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細胞死のメカニズム:フェロトーシス

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フェロトーシスとは?

フェロトーシスは、鉄依存性のプログラム細胞死の一形態であり、脂質過酸化物の増加を伴う独特の形態学的および生化学的特性を持っています。形態学的には、フェロトーシスを起こしている細胞は、ミトコンドリア容積の減少、二重膜密度の増加、ミトコンドリアクリステの減少または消失を示します。細胞膜は破壊されますが、核は正常な大きさであり、アポトーシスで観察されるようなクロマチンの濃縮はみられません。ネクロプトーシスパイロトーシスなどの他の制御されたネクローシスと同様に、フェロトーシスは細胞膜の完全性の喪失を伴いますが、その機構は異なります。細胞膜の完全性が損なわれると、損傷関連分子パターン (DAMP) が放出され、炎症反応が誘導されます。 

本ブログでは、鉄の恒常性、脂質代謝、酸化ストレスの制御などの役割を含む、フェロトーシスに関与する主なメカニズムや経路、タンパク質について解説します。

鉄の恒常性

遊離した二価鉄 (Fe2+) は、フェントン反応により自発的な脂質過酸化を引き起こし、細胞膜に損傷を与える活性酸素を発生させる可能性があります。フェロトーシスは鉄依存性であるため、鉄の恒常性とFe2+の供給に寄与する経路によって制御されます。特に注目すべき点として、フェロトーシスは、Deferoxamineなどの一般的な鉄キレート剤によって阻害されることが挙げられます。

鉄の恒常性の維持には、鉄の吸収や輸送、利用、貯蔵を制御する複数のプロセスが関与します。三価鉄 (Fe3+) は、肝臓で生成される糖タンパク質であるTransferrinによって血液中に運搬されます。Transferrin-鉄複合体が、II型膜貫通型受容体であるTransferrin受容体 (CD71, TFRC) に結合すると、鉄が細胞内に輸送されます。細胞のエンドソーム内で、STEAPファミリーのメンバーによりFe3+は二価鉄へと還元されます。Ferritinは、重鎖 (FTH) 軽鎖 (FTL) から構成される細胞内の主要な鉄貯蔵タンパク質であり、鉄を無毒性かつ生物学的に利用できる形態に保ちます。選択的オートファジーの一種であるフェリチノファジーは、リソソームを介してフェリチンを分解し、鉄を放出してフェロトーシスを促進する可能性があります。

FTH1 Antibodyを用いた子宮内膜腺がん細胞のIHCパラフィン包埋ヒト子宮内膜腺がん組織を、リコンビナントモノクローナル抗体FTH1 (D1D4) Rabbit mAb #4393を用いて免疫組織化学染色 (IHC) で解析しました。

フェリチノファジーは、フェリチンの選択的カーゴ受容体である核内受容体活性化補助因子4 (NCOA4) によって媒介されます。この受容体は、オートファゴソームの標的となります。一方、細胞外に鉄を輸送する膜タンパク質であるFerroportin-1 (FPN1) を介して、細胞外に鉄を輸送することもできます。

NCOA4抗体を使ったWB解析様々な細胞株の抽出物を、組換えモノクローナル抗体NCOA4 (E8H8Z) Rabbit mAb #66849 (上段) またはβ-Actin (D6A8) Rabbit mAb #8457 (下段) を用いてウェスタンブロット (WB) で解析しました。予想通り、HT-1080細胞とOVCAR-4細胞では、NCOA4の発現が低くなっています。

酸化ストレスに対する防御

酸化ストレスに対する細胞防御を制御する経路が、フェロトーシスの軽減には重要です。Ferrostatin-1やLiproxstatin-1のような低分子の親油性フリーラジカル捕捉剤によってフェロトーシスを阻害することができます。特にグルタチオン経路は、重要な抗酸化防御経路であることが確認されています。このプロセスの中心となるのが、代謝タンパク質である Glutathione Peroxidase 4 (GPX4) であり、GSHを酸化型グルタチオン (GSSH) に変換することで、細胞毒性のある脂質の過酸化を制限し、フェロトーシスから細胞を保護します。GPX4阻害剤RSL3は、強力なフェロトーシス誘導剤です。

GPX4抗体 (フェロトーシスマーカー) を用いたIHC解析パラフィン包埋ヒト乳頭状甲状腺がん組織を、フェロトーシスマーカーであるリコンビナントモノクローナル抗体GPX4 (E5Y8K) Rabbit mAb #59735を用いてIHCで解析しました。

グルタチオンペルオキシダーゼ経路は、System Xc-と呼ばれるアミノ酸逆輸送体によってさらなる制御を受けます。System Xc-は、ジスルフィド結合したxCT/SLC7A11SLC3A2 (4F2hc/CD98) からなるヘテロニ量体です。System Xc-阻害剤であるErastinは、強力なフェロトーシス誘導剤です。

SLC3A2抗体を使用したIF解析HeLa細胞 (左、高発現) またはSH-SY5Y細胞 (右、低発現) を、リコンビナントモノクローナル抗体4F2hc/SLC3A2 (D3F9D) XP® Rabbit mb #47213 (緑) を用いて蛍光免疫染色 (IF) で解析しました。青の疑似カラーは、蛍光DNA色素のDRAQ5® #4084の染色を示しています。

その他の重要な防御調節因子として、転写因子NRF2が挙げられます。NFR2は、GPX4を含む酸化ストレスに関わる遺伝子の調節に寄与し、フェロトーシスに対する重要な防御機構として機能します。

NRF2 antibodyを使用したChIP解析SimpleChIP® Plus Enzymatic Chromatin IP Kit (Magnetic Beads) #9005とリコンビナントモノクローナル抗体NRF2 (D1Z9C) XP® Rabbit mAb #12721を用いて、DEM (50 μM, 3時間) で処理し、クロスリンクさせたMEF細胞のクロマチンのChIPを行いました。DNAライブラリーの調製には、DNA Library Prep Kit for Illumina ® (ChIP-seq, CUT&RUN) #56795​を用いました。この図は、NRF2の既知の標的遺伝子とNQO1 (下) への結合と、8番染色体 (上) への結合を示しています (ChIP-qPCRデータを含む図も参照してください)。

正常であれば、NRF2の発現はKEAP1との相互作用により抑制されています。KEAP1は、E3ユビキチンリガーゼ複合体の一部であり、NRF2をプロテアソームよる分解に誘導します。酸化ストレスによってKEAP1に構造変化が起きると、この相互作用が阻害されて、NRF2が安定発現します。

KEAP1抗体を使用したWB解析100 nMのSignalSilence® Control siRNA (Unconjugated) #6568 (-) とSignalSilence® KEAP1 siRNA I #5285 (+) またはSignalSilence® KEAP1 siRNA II #5289 (+) をトランスフェクトしたOVCAR8細胞の抽出物を、リコンビナントモノクローナル抗体KEAP1 (D6B12) Rabbit mAb #8047 (上) または α-Tubulin (11H10) Rabbit mAb #2125 (下) を用いてWBで解析しました。KEAP1 (D6B12) Rabbit mAbの結果から、KEAP1の発現が抑制されていることを確認できました。α-Tubulin (11H10) Rabbit mAbはローディングコントロールとして使用しています。

このプロセスは、さらにオートファジー経路にも制御されており、オートファジーカーゴ受容体SQSTM1/p62が、KEAP1-NRF2複合体を競合的に阻害することによりNRF2が増加します。

SQSTM1p62抗体を使用したIHC解析パラフィン包埋マウス前胃組織を、リコンビナントモノクローナル抗体SQSTM1/p62 (D6M5X) Rabbit mAb #23214を用いてIHCで解析しました。

脂質代謝

脂質代謝とは、脂質の分解と合成のプロセスを指します。脂質は、炭素原子間に単結合のみを持つ飽和脂肪酸か、炭素原子間に1つ以上の二重結合を含む不飽和脂肪酸のいずれかを含みます。多価不飽和脂肪酸 (PUFA) を含む脂質は、フェロトーシスの間に過酸化されやすい傾向にあります。

脂質代謝に重要な酵素であるACSL4は、フェロトーシスの重要な調節因子でもあります。ACSL4は、アラキドン酸などの多価不飽和脂肪酸 (PUFA) のリン脂質への取り込みを促進します。このプロセスは、脂質の過酸化を促進します。ASCL4の高発現は、フェロトーシスに対する感受性の増大につながります。

ACSL4抗体 (フェロトーシスマーカー) を用いたIF解析Caki-1細胞とMCF7細胞を、ACSL4 (F6T3Z) Rabbit mAb #38493 (緑)、DyLight 554 Phalloidin #13054 (赤)、DAPI #4083 (青) を用いて蛍光免疫染色で解析しました。

フェロトーシス研究用のAntibody Samplerキットとツール

フェロトーシスをモニターするツールには、薬理学的感受性​ (鉄キレートや抗酸化剤など) の利用、標的分子 (GPX4、SCL7A11、Ferritin、NRF2など) の発現量の変化の調査、活性酸素や脂質過酸化のモニタリング、グルタチオンアッセイなど、様々なアプローチが含まれます。

CSTは、フェロトーシスをはじめとする様々な代謝経路を解析するためのSamplerキットを提供しています。お客様の研究に関連するタンパク質を特定し、研究を効率的に進めるのにお役立てください。

  • Ferroptosis Antibody Sampler Kit #29650:GPX4、KEAP1、NRF2などの主なフェロトーシス制御因子に対する抗体が含まれています。KEAP1-NRF2などの経路を介したフェロトーシス細胞死の分子メカニズムやその制御の研究に最適です。
  • Redox/Ferroptosis Antibody Sampler Kit #70703:酸化還元の制御とフェロトーシスのプロセスとの関連性を研究するためのキットです。AIFM2/FSP1、GPX4、Thioredoxinに対する抗体が含まれています。
  • Iron Homeostasis/Ferroptosis Antibody Sampler Kit #36354:Thioredoxin、Thioredoxin受容体、Ferroportin-1に対する抗体が含まれています。また、FTH1などのフェロトーシス関連マーカーの抗体も含まれています。
  • Lipid Metabolism/Ferroptosis Antibody Sampler Kit #58434:脂質リモデリングと、それによるフェロトーシス細胞死への影響を研究する研究者に最適な、ACSL1、ACSL2、ACSL3、ACSL4、LPCATs、SREBP-1に対する抗体が含まれています。
  • Glutathione Metabolism/Ferroptosis Antibody Sampler Kit #84600:GPX4、xCT/SLC7A11、GCLC、Glutaminase-1、Glutaminase-2、GOT1、GOT2に対する抗体など、グルタチオン代謝とフェロトーシスに関連するタンパク質の検出に適した抗体が含まれています。

その他のリソース

様々なタイプの細胞死のメカニズムや形態、主要なタンパク質についての詳細は、以下のガイドをダウンロードしてご覧ください。 

 

 

細胞死のメカニズムシリーズのその他のブログ記事はこちら: 

アポトーシスなどのプログラムされた細胞死を起こした細胞を確実に検出できるCST® TUNELキットの詳細はこちらをご覧ください。


参考文献

本ブログ記事は、2021年6月に公開されました。2025年4月に改訂しています。20-CEP-94379 and 25-HMC-18550

Gary Kasof, PhD
Gary Kasof, PhD
Gary Kasof博士は、細胞生物学の製品デザイン&戦略部門のダイレクターであり、20年以上CSTで勤務しました。博士は、細胞死とオートファジーを中心に、複数の研究分野で1,000種類近くもの抗体の販売に貢献してきました。CST入社前は、1995年にコロンビア大学で博士課程を修め、ラトガース大学とアストラゼネカ社での勤務経験があります。

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