がん細胞は、未分化の幹細胞様の表現型を取り戻し、無制限な細胞分裂能力と代謝的適応性を獲得することにより、悪条件下での生存が可能になります。
これらの変化には、様々なシグナル伝達経路が関与しており、HippoとWntの2つの因子が無秩序な複製による不死化において重要な役割を担うことが分かっています。このがん細胞の特性には、様々な経路が関与します。以下では、次の2つの重要なシグナル伝達に着目します:Hippoシグナル伝達とWntシグナル伝達
Hippoシグナル伝達は、進化的に保存された経路であり、細胞増殖やアポトーシス、幹細胞の自己複製を制御することにより臓器の大きさを調節しています。また、Hippo経路の調節不全は、がんの発生に関与します。Hippo経路の重要な標的はこちら:
- YAPとTAZは、Hippoシグナル伝達を媒介する重要な分子です。転写のコアクチベーターであるYAPは複数のリン酸化部位を持ち、これらがリン酸化されることにより核から細胞質へ移行します。
- Hippo経路がオフ状態の際は、YAPはリン酸化されずに核内に移行し、細胞の増殖やアポトーシスに関与する遺伝子の発現を制御するTEADやYAP/TEAD複合体などの様々な転写因子と相互作用します。
Wnt/β-Cateninシグナル伝達経路も、進化的に保存された機構であり、がんの無制限な増殖に寄与します。この経路は、幹細胞の多能性や発生における細胞の運命決定を制御します。また、Wntシグナル伝達は、TAZなどのがんに関与する転写制御因子の核への蓄積を促進することが分かっています。主要な調節因子には以下のようなものがあります。
- β-Cateninは、Wntシグナルの重要なエフェクターです。胚発生初期や腫瘍形成という脊椎動物にとって重要な2つの生物学的プロセスに関与します。β-Cateninは、Wntシグナルに応答して核に移行します。
- LEF1とTCFは、Wntシグナル伝達応答エレメントに結合してβ-Cateninのドッキング部位を形成します。β-Cateninは、Wntシグナル伝達が活性化すると核に移行し、標的遺伝子の転写を促進します。
無秩序な複製による不死化に関与する経路やタンパク質についてもっと詳しく知りたい方は、こちらのリンクからパスウェイ図をご確認ください。
これらのがん研究に役立つeBook、The Researcher's Guide to the Hallmarks of Cancer もご覧ください。
がんの特性 (Hallmarks of cancer) はRobert Weinberg博士とDouglas Hanahan博士によって提唱され、Cell誌に発表されたものです1。彼らは、複雑ながんの性質を、より小さな特性に細分化して捉えることを提案しています。今回の記事では「無秩序な複製による不死化」と題し、がんの特性の1つに関連する内容を記載しました。本シリーズの他の記事では、今回触れなかった他の特性についても解説します。
詳細は「がんの特性」シリーズのブログをご覧ください。
参考文献
- Hanahan D, Weinberg RA (January 2000). "The Hallmarks of Cancer". Cell. 100 (1): 57–70. doi:10.1016/S0092-8674(00)81683-9
- Hanahan D, Weinberg RA (March 2011). "Hallmarks of Cancer: the next generation". Cell. 144 (5):646-74. doi: 10.1016/j.cell.2011.02.013.
18-CEL-47955