本シリーズのパート1では、プロトコールに適切なコントロールを組み込むことの重要性を説明しました。今回は、クロマチンの調製が実験の最終結果にどのように影響するかについて解説します。
まず最初に、検出しようとしている相互作用のタイプについて考えます。
- ヒストンとDNAとの相互作用のような高頻度かつ非常に安定なタンパク質-DNA相互作用は、非常に頻繁に生じるため、プロトコールが完全に最適化されていなくても検出できます。
- 特定の遺伝子に対するポリコーム群タンパク質 (Ezxh2など) の結合のような頻度が低く安定性の低い相互作用は、プロトコールがタンパク質とDNAの完全性を保護できない場合や、目的の標的に対する特異性が低い抗体を用いる場合は、検出閾値に満たないことがあります。
それでは、どのクロマチン調製法を選択すべきか考えてみましょう。
ステップ2:クロマチン調製
多くの研究室では、免疫沈降用にクロマチンを調製する際、ソニケーションを利用します。ソニケーションは効果的な方法ではありますが、クロマチンを高温や界面活性剤存在下などの過酷な変性条件にさらす必要があり、抗体エピトープおよびゲノムDNAの両方に損傷が生じるおそれがあります。また、ソニケーションでは、実験条件に誤差が生じます。調製の方法や品質は、使用しているソニケーターの種類やメーカー、また使用するソニケータープローブの条件によって変化します。さらに、わずか数秒の違いによって、クロマチンの断片化が不十分、あるいは過剰になるおそれがあります。結果として、この方法では、クロマチンを一貫して同じサイズの断片に調製することは困難です。
対照的に、ヌクレオソーム間のリンカー領域を切断するMicrococcal Nucleaseを使用する酵素消化は、穏やかな条件下でクロマチンを均一に断片化できます。酵素消化は、高温や界面活性剤を必要としないため、細胞数に応じた推奨される酵素量を使用すれば、一貫した結果が得られます。このように、酵素消化は制御が容易で、抗体エピトープとDNAをせん断したり変性させることなく、一貫性のある、高品質なクロマチンが調製でき、免疫沈降に良い結果をもたらします。
下記に示す実験は、SimpleChIP® Plus Enzymatic Chromatin IP Kit (Magnetic Beads) #9005または他社のソニケーションベースのキットを用いて行いました。まず、SimpleChIP®キットの取扱説明書に則った酵素消化、または他社の取扱説明書に則ったソニケーション処理によりクロマチンを調製しました。その後、SimpleChIP® Kitまたは他社のキットのいずれかの免疫沈降試薬、下に示す抗体を用いてクロマチンを免疫沈降しました。免疫沈降によって得られたDNAは、リアルタイムPCRを用いて定量し、トータルインプットクロマチンに対する比率を用いて算出しました。
酵素消化したクロマチンでは、他社のIP試薬キットとプロトコール、SimpleChIP®キットのIP試薬とプロトコールのいずれを使用した場合でも、ソニケーション処理したクロマチンよりも標的DNA部位が高濃度に存在することが分かりました。この違いは、ポリコーム群タンパク質 (Ezh2 [D] やSUZ12 [E]など) と特定の遺伝子の結合などといった、相互作用の安定性が低い場合に顕著でした。
ステップ3:免疫沈降 – DNAの回収の記事は、こちらからご覧いただけます
本記事は、ChIPプロトコールの改善方法に関する4回シリーズの第2回です。これらの投稿は、私達の完全版「Guide to Successful Chromatin IP」から編集したもので、下のボタンをクリックしてダウンロードすることができます。