし、多くのタイプのビーズが存在します。クロマチン免疫沈降 (ChIP) およびChIP-seqで最高のデータを取得するにはどのビーズが良いでしょうか?CSTは、ビーズの選択を容易にするために、ChIPグレードのビーズを開発しました。

CSTの科学者は、最適な濃縮と最小限のバックグラウンドを提供するビーズを特定するために、様々なタイプのビーズを評価しました。ChIPグレードの磁気ビーズを開発する際は、様々な標識化学も評価しました。ChIP-Grade Protein G Magnetic Beads #9006は、より優れたシグナル対ノイズ比 (S/N比) を得られるように非特異的タンパク質の結合をブロックするBSA含有バッファーで調製されており、ChIP-Grade Protein G Agarose Beads #9007は、非特異的タンパク質の結合をブロックするBSAと、非特異的DNA結合をブロックするソニケーションされたサケ精子DNAの両方を含むバッファーで調製されています。

ただし、アガロースビーズに結合したサケ精子DNAは、シーケンスの際に結果に混入する恐れがあるため、ChIP-seqを行う際はChIPグレードの磁気ビーズを使用する必要があることに注意してください。

ChIPグレードのビーズは、IPグレードのビーズに比べてより良いシグナル対ノイズ比を提供

図 ChIPグレードの磁気ビーズはより良い信号対雑音比を生み出す

ChIP-Grade Protein G Magnetic Beads #9006またはIP-Grade Protein A Magnetic Beadsを用い、HeLa細胞の消化したクロマチンと図に示す抗体を用いてChIPを行いました。精製したDNAを、図に示す遺伝子に対するプライマーを用いて定量的リアルタイムqPCRで解析しました。精製したDNA量は、トータルインプットクロマチンに対する比率 (%) で示しています。

ChIP/ChIP-seq用のクロマチンをソニケートする際に、どのようにしてクロマチンと抗体のエピトープを保護すれば良いでしょうか? 

クロマチンを可溶化し、共沈させやすくするために用いられる方法の1つに、ソニケーション (超音波処理) があります。しかし、ソニケーションは非常に過酷な処理であり、クロマチンと抗体結合エピトープの両方に損傷を与える可能性があります。CSTが提供する細胞および核の溶解バッファーは、クロマチンと抗体エピトープの完全性をより良く保護するように調製されていますが、クロマチンを断片化し、抗体結合を免疫沈降 (IP) に利用できる能力は保たれています。この能力は、転写因子やコファクターを調査する際に特に重要です。転写因子やコファクターは、ヒストン標識よりもクロマチンへの結合が弱く、存在量も少ないことが多いためです。

SimpleChIP® Sonication Cell and Nuclear Lysis Buffers #81804の構成品の一部でもあるSimpleChIP Plus Sonication Chromatin IP Kit #56383は、ヒストンマークについて、他の競合する製品と同等の次世代シーケンス (NGS) の結果を提供します。しかし、転写因子およびコファクターに関するNGSのシグナル対ノイズ比は、競合品と比較して、CSTが提供するバッファーの方が優れた結果をもたらすことを示しています。

転写因子やコファクターの相互作用を解析する際は、競合製品よりも、CSTのソニケーション法や細胞核溶解バッファーの方が優れた結果を提供CSTソニケーションと細胞核ライシスバッファーの性能

図2:各キットのメーカーが提供するプロトコールに従って、4x106個のHCT 116細胞からクロスリンクしたクロマチンを調製し、図に示す抗体を用いて免疫沈降しました。左のChIP-seqのトラックは、目的とする特定の領域における標的タンパク質の濃縮を示しています。右側のメタ遺伝子解析は、ゲノム全体で同定されたすべてのピークのシグナル対ノイズ比を示しています。ChIP-seqトラックとメタ遺伝子解析の両方で、インプットサンプルをネガティブコントロールとして使用しました。

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ChIP/ChIP-seq用のクロマチンをMNaseで断片化する際に、ばらつきを最小限にするにはどうすれば良いでしょうか? 

クロマチンを断片化するもう1つの選択肢として、ソニケーションの代わりにMNase (Micrococcal nuclease) を使用する方法があります。MNaseを使用する際は、同じ濃度であっても、酵素活性がロットによって異なる場合があることを考慮しなくてはいけません。CSTは、このような酵素活性の違いによるアッセイ間のばらつきを避け、実験にかかる時間の短縮を短縮するため、Micrococcal Nuclease #10011について、濃度ではなく酵素活性で標準化しています。さらに、MNase の新しいロットと前のロットを並べてタイトレーション実験を行い、活性を評価しています。そのため、CSTが提供するMNase 0.5 µLを400万個の細胞に添加するというステップにより、常に同じクロマチン消化パターンを取得できます。

下の例では、MNaseの新しいロットが前のロットと同じ活性を示すように調製されており、どちらも期待通りのクロマチン消化パターンが得られることを示しています。

MNaseを酵素活性で標準化し、ロット間の性能の一貫性を確保酵素活性_450によるMNaseの標準化

図3: 1回の消化に400万個のHFLM-2細胞を用いて、ホルムアルデヒドによるクロスリンクと、 SimpleChIP® Plus Chromatin Immunoprecipitation プロトコール (Magnetic Beads)に従ったクロマチン調製を行いました。異なる2種類のロットの Micrococcal Nuclease #10011を、濃度を増加させながら添加しています。 消化したクロマチンDNAサンプルは、上図に示す通り1%アガロースゲルで分離しました。推奨量のMNase (0.5 uL) によるクロマチン消化バンドパターンをレーン4とレーン9に示しています。

CUT&RUNまたはCUT&Tag実験で、DNA精製カラムを使用しても良いでしょうか?

CUT&RUNとCUT&Tagは、ChIP-seqの代替となる、より迅速でコスト効率が高い手法です。CUT&Tagアッセイを開発したHenikoff氏の研究室は当初、CUT&RUNで作製されるDNAはChIPに比べてより小さいため、DNA精製にフェノール-クロロホルム抽出を使用することを推奨していました。しかし、フェノール-クロロホルムは、非常に取り扱いが厄介であり、精製に時間がかかります。カラムは、より使いやすいのですが、すべてのDNA精製カラムが同じように作られているわけではありません。CSTの科学者は、弊社の精製カラムが、CUT&RUNおよびCUT&Tagアッセイで生成された、より小さなDNA断片を効率的に精製することを検証および確認しています。

ビデオ: CUT&RUNプロトコール:​映像ガイド

DNA Purification Buffer and Spin Columns (ChIP, CUT&RUN, CUT&Tag) #14209は、 35 bp以上のDNA断片を回収でき、CUT&RUN DNA断片の回収率は98%を超えます。残りの2%は、35 bp以下のDNA断片です。このカラムは、CUT&Tagにも対応しています。CUT&Tagでは、DNA精製前に目的のDNAにアダプターがライゲーションされるため、タグメンテーションされた断片は最低でも70 bpになります。新しいカラムバッチごとのDNAフラグメント回収率は、実際のクロマチンプロファイリング試験で確認されており、ご希望のアプリケーションで一貫した性能を発揮することが保証されています。

CUT&RUN DNA断片の精製法の比較ChIP CUTRUN CUTTagのためのDNA精製法の比較

図4:(A) 低分子のDNAラダーミックス (レーン1、未精製) を、DNA Purification Buffers and Spin Columns (ChIP, CUT&RUN, CUT&Tag) #14209 (レーン2) またはフェノール-クロロホルム抽出後にエタノール沈殿し (レーン3)、4%のアガロースゲルで電気泳動して分離しました。図に示す通り、フェノール-クロロホルム抽出後のエタノール沈殿ではすべてのDNAを効率よく回収できますが、DNAスピンカラムでは35 bp以上のDNA断片を回収できます。(B) TCF4/TCF7L2 (C48H11) Rabbit mAb #2569を用いてCUT&RUNアッセイを行った後に、フェノール-クロロホルム抽出とエタノール沈殿を行い、DNAを精製しました。ライブラリーに含まれるDNA断片の大きさは、Bioanalyzerシステムで解析しました。ライブラリーの構築中に付加されたアダプターやバーコード配列は、DNA断片のうちの140 bpを占めます。そのため、最初は35 bpであったDNA断片の長さは、ライブラリー調製の後は175bpになります (図中の青い縦線をご覧ください)。図に示す通り、CUT&RUNで濃縮されたDNA断片全体のうちのおおよそ2%が175 bp未満 (初めの長さは35 bp) であることから、DNA精製スピンカラムは、CUT&RUN DNA断片全体の98%以上を回収するのに十分であることが分かります。 

CUT&RUNまたはCUT&Tag実験に使用すべきジギトニンの濃度はいくらでしょうか?

CUT&RUN実験やCUT&Tag実験を行う際に使用するジギトニンは、酵素や抗体が入る程度に細胞膜や核膜を透過化させる量である必要があります。しかし、DNAなどのすべての内容物が外に出てしまうほどの量の場合、バックグラウンドが上昇してしまいます。ジギトニン活性も、MNaseと同様に、同じ濃度のジギトニンであってもロットによって性能が異なる場合があります。そのため、活性を評価するためのタイトレーション実験を行う必要があります。

CSTは、Digitonin Solution #16359の新しいロットごとにタイトレーションを行い、ロット間で同じレベルの活性であることを確保しているため、研究者は検証にかかる時間を短縮できます。新しいロットは、前のロットと並べて試験され、濃度ではなくシグナル強度で標準化されています。その後、新しいロットの最適濃度と前のロットをNGSを用いて比較試験し、同等の性能であることを確認しています。

タイトレーションによりジギトニンのロット間の活性の一貫性を確保ジギトニンタイトレーションロット間試験

最適濃度ジギトニン溶液

図5:HCT 116細胞とTri-Methyl-Histone H3 (Lys4) (C42D8) Rabbit #9751を用いて、CUT&RUN Assay Kit #86652でCUT&RUNを行いました。(A) 異なるロットおよび図中に示す様々な濃度のDigitonin Solution #16359をアッセイに使用しました。濃縮したDNAをヒトGAPDH exon 1プライマー、SimpleChIP® Human β-Actin Promoter Primers #13653SimpleChIP® Human MyoD1 Exon 1 Primers #4490を用いてリアルタイムPCRで定量しました。各サンプルの濃縮したDNA量は、インプットDNAの総量に対するシグナルで示しています。 (B) 新しいロットのDigitonin Solution #16359の最適濃度1.5%を使用し、前のロットと並べてNGSで比較しました。DNAライブラリーは、 DNA Library Prep Kit for Illumina (ChIP-seq, CUT&RUN) #56795を用いて調製しました。図は、H3K4me3の既知の標的遺伝子であるGAPDH全体への結合を示しています。

CUT&RUNまたはCUT&Tag実験に使用すべきpAG-MNaseとpAG-Tn5の量はどのくらいでしょうか?

CSTは、最適な性能とロット間における性能の再現性を実現するために、CUT&RUN用の pAG-MNase酵素とCUT&Tag用のpAG-Tn5酵素の開発と調製を行いました。新しい各ロットは、一貫した結果の取得を確保するために、濃度ではなく酵素活性について検証されています。

CUT&RUN実験に用いられるPAG-MNase酵素は、使用量に関しては許容範囲が広くなっています。しかし、それでもCSTは、 CUT&RUN Assay Kit #86652CUT&RUN pAG-MNase and Spike-In DNA #40366の構成品であるpAG-MNaseの調製と検証を行う際にも、前ロットと並べてタイトレーション試験とNGS試験を行っています。

pAG-MNaseの酵素活性の標準化によりロット間の性能の一貫性を確保pAG-MNaseのタイトレーション試験

NGSでのジギトニンの試験

図6:HCT 116細胞とTri-Methyl-Histone H3 (Lys4) (C42D8) Rabbit #9751を用いて、CUT&RUN Assay Kit #86652でCUT&RUNを行いました。(A) 異なるロットおよび図中に示す様々な量のpAG-MNase #40366 をアッセイに使用しました。濃縮したDNAを、ヒトGAPDH exon1プライマー、SimpleChIP® Human β-Actin Promoter Primers #13653 SimpleChIP® Human MyoD1 Exon 1 Primers #4490を用いてリアルタイムPCRで定量しました。各サンプルの濃縮したDNAの量は、インプットDNAの総量に対するシグナルで示しています。 (B) 新ロットのpAG-MNase #40366の最適量1.5 μLをアッセイに使用し、前のロットと並べてNGSで比較しました。DNAライブラリーは、DNA Library Prep Kit for Illumina (ChIP-seq, CUT&RUN) #56795を用いて調製しました。図は、H3K4me3の既知の標的遺伝子であるGAPDH全体への結合を示しています。

CUT&Tagアッセイを成功させるには、使用するpAG-Tn5酵素の量よりも活性が重要です。社内試験では、各反応に推奨される量以上の酵素を使用しても、リード数やピーク数、S/N比の増加は観察されませんでした (詳細はCUT&Tagのよくある質問のページを参照してください)。弊社は、CUT&Tag Assay Kit #77552の構成品でもあるpAG-Tn5 (Loaded) #79561酵素のロット間の一貫した性能を確保するために、新しいロットと前のロットを並べてタイトレーション試験およびNGS試験で検証しています。pAG-Tn5酵素の活性は、時間の経過とともに低下するため、酵素は-20℃で保存し、バイアルに記載されている有効期限内に使用する必要があります。

pAG-Tn5の酵素活性の標準化によりロット間の性能の一貫性を確保酵素活性によるpAG-Tn5の標準化

図7:HCT 116細胞と Tri-Methyl-Histone H3 (Lys4) (C42D8) Rabbit mAb #9751を用いて、CUT&Tag Assay Kit #77552でCUT&RUNを行いました。異なるロットおよび図中に示す様々な量のCUT&Tag pAG-Tn5 (Loaded) #79561をアッセイに使用しました。DNAライブラリーは、 CUT&Tag Dual Index Primers and PCR Master Mix for Illumina Systems #47415を用いて調製しました。図は、H3K4me3の既知の標的遺伝子であるGAPDH全体への結合を示しています。

ブログ:CUT&Tag DNAライブラリーの収量:Agilent BioanalyzerまたはTapeStationシステムで検出するには低すぎる場合

CST:ワンストップのクロマチンプロファイリング製品の販売店

CSTが開発および検証したChIPやCUT&RUN、CUT&Tag用の試薬を使用することにより、実験時間を短縮し悩みの種を取り除くことができます。弊社の科学者は、最高の結果が得られるように、バッファーや酵素、DNA精製カラムの最適化に時間を費やしてきました。また、ロット間の一貫性を保つために、前のロットと比較したタイトレーションを行い、長期にわたる製品性能の再現性を確保しています。さらに、使用予定のアプリケーションに適合する厳密に検証された抗体を使用することにより、信頼できるクロマチンプロファイリングデータを取得できます。

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Andrea Tu, PhD
Andrea Tu, PhD
Kallidus社グループのScientific Marketing ManagerであるAndrea Tu博士は、最新の科学的動向や開発の知識を得るのに夢中です。博士は、カリフォルニア大学バークレー校で分子細胞生物学の博士号を取得し、TGF-βシグナル伝達経路におけるSmadの翻訳後修飾について研究しました。Andrea博士は、カリフォルニア大学サンディエゴ校、ソーク研究所、スタンフォード大学、Agilent Technologies社、Bio-Techne社で20年にわたり、研究開発、営業サポート、マーケティングなどの技術職に携わってきました。

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