CSTブログ: Lab Expectations

Cell Signaling Technology (CST) の公式ブログでは、実験中に起こると予測される事象や実験のヒント、コツ、情報などを紹介します。

World Cancer Day:世界各地への行動喚起

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多くの人が、その生涯において直接的、または間接的にがん診断による影響を受けています。UICC (国際対がん連合) が2000年に制定したWorld cancer dayは、がんのない未来のために世界的な意識を高め、教育を改善し、がん研究への投資を促進するため、毎年2月4日に開催されています。Cell Signaling Technologyは、信頼性が高く厳格に検証された試薬やキット、アプリケーションを提供することにより、世界各地のがん研究の前進を促し、また地域社会と連携して重要な奉仕活動や研究プログラムのための資金調達をしてWorld cancer dayに貢献していることを大変誇りに思います。

今年のWorld Cancer Dayは、収入や教育、地理的な条件、民族、ライフスタイルに関係なく、すべてのがん患者が質の高いケアを受けられるようにする、がん医療における格差是正に着目しています。命を救うことになるがん予防や診断、治療法の開発を支援するために、世界各地で何百ものイベントや募金活動が行われます。

がん治療の展望

2020年、世界でがんと診断された患者数は約1,800万人に上り、米国内だけでも180万人の新規患者と60万6,520人の死亡が報告されました。乳がんの診断が最も多く、世界で226万人の新規がん患者が報告されており、これに肺がん、結腸および直腸がん、前立腺がん、黒色腫 (メラノーマ) 以外の皮膚がん、胃がんが続きました。疾患へのより深い理解と、早期診断ツール、治療法の改善により、死亡率は数年かけて着実に低下しており、男性で2.3%、女性で1.9%となっています。しかし、すべてのがんの死亡率が低下しているわけではありません。膵臓がん黒色腫の死亡率は増加の一途をたどっています。

何がこの違いを生み出しているのでしょうか?予防および早期発見に関する教育が重要な役割を果たしていることは間違いありません。科学の飛躍的な進歩による、治療用の撮影技術の向上も寄与しています。しかし、がんはありとあらゆる臓器や組織に影響を与える疾患であり、発症と進行の機構は、がんの種類によって異なります。そのため、すべてのがんを撲滅するたった1つの「特効薬」を見つけることは大変困難です。さらに、がん細胞やがん微小環境 (TME) は変化し続けているため、時間の経過とともに特定の治療法に対する抵抗性が生じることがあります。したがって、臨床医はがん細胞を異なる方法で攻撃できるように、様々な治療法を必要としているのです。

幸いなことに、患者や賛同者、研究者、臨床医などのコミュニティが、がん生存率の向上に向けてWorld Cancer DayやCancer Moonshotなどのプログラムに継続的に取り組んでいます。Cancer Moonshotは、がんによる死者を2047年までに半減させて、がん患者とがんサバイバーのQOL (Quality Of Life) を改善するという目標のもとに活動を開始しました。また、アメリカ国立がん研究所 (NCI) は、2023年のConsolidated Appropriations Act (連結歳出法) から73億ドルが割り当てられ、 そのうち2億1,600万ドルが、NCIのCancer Moonshot計画に配分されています。

がん治療に免疫系を活用

この10年間、がん治療のあり方を根幹から変えるような、新たな治療法が相次いで確立されました。免疫療法は、患者自身の免疫系を利用してがんと戦います。T細胞は、腫瘍細胞を殺す能力をもちますが、がんの場合は免疫チェックポイント分子と呼ばれる抑制性の分子の発現上昇により、その活性が限定されています。現在、承認されているがん免疫療法の多くは、免疫チェックポイント分子であるPD-1およびCTLA-4の機能を阻害する抗体です。これらの治療法は非常に有効ですが、一部の患者にしか効果がありません1。そのため、さらなる免疫療法の標的の特定や、PD-1を標的とする治療法と他の治療法の併用を模索する継続的な努力が続けられています。

PD-L1を用いたヒト非小細胞肺がんのIHC解析

パラフィン包埋したヒト非小細胞肺がん組織をPD-L1 (E1L3N) #13684を用いて免疫組織化学染色し、解析しました。

CTLA-4を用いたヒトB細胞非ホジキンリンパ腫のIHC解析パラフィン包埋したヒトB細胞非ホジキンリンパ腫組織をCTLA-4 (E2V1Z) #53560を用いて免疫組織化学染色し、解析しました。

近年、米国食品医薬品局は黒色腫 (メラノーマ) の治療薬として、PD-1阻害剤であるNivolumabと併用する、LAG3を標的とした新たなT細胞免疫チェックポイント阻害剤 (Relatlimab) を承認しました。このNivolumabとRelatimabの併用は、NivolumabとCTLA-4阻害剤であるIpilimumabの併用と同等の効果がありますが、副作用が大幅に軽減されます2,3

LAG3を用いたヒト乳管がん組織のIHC解析パラフィン包埋したヒト乳管がん組織をLAG3 (D2G4O™) XP®#15372を用いて免疫組織化学染色し、解析しました。

空間生物学とシングルセル解析による免疫療法の拡大

研究者たちは、がん微小環境 (TME) における他の免疫細胞を標的とする方法にも注目しています4。チェックポイント阻害剤への抵抗性は、「非炎症性腫瘍 (cold tumor)」の微小環境により生じます。TMEに存在するすべての細胞タイプがどのように相互作用し、互いに影響し合うかをより深く理解することが、非炎症性腫瘍を「炎症性 (hot)」へと誘導する戦略につながります。しかしながら、腫瘍内だけではなくTMEも不均一な性質をもつため、悪性細胞とTMEの相互作用を解明することは困難です4,5空間生物学の確立およびシングルセル解析技術と組み合わせることにより、この複雑な生態系を解明することができます。

シングルセル解析は、腫瘍の中心部と周辺部に存在する悪性細胞の違いや、その違いが与える治療効果や抵抗性への影響、TMEから生じるシグナルが腫瘍の挙動に与える影響などの研究に役立ちます。腫瘍細胞は他の細胞から隔絶された状態で生存しているわけではありません。豊富で複雑なシグナルのネットワークが、腫瘍の挙動を調節しています。空間生物学は、腫瘍やTME内の異なる細胞が連携して疾患の進行の開始および促進する方法を解明し、治療効果を予測することができます。さらに抵抗性が生じる機構を解明する可能性を秘めています。これらの研究により、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、B細胞、好中球などの、他の免疫細胞を活用したがん免疫療法を開発することができます。抗腫瘍反応を促進する免疫細胞の組み合わせを活かした免疫療法のカクテルを用いることにより、免疫への抵抗性を克服し、患者に長期的な寛解をもたらすことができるかもしれません7

また、腫瘍細胞とTMEの相互作用がどのように疾患の進行に影響を与えるかを理解することにより、細胞死や老化、代謝リプログラミングを活用した、より効果的かつ特異的であり、毒性の低いがんの治療法を開発する新しい戦略にもつながるかもしれません。これらの研究は、老化や子宮頸がんのバイオマーカーであるp16 INK4Aなどの指標を用いることで促進されるでしょう。

p16 INK4Aを用いた、ヒト子宮頸部の扁平細胞がんのIHC解析パラフィン包埋したヒト子宮頸部扁平上皮がん組織をp16 INK4A (BC42) Mouse mAb #68410を用いて免疫組織化学染色し、解析しました。

T細胞療法とワクチンを組み合わせた固形がん治療

キメラ抗原受容体 (CAR) T細胞療法も、がん患者の免疫系を強化するアプローチとして注目されています。CAR-T療法では、患者自身のT細胞を、腫瘍細胞が発現している腫瘍抗原を認識するように本質的に再構築します。CAR-T細胞は主に血液がんの治療に用いられますが、他の治療法に反応しなかった患者に対し、非常に効果的かつ個別化されたアプローチであり、長期寛解をもたらします。しかしながら、患者に特異的なCAR-T細胞の開発と検証には莫大な費用がかかるため、これは最後の手段として用いられています。CARの発現を確認するためにCSTが開発した汎用性の高い検出試薬のパネルを利用するなど、検証の手順を効率化してプロセスを改善することにより、かかるコストを削減し、この治療法をより身近なものにできるかもしれません。

Claudin-6を用いた、ヒト卵巣漿液性乳頭状腺がん組織のIHC解析パラフィン包埋したヒト卵巣漿液性乳頭状腺がん組織をClaudin-6 (E7U2O) #18932を用いて免疫組織化学染色し、解析しました。

その他にも、治療に伴い生じる毒性や、TMEとの相互作用によるCAR-T細胞の機能の変化、腫瘍への限定的な浸潤、腫瘍抗原の低発現や不均一性による固形がんへの限定的な有効性などの課題があります7。しかし、新規の抗原を特定し、新しい戦略を開発することで、これらの課題を克服するための努力が継続的に続けられています。例えば、Claudin-6を標的とするCAR-T細胞を用いた臨床試験では有望な結果が得られています。Claudin-6は、卵巣がんや肉腫、精巣がん、子宮内膜がん、胃がんなどの固形がんに広く発現する、新たながん胎児性抗原です。副作用が管理しやすくなっただけでなく、Claudin-6を標的とするCAR-T細胞とCLDN6をコードするmRNAワクチン (CAR-T Cell Amplifying RNA Vaccine - CARVac) を併用することにより、CAR-T細胞の増殖が促進され、T細胞の持続性と浸潤が改善することが分かっています。

がんを予防し治療するワクチン

mRNA技術の活用により、ワクチン開発のスピードが加速し、上述したような免疫療法やCAR-Tの効率化にワクチンを用いるという新たな可能性が見出されています。現在、進行性の黒色腫、結腸直腸がん、非小細胞肺がんなどを対象とした、免疫療法/CAR-T療法の単独またはワクチンとの併用による有効性を評価する臨床試験が進められています8 。 

また、がんワクチンは特定のウイルス感染によるがんの発生のリスクを低減するために用いられます。ヒトパピローマウイルス (HPV) のワクチンと早期診断のための定期的な子宮頸がん検診を、世界中のあらゆる経済的地位にある若い女性が受けることができれば、子宮頸がんを撲滅することができるかもしれません。その他にも、がんになる可能性を高めるウイルスとしてエプスタイン・バー・ウイルス (バーキットリンパ腫、胃がん)、B型肝炎ウイルスおよびC型肝炎ウイルス (肝臓がん)、HIV (カポジ肉腫、子宮頸がん、非ホジキンリンパ腫の一部)、ヒトヘルペスウイルス8 (カポジ肉腫および原発性滲出液リンパ腫) などが挙げられます。

がん撲滅に向けてCSTができること

がんの進行を促す様々な細胞内イベントを解読する際に、時間がかかる、または最悪の場合、間違った結論に至る可能性がある低品質な試薬を用いることは避けねばなりません。CSTは20年以上にわたり、信頼性の高い高品質な抗体を提供し続けてきました。これは、実証されている事実です。CiteAb社は、CSTを幅広いがん標的に対する抗体の最高峰のプロバイダーであると評価しています。実際に、CSTは2022年に発表されたがん研究の論文に用いられた製品の中で、最も引用された抗体サプライヤーです。また弊社は、科学的な専門知識を駆使して、最新のがんバイオマーカーに対するIHC検証済み抗体や試薬の開発に取り組んでいます。

Signaling For A Cure (治癒のサイン)

さらに、弊社はがんによる影響を受けたCSTファミリーの地域社会やメンバーを支援しています。今年、CSTの従業員はアソシエイトサイエンティストJordan Hirschfieldの母であるLinda氏に触発されて「Signaling For A Cure」というチームを結成し、マサチューセッツ総合病院がんセンターが主催するEveryday Amazing 5K Walk/Raceに参加しました。このチームは、ステージ3の肺がんを克服し、寛解5年目を迎えたLinda氏を祝うために歩き、がん研究の支援とがん患者とその家族の明るい未来を作るために数千ドルの募金を集めることができました。

がんのブレークスルーを目指して 

がんは、生涯において大半の人が影響を受ける心身を衰弱させる疾患です。World Cancer Dayは、がん患者のQOLと生存率を向上させる科学の飛躍的進歩や地域社会への啓蒙活動、支援活動を支えています。CSTは、がんのない世界を目指すために活動していることを誇りに思っています。World Cancer Dayのウェブサイトをご覧になり、皆さんも是非参加してください!

 

参考文献

  1. Seliger B. Basis of PD1/PD-L1 TherapiesJ Clin Med. 2019;8(12):2168. 2019年12月8日公表. doi:10.3390/jcm8122168

  2. LAG-3 inhibitors: A new type of immunotherapy, https://www.mdanderson.org/cancerwise/lag-3-inhibitors--a-new-type-of-immunotherapy.h00-159544479.html
  3. Huo JL, Wang YT, Fu WJ, Lu N, Liu ZS. The promising immune checkpoint LAG-3 in cancer immunotherapy: from basic research to clinical application. Front Immunol. 2022;13:956090. Published 2022 Jul 26. doi:10.3389/fimmu.2022.956090
  4. Shi Y, Tomczak K, Li J, Ochieng JK, Lee Y, Haymaker C. Next-Generation Immunotherapies to Improve Anticancer ImmunityFront Pharmacol. 2021;11:566401. Published 2021 Jan 11. doi:10.3389/fphar.2020.566401
  5. Coulson A. How is spatial transcriptomics influencing cancer research and diagnostics?Biotechniques. 2022;73(5):215-217. doi:10.2144/btn-2022-0111
  6. Fu T, Dai LJ, Wu SY, et al. Spatial architecture of the immune microenvironment orchestrates tumor immunity and therapeutic responseJ Hematol Oncol. 2021;14(1):98. Published 2021 Jun 25. doi:10.1186/s13045-021-01103-4
  7. Sterner RC, Sterner RM. CAR-T cell therapy: current limitations and potential strategies. Blood Cancer J. 2021 Apr 6;11(4):69.
  8. MRNA medicines we are currently developing. Moderna. https://www.modernatx.com/research/product-pipeline. 

  9. Technologies for customized treatment approaches. BioNTech. https://www.biontech.com/int/en/home/pipeline-and-products/pipeline.html. 22-CAN-31278

Alexandra Foley
Alexandra Foley
Alexandraは、CSTのサイエンティフィックマーケティングライターであり、Lab Expectationのエディターです。

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