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パーキンソン病におけるオートファジー-リソソーム経路の特性解析

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CSTは、PD研究を前進させるためにMichael J. Foxパーキンソン病財団 (MJFF) とパートナーシップを締結したことを大変嬉しく思います。本パートナーシップの詳細をご覧になり、PDのリソースを探索してください

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パーキンソン病の影響を受ける人の数は増加しており、2030年までに50歳以上のうち800万人以上がパーキンソン病になると予測されています1この疾患は、複数の細胞内経路の障害により中脳のドーパミン作動性神経細胞が徐々に失われることが特徴であり、現時点で治療法はありません。PDの有効な治療法を開発するには、神経変性の根本的なメカニズムを調べるための高品質な抗体が必要です。

LRRK2 (Leucine-rich repeat kinase 2) 遺伝子は、PDの最も一般的な遺伝的要因です。LRRK2の変異は、神経細胞におけるオートファジー-リソソーム経路 (ALP) の動態に影響を与えることにより、疾患の進行に寄与すると考えられています2患者由来の人工多能性幹細胞 (iPSC) は、このLRRK2変異の影響を研究し、新たな抗体試薬を作製するための強力なツールとなります。

パーキンソン病のシグナル伝達パスウェイ図をダウンロード

CSTは、FUJIFILM Cellular Dynamics社のサポートのもと、PDにおける細胞プロセスの評価に役立つ、オルガネラや中枢神経系 (CNS) のマーカーに対するラビットおよびマウスのモノクローナル抗体製品ラインナップを開発しました。弊社は、抗体検証戦略の一環として、以下のドナーから作製したiPSC由来のドーパミン作動性神経細胞 (iCell® DopaNeurons) におけるエンドソームタンパク質とリソソームタンパク質の発現を、ハイスループットイメージングを用いて定量しました。

  • 健康と思われる健常ドナー
  • LRRK2 G2019S変異を有するPDと診断されたドナー
  • 変異が修復されたLRRK2を持つPD診断ドナー

本ブログでは、弊社がこれらのin vitroモデルを用いて、ALP関連タンパク質を特異的に標識する抗体を検証した方法を詳しく紹介します。また、ブログの最後に、オルガネラと中枢神経系 (CNS) のマーカー用に開発したラビットおよびマウスのモノクローナル抗体のリストを掲載しています。

<製品リストを見る>

iPSC由来ドーパミン神経細胞の同定

Cell Signaling Technology (CST) は、Hallmarks of Antibody Validation™に従って抗体の検証を行い、弊社抗体が高い特異性を有し、特定のアプリケーションで期待通りに機能することを保証しています。弊社は、Hallmarks of Antibody Validationに含まれる6つの補完的な検証戦略のうちのどれを各抗体に適用するかを、適切な試験モデルの利用や標的の生物学的役割に応じて慎重に調整し、弊社抗体が目的に適合することを保証しています。

弊社は、FUJIFILM Cellular Dynamics社と協働し、PD研究用抗体の製品ラインナップを開発する際に彼らが持つヒトiPSC由来のドーパミン作動性神経細胞 (iCell® DopaNeurons:健康と思われる健常ドナー;#R1032、LRRK2 G2019S;#R1234、LRRK2 G2019S/G 変異を修復したコントロール;#R1243) を検証に使用しました。これらの神経細胞は市販されており、解凍時には完全に分化しているため、生物学的に適切で再現性のある結果を迅速に取得できます。

まず、iPSC由来ドーパミン作動性神経細胞を、iCell DopaNeuronsのユーザーガイドに従って培養しました。14日間の培養後に細胞をメタノールで固定し、ホルムアルデヒド固定による免疫蛍光染色プロトコールまたはメタノール固定を必要とする細胞アッセイ用の免疫蛍光染色プロトコールのいずれかを使用し、様々な細胞マーカーおよび中枢神経系細胞タイプのマーカーを用いて染色しました。Operetta CLS HCAシステムの共焦点モード (63倍) で撮影し、Harmonyハイコンテント解析ソフトウェア、ImageJ用のMitochondria Analyzer 3CellProfilerで定量し、画像を取得しました4

図1は、コントロールおよびLRRK2 G2019SのiPSC由来のドーパミン作動性神経細胞を、神経核 (NeuN) やチロシン水酸化酵素 (TH)、β3-Tubulin、FoxA2 (Forkhead box protein A2) に対するCST抗体を用いて免疫蛍光染色して解析した結果の代表例を示しています。この染色により、これらの細胞がドーパミン作動性神経細胞であることを確認しました。

パーキンソン病の原因として知られるLRRK2 G2019S変異を持つiCell DopaNeurons

図1:iCell® DopaNeuronsの細胞タイプを同定しました。健常ドナー由来のWTドーパミン作動性神経細胞と、LRRK2 G2019S変異を有するドーパミン作動性神経細胞を、NeuN (E4M5P) Mouse mAb #94403Tyrosine Hydroxylase (E2L6M) Rabbit mAb #58844 (上パネル) または β3-Tubulin (E9F3E) Mouse mAb #45058FoxA2/HNF3β (D56D6) XP® Rabbit mAb #8186 (下パネル) で染色しました。

iCell® DopaNeuronsにおけるリソソームの評価

3種類のiPSC由来ドーパミン作動性神経細胞におけるリソソームの評価には、LAMP1 (Lysosome-associated membrane protein 1) とCTSB (Cathepsin B) の染色を用いました。対比染色に、β3-TubulinとDAPIを使用しています。その後、図2に示すように、平均蛍光強度 (MFI)、1神経細胞あたりのスポット数とスポット面積を定量しました。 

iCell DopaNeuronsで画像化されたリソソームタンパク質

図2:iCell® DopaNeuronsにおけるリソソームタンパク質のイメージングを行いました。リソソームタンパク質をLAMP1 (D2D11) XP® Rabbit mAb #9091 (A) とCathepsin B (D1C7Y) XP® Rabbit mAb #31718 (E) 用いて健常コントロール神経細胞、LRRK2 G2019S変異を有する神経細胞、LRRK2変異を修復したコントロール (MCC) 神経細胞由来のiCell® DopaNeurons上でイメージングし、画像の平均蛍光強度 (B、F)、1神経細胞あたりのスポット数 (C、G)、スポット面積 (D、H) を定量しました。

LAMP1とCathepsin BのMFIは、LRRK2 G2019S神経細胞では健常なコントロール神経細胞や変異を修復した神経細胞と比較して低い傾向にありましたが、これはリソソームの欠損がPDの特徴であることから予想されていました。1神経細胞あたりのLAMP1陽性のスポット数とスポット面積をそれぞれ定量してリソソームの数とサイズを調べたところ、遺伝子型による違いは認められませんでした。

LRRK2 G2019S変異を有する神経細胞ではLC3シグナルが増加

3種類の異なる細胞タイプのLC3 (Light chain 3) をLC3A/B (D3U4C) XP® Rabbit mAb #12741を用いて染色し、オートファジーについて比較しました。図3は、LRRK2 G2019S神経細胞ではLC3が増加し、LRRK2変異を修復したコントロール (MCC) 神経細胞では正常レベルまで回復していることを示しています。

LC3染色の定量化

図3LC3の染色を定量しました。各iCell® DopaNeuronsをLC3A/B (D3U4C) XP® Rabbit mAb #12741を用いて染色し (A)、平均蛍光強度を定量しました (B)

LRRK2 G2019S変異はミトコンドリアの形態を変えない

ミトコンドリアの数と目視レベルでの形態がLRRK2 G2019S変異による影響を受けるかどうかを調べるために、健常な神経細胞とLRRK2 G2019S神経細胞上で、ミトコンドリアマーカータンパク質として広く使用されているCOX IV (Cytochrome c oxidase IV) の染色を行いました。その結果、図4に示すように、2つの細胞タイプの間に顕著な差は認められませんでした。

24-NDT-699365 ミトコンドリア形態 iPSC由来ニューロン

図4:iPSC由来神経細胞におけるミトコンドリアの形態を評価しました。 各iCell® DopaNeuronsをCOX IV (3E11) Rabbit mAb #4850 で染色し (A)、閾値を適用して (B)、ミトコンドリアの各パラメーターを定量しました。1神経細胞あたりのミトコンドリア数 (C)、1ミトコンドリアあたりの分岐数 (D)、1神経細胞あたりの分岐接合部数 (E) に変化はありませんでした。

PD研究の将来

PDの治療法は現時点で確立されていないため、研究者たちは、この蔓延する神経変性疾患の理解を促進するための高品質な抗体を必要としています。弊社は、PDの細胞内プロセスの評価に役立つ、オルガネラとCNSのマーカーに対するラビットおよびマウスのモノクローナル抗体の製品ラインナップを開発しました。これらの抗体は、弊社の厳格な検証プロセスに加え、市販のヒトiPSC由来ドーパミン作動性神経細胞を用いて検証されています。 

弊社のデータから、LRRK2 G2019S変異を有するPDドナー由来のドーパミン作動性神経細胞では、LC3の発現が増加し、LRRK2変異を修復した神経細胞では正常に戻ること、またLRRK2 G2019S変異はリソソームとミトコンドリアの数と目視レベルでの形態には影響しないことを示しています。

ポスターをダウンロード

弊社は、高い特異性と信頼性の高い性能を保証するために、検証戦略の組み合わせを調整しながら、PD研究を促進するためにさらなる抗体の開発を継続しています。

 

オルガネラと中枢神経系のマーカーのモノクローナル抗体

参考文献:

  1. Dorsey ER, Constantinescu R, Thompson JP, et al. Projected number of people with Parkinson disease in the most populous nations, 2005 through 2030. Neurology. 2007;68(5):384-386
  2. Madureira M, Connor-Robson N, Wade-Martins R. "LRRK2: Autophagy and Lysosomal Activity". Front Neurosci. 2020 May 25;14:498. doi: 10.3389/fnins.2020.00498. PMID: 32523507; PMCID: PMC7262160.
  3. Chaudhry A, Shi R, Luciani DS. A pipeline for multidimensional confocal analysis of mitochondrial morphology, function, and dynamics in pancreatic β-cells. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2020;318(2):E87-E101. doi:10.1152/ajpendo.00457.2019
  4. Stirling DR, Swain-Bowden MJ, Lucas AM, Carpenter AE, Cimini BA, Goodman A. CellProfiler 4: improvements in speed, utility and usability. BMC Bioinformatics. 2021;22(1):433. Published 2021 Sep 10. doi:10.1186/s12859-021-04344-9
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Sandra (Schrötter) Coveney博士
Sandra (Schrötter) Coveney, PhD
Sandra (Schrötter) Coveney博士は、10年以上にわたる分子および細胞神経生物学研究の経験を有するCSTのデベロップメントサイエンティストです。ハーバード大学在籍中は、ポスドク研究員としてCRISPR/Cas9技術を用いて結節性硬化症 (TSC) の理解を深める研究に従事していました。

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