細胞周期の調節は、組織の恒常性の維持と、Robert Weinberg博士とDouglas Hanahan博士が初めて報告したがんの特性のうちの2つである持続的な増殖シグナル伝達とアポトーシスの回避を防ぐために不可欠です。発達の過程において、細胞周期は4種類のメンバーを含むINK4ファミリーのうちの3種類により調節されますが、これらの発現は加齢とともに減少します。一方、残りのメンバーであるp16 INK4Aは、発達の初期は発現が低く、加齢とともに着実に増加します1。
p16は、細胞周期の調節に関与し、その発現パターンが加齢と関連することから、このタンパク質は細胞の老化やがんの研究における重要な標的となっています。
細胞老化と加齢におけるp16の役割は何か?
細胞老化は、広範なDNA損傷、または有害な遺伝子変異を持つ細胞の分裂を阻止するための応答機構です。そのため、細胞老化はがんの予防に重要であり、テロメアの短縮やDNA損傷、酸化ストレスなどの内因性または外因性ストレスにより誘導されます。一方で、加齢に伴うこのような老化細胞の蓄積は、がんなどの加齢に伴う疾患にも関連します2。
p16は、他のINK4ファミリーのメンバーと同様に、細胞周期のG1期からS期への移行の役割を担う細胞周期調節因子です。Rb (Retinoblastoma) 経路では、p16 INK4AはCDK4/6 (Cyclin-dependent kinase4/6) に結合してその活性を不可逆的に阻害し、S期への移行を阻止することにより細胞の増殖を停止させます。p16は、点変異または完全喪失のどちらであっても、高い頻度でいくつかのがんにおける早期治療の選択的な標的となることから、その発現は特に加齢に伴うがんの予防に不可欠であることが分かります1,3。
この関連性はマウスの研究でも実証されており、p16 INK4Aの発現は寿命の後半において急激な増加がみられます。INK4ファミリーの他の3つのメンバーであるp15 INK4B、p18 INK4C、p19 INK4Dは、発達段階の初期に広く発現しているのに対し、p16は健康で若い組織では発現が抑制されており、時間の経過とともに増加します1。
p16が持つ増殖を停止させる能力は、腫瘍を抑制する重要な役割を担っており、この遺伝子の変異や完全喪失はどちらもいくつかのがんと関連しています。p16は通常、大半のがんにおいて疾患の進行を可能にするために早い段階で不活性化されています2。 しかし、p16の本来の役割は依然として不明であり、その発現量はがんのタイプにより大きく異なります3。
p16 INK4Aはがんの進行にどのように寄与しているのか?
老化細胞は、老化関連分泌表現型として知られるセクレトームにおいて、動的な変化を示します。この変化には、炎症性サイトカインやプロテアーゼ、成長因子などの発現上昇と放出が含まれ、周辺組織に影響を与えます。その結果、加齢に伴って生じる老化細胞が、免疫系の適切な除去から免れて蓄積することにより、腫瘍の発生を進行させる一因になると考えられています。
子宮頸がんや尿路上皮がん、多形性膠芽腫、頭頸部扁平上皮がん、肺扁平上皮がん、前立腺腺がん (図1)、皮膚黒色腫などのpRb陰性の悪性がんでは、p16の高い発現がみられます2,3。
図1:パラフィン包埋したヒト前立腺腺がん組織をp16 INK4A (BC42) Mouse mAbを用いて免疫組織化学染色で解析しました。
しかし、p16の過剰発現の意義は未だ不明です。G1-S期のチェックポイントの機能不全により細胞の増殖を防ぐことができなくなったのか、それともp16の過剰発現が強力な免疫-発がんの応答を引き起こしているのかを特定するにはさらなる研究が必要です。
124種類の腫瘍におけるp16の発現を調べた広範な研究から、子宮頸がんや子宮体がん、陰茎がんなどの特定のがんにおいて、HPV感染とp16の非常に高い発現との間に関連性があることが分かりました3,5 。しかしながら、この関連性は一貫しておらず、腫瘍の進行中にp16が示す複数の役割を理解するためには、より多くの研究が必要です。
がん研究におけるIHC検証済み抗体の重要性
がん研究者はよく、がんの診断や特性解析のために、組織サンプルにおける特異的なバイオマーカーの検出に免疫組織化学 (IHC) を用います。3,000を超える研究において、正常組織または腫瘍組織におけるp16バイオマーカーの発現の調査にIHCが用いられています。しかし、非常に多様な結果が得られているため、依然として多くのがんにおけるp16の発現が担う役割は不明です。このばらつきは、検証されていない複数の抗体の使用や免疫染色プロトコールの違い、p16の発現量の特定に標準化されていない基準を用いていることが原因であると考えられています3。
Cell Signaling Technologyの p16 INK4A (BC42) antibody (図2) は、内在性p16 INK4Aのトータルタンパク質の発現量を検出できます。この抗体は、CSTのHallmarks of Antibody Validation (抗体検証における戦略) に従いIHC用に厳密に検証されており、子宮頸がんなどの研究に広く使用されているヒト組織を用いて試験されています。
図2. パラフィン包埋したヒト子宮頸部扁平上皮がん組織を、p16 INK4A (BC42) Mouse mAb #68410を用いてIHCを行い、Leica社のBOND Rx Fully Automated Research Stainerで解析しました。
老化バイオマーカーの発現にみられるばらつきは、老化刺激や細胞タイプ、解析タイミングに依存する可能性があるため、適切な特定と特性解析にはp16などの複数の老化関連マーカーを用いることが重要です。
がんにみられるp16の発現プロファイルが明確かつ多様であることから、研究において正確な解析を行うには高度に検証された抗体が重要です。また、IHC解析による標的の特異性の決定には、複数の検証ステップが必要です。CSTは、IHC抗体の検証ステップにパラフィン包埋した細胞ペレット (図3) や、標的の発現量が分かっている細胞株の異種移植片、特異性が実証されているブロッキングペプチド、関連するがんのモデルマウスやヒトのがん組織アレイなど、その他にも様々な方法を用いています。
図3:CSTのIHC アッセイ用抗体検証のステップの1つである、p16 INK4A (BC42) Mouse mAbを用いたパラフィン包埋したHeLa細胞ペレット (左、陽性) またはMCF7 細胞ペレット (右、陰性) のIHC解析の結果を示しています。
IHCアッセイに特化した厳格な抗体検証と最適化手法により、科学者は結果に自信を持つことができ、さらに自身でこのプロセスを行う時間を節約し、研究に集中することができます。
p16 INK4A:加齢とがんにおける老化の研究に不可欠なバイオマーカー
細胞老化の際にみられるp16の発現は、加齢に関連しており細胞周期の調節因子としての役割を持つため、がん研究の主要な標的となっています。現在までに、多くのp16 INK4Aに関する研究が行われ、その発現と特定の悪性がんとの関連性が示されていますが、研究間で結果に大きなばらつきがあるため、p16発現の意義と役割は依然として不明です。
細胞老化や加齢、がんの研究において重要な役割を果たすp16の発現を正確に検出して解析するために、現在進行中の研究にIHC検証抗体を用いることが重要です。
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参考文献:
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Zindy F, Quelle DE, Roussel MF, Sherr CJ. Expression of the p16INK4A tumor suppressor versus other INK4 family members during mouse development and aging. Oncogene. 1997;15:203-211. doi: 10.1038/sj.onc.1201178
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LaPak KM, Burd CE. The Molecular Balancing Act of p16INK4A in Cancer and Aging. Mol Cancer Res. 2013;12(2):167-83. doi: 10.1158/1541-7786.MCR-13-0350
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De Wispelaere N, Rico SD, Bauer M, et al. High Prevalence of p16 Staining in Malignant Tumors. PLoS ONE. 2022;17(7):e0262877. doi: 10.1371/journal.pone.0262877
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