数か月にわたる実験の後、データと夜遅くまでにらめっこし、横に置いた軽食で凌ぐ日々を経て、あなたは初めての研究発表を行おうとしています。すべて詳細まで暗記しているはずなのに、それでも聴衆を目の前にすると手のひらに汗をかいて、膝が震えてしまいます。
ご心配なく。それはあなただけではありません。予測不可能な質疑応答に臨むよりも、実験のトラブルシューティングに取り組む方がまだ楽だと考えています。研究室で、ホルムアルデヒドやBL-2サンプルを扱うときに防護服で身を固めるように、最前列の教授からの鋭い質問に対抗できる装備があればいいのに!
学部のゼミで初めてのプレゼンテーションを準備するにしても、学会で研究発表をするにしても、その準備は気の遠くなるような作業です。しかし、適切な準備をすれば、苦労して得た研究成果を説得力のあるストーリーに変えることができます。CSTの科学者の多くは、定期的に学会発表を行なっています。そこで、スライドの準備から不安の対処法まで、実践的なアドバイスを得るために2人の科学者と対談を行いました。
ステップ1:聴衆に合わせて内容をカスタマイズ
Richard Cho, PhD |
まず初めに、誰があなたの発表を聞くのかを考えます。「スライドを作成する前、あるいは発表のタイトルを書く前に、聴衆のことをよく考えてみてください。」とCSTの神経科学部門アソシエイトダイレクターであるRichard Cho博士は述べます。「特定のトピックに長い時間取り組んでいると、自分にとってはごく当たり前のことであっても、聴衆にとっては初めて触れるものであり、簡単な紹介が必要になるかもしれないということをつい忘れがちです。」
つまり、分野特有の専門用語を別の言い方に変更したり、聞き慣れない概念を説明するスライドを追加したりすることが必要になるかもしれません。例えば、小規模な学科内のセミナーや専門分野に特化した会議用に準備する発表資料と、大規模な国際イベント用に準備する発表資料は大きく異なります。
聴衆があなたのトピックにどの程度精通しているかや、彼らの背景や関心、技術的な知識レベルを理解することは、適切で分かりやすいメッセージの作成に役立ちます。
ステップ2:魅力的なスライドの作成
Virginia (Ginny) Bain博士 |
スライドは、口頭発表をサポートして強化するための、視覚的な補助の役割を果たします。内容を重要なポイントのみに絞り、視覚的に聴衆の関心を引くことができるスライドを作成する必要があります。「スライドにはできる限り言葉を書かないでください。」と、CSTの免疫蛍光染色グループリーダーのVirginia (Ginny) Bain博士は推奨します。「文字が多く書かれたスライドよりも、画像やグラフが書かれたスライドの方が聴衆にとって理解しやすいのです。その上で、言葉を少し追加するとより効果的なものになります。」
スライドをデザインする際は、発表会場の大きさを考慮し、すべての聴衆がはっきりと見ることができる十分な大きさの画像を用意してください。1枚のスライドに多くのデータを詰め込みすぎるのは、よくある失敗の1つです。
「拡大鏡がないと理解できないようなものを見せられることほど、聴衆を興醒めさせるものはないと私は思います。」と、Ginny博士は述べます。「可能であれば、講演時に使用するプロジェクターで練習し、色、特に赤が正確に表示されることを確認してください。時には、画像の特徴が失われないように、コントラストを調整する必要があるかも知れません。」
最後に、適切なフォントと色を選択し、すべてのスライドに統一感を持たせてください。「多くの組織が、発表者が使えるスライドテンプレートを用意しています。」と、Richard博士は述べます。「発表の組み立てをある程度進める前に、そのようなリソースがあるかどうかを問い合わせも良いかもしれません。」
よく作り込まれたスライドには2つの利点があります。1つ目は、話している最中に自身の記憶を呼び覚ますためのカンニングペーパーとして機能すること、2つ目は、聴衆があなたの言いたいことを聞き取れなかった場合に、スライドで確認できることです。しかし、スライドの文章や内容を直接読み上げることは避けてください。これをしてしまうと、間違いなく聴衆が興醒めしてしまいます。なぜなら、彼ら自身が、ただ単にスライドを読めばいいという気持ちになってしまうからです。
ステップ3:聴衆を魅了する進め方
魅力的なスライドを作成するだけではなく、他にも聴衆を惹きつけ続けるためのテクニックがいくつかあります。
ストーリーとして伝える
人は、物事を「ストーリー」として考えることを好むため、優れた研究発表を行うための鍵の1つは、「データを用いた説得力のあるストーリー」を作り上げることにあります。
「スライドを作り始める前に、頭の中で全体的なストーリーを考えるのが好きです。」と、Ginny博士は説明します。「もちろん、頭の中ではいつも完璧なストーリに仕上がっているのですが、書き出してみると矛盾点があることに気づきます。この書き出すという手法は、ストーリー全体を俯瞰することができるため、改善が必要な部分を特定するのに役立ちます。」
研究を始めた当初、何に最も興奮したかを振り返るのもよいかも知れません。あなたの研究は最終的にどのような問題の解決に役立つのでしょうか?なぜ重要なのでしょうか?研究結果を全体像に織り込むことにより、聴衆の関心を引き、記憶に残る発表を行うことができます。
「若手の研究者が陥る落とし穴の1つは、研究成果を順序立てて紹介しようとすることです。それよりも、聴衆に対し、ストーリーを語るように研究成果を紹介する方がより効果的なこともあります。」とGinny博士は説明します。「私は自分のストーリーを作るとき、何をいつ見せるかを決める前に、全体像を把握するためにパワーポイントやホワイトボードを使ってデータを順番に整理しています。」
研究成果の紹介の仕方により、複雑な概念をより身近なものにし、多くの聴衆が理解しやすいものにできます。
サプライズ
研究成果をストーリーに落とし込みながら、それが聴衆の予想をどのように良い形で裏切るか、サプライズの要素を聞かせどころとして使えるかを考えます。
「あらゆる優れたストーリーに、サプライズはつきものです。」と、Richard博士は説明します。「サプライズとは、予期せぬ発見や直感に反する結果、従来の常識を覆す興味深い話などです。」可能であれば、発表にサプライズを盛り込むことにより、ストーリーに面白みや刺激が加わり、活発な議論や討論を巻き起こすことができるかもしれません。
「私が遭遇した成功例の1つでは、まず、発表の冒頭で質問を投げかけ、驚くような答えがあるのかもしれないと聴衆に暗示をかける戦略です。ただし、すぐに答えを出してはいけません。」と、Richard博士は述べます。「発表の後半で、その質問に話を戻します。」
ステップ4:練習、練習、そして練習
発表のスキルを向上させるには、準備として何回も練習することが不可欠です。練習を始める前に、イベントの形式と時間配分を考慮し、それに応じて発表の長さを調整してください。例えば、大規模な学会では、司会者が講演者のスケジュールを管理し、質問は通常、最後にまとめて行われます。また、聴衆との対話形式で話を進めることもあります。そのような場合は、質問に対して時間を多めに確保する方が良いでしょう。準備を進めるにあたり、発表練習にかかる時間を測ることにより、異なる発表形式に合わせてスピーチの速度を調整できます。
「発表練習はとても重要です。」と、Ginny博士は強調します。「私は講演の1週間前に集中して練習します。毎日、数回は練習します。時間を確保するのが難しく、通勤中や夕食の調理中にリハーサルしたりすることもあります。このような練習は、話がまとまらなかったり、間違ってしまった時に挽回する方法を学べるという利点もあります。」
練習の回数は、講演の長さや準備期間など、様々な要因によって異なります。最低でも3回は練習し、そのうち少なくとも1回は、実際に人前で発表練習することを目標にしてください。そうすることにより、
発表内容を覚えることができ、話し方に磨きをかけ、改善すべき点を
見つけることができます。
練習を重ねながら、発表内容とスライドについてのフィードバックをもらってください。「研究室の仲間や同僚からの意見は貴重です。」と、Ginny博士は強調します。「私の経験談ですが、彼らはしばしば素晴らしい洞察力を持っています。私は、発表の内容を直前に変更して混乱することがないように、このプロセスを早めに行います。」
「様々な聴衆からのフィードバックを得ることも重要です。」と、Richard博士は付け加えます。自分の専門分野の専門家だけでなく、研究室の外から、あるいは場合によっては異なる専門分野の研究者を招き、様々な方法でメッセージを表現することを学ぶことも検討してください。
発表の準備が完了したら、「スライドのサムネイルを印刷するか、スマホ用のPDFを作成してください。」と、Ginny博士はアドバイスします。「手元にスライドがあれば、他のことをしながら練習する時間を確保しやすくなります。」
発表当日は集中力を保つ
これらのプロセスは、技術を習得するという最終目的に向かう過程であることを忘れないでください。陳腐な表現に聞こえるかもしれませんが、失敗はあらゆるスキルの上達に欠かせません。経験豊富な講演者でも、緊張して失敗すことがあります。
「不安を感じたら、自己をコントロールする強力なツールである『square breathing』を使ってみてください。私もこれに助けられています。」と、Ginny博士は述べています。「4秒かけて息を吸い、4秒間息を止め、4秒かけて息を吐き、また4秒間息を止めます。このようにして、呼吸に集中します。」
発表の際は、柔軟に対応し、カバーしたいポイントすべてをカバーできないかもしれないと考えておいてください。「緊張してしまい、詳しく話すつもりだったことをついつい飛ばしてしまうことはよくあることです。」と、Ginnyは述べます。「そのような場合でも、取り乱さないように頑張ってください!」
最後に、「自分たちに最も手厳しい批評を行うのは、自分たち自身であるということを忘れないでください。」と、Richard博士は述べます。「聴衆は、あなたのストーリーを知りたがっているのです。気持ちは伝わるものです。あなたが熱意を持って話をすれば、聴衆も同じように熱意を持って応援してくれるでしょう。」
ステージに上がる際は、自分の準備を信じ、リラックスして、自分の研究を世界に伝えるというやりがいのある経験を楽しんでください。
その他のリソース
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