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がんの特性:炎症の促進

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がん細胞は、炎症機構を乗っ取り自身の増殖と生存を促進します。自然免疫系および適応免疫系による正常な炎症応答の間、免疫細胞は外来の侵入者を貪食したり破壊したりといったタスクを実行します。

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複雑な腫瘍の微小環境において、感染と闘う免疫細胞はがん細胞により抑制されます。その結果、抗腫瘍免疫細胞はがん化した細胞を破壊することなく、腫瘍の成長と転移を可能にする生存促進因子、遊走促進因子、抗検出因子を分泌する腫瘍促進免疫細胞により妨害されます。腫瘍の微小環境において免疫応答を仲介する重要な分子およびシグナル伝達のパスウェイとしては、NF-κB、インフラマソームシグナル伝達、腫瘍浸潤性免疫細胞マーカー、免疫チェックポイントシグナル伝達などがあります。

NF-κB

免疫細胞では、NF-κBシグナル伝達が遺伝子の転写を制御し、自然免疫および適応免疫、炎症、ストレス応答、B細胞の分化、サイトカイン/ケモカインの放出に影響を及ぼしています。刺激されていない細胞では、NF-κBは細胞質にてIκB阻害タンパク質と複合体を形成しています。細胞が活性化されるとIκBタンパク質はリン酸化され、ユビキチン-プロテアソーム系により急速に分解されます。IκBタンパク質が分解されると、それまで細胞質に留められていたNF-κBは核内に移行し遺伝子発現を制御するようになります。

がんの微小環境において、がんおよび免疫細胞におけるNF-κBシグナル伝達は腫瘍との境界にある細胞の上皮間葉転換 (EMT) と特に関係しており、腫瘍塊の剥離および移動を引き起こします。EMTは悪性腫瘍の古典的な特徴です。したがって、免疫浸潤細胞とがん細胞におけるNF-κBシグナル伝達間のクロストークは、フィードフォワードサイクルを形成して腫瘍の成長、浸潤、悪性化を促進する環境を確立します。

インフラマソームのシグナル伝達

自然免疫系は、病原性微生物および宿主に由来する細胞傷害のシグナルからの保護において最初の防衛線になります。これらの「危険」シグナルが炎症を引き起こす経路のひとつとして、細胞質において形成される多タンパク質複合体であるインフラマソームの活性化があります。このインフラマソームは、カスパーゼ-1の切断と、それに続く炎症誘発性サイトカイン IL-1β および IL-18の切断を促進します。最も解析の進んでいるインフラマソーム複合体は、NLRP3、アダプタータンパク質ASCのほか、多くのタンパク質からなるNLRP3複合体 です。

腫瘍浸潤マーカー

免疫系は自然免疫系および適応免疫系によりがん細胞を特定し排除しますが、このような抗腫瘍応答は、微小環境によって免疫抑制として知られるプロセスを介し阻害されることがあります。がん免疫療法の目的は、免疫抑制および免疫刺激の両方のメカニズムを操作して抗がん免疫応答を高めることです。したがって、腫瘍浸潤性免疫細胞について、腫瘍の成長と抑制におけるそれらの役割を理解することが重要です。

腫瘍浸潤性免疫細胞は、骨髄細胞系あるいはリンパ系細胞系のいずれかに由来します。腫瘍微小環境における免疫細胞の数とサブタイプは予後と相関します。さらに、これら2つの起源について注意深く解析することは、患者に適した免疫療法戦略の開発につながる可能性があります。

いったん腫瘍が形成されると、抗原の消失、主要組織適合遺伝子複合体のダウンレギュレーション、内因性の抗原提示経路の変更、サイトカイン分泌を介した免疫抑制など、様々なメカニズムを通じて免疫検出が回避されます。免疫系による検出を回避する能力に加えて、腫瘍は免疫細胞を乗っ取って自己成長と転移を促進することもできます。一般に、腫瘍による免疫の抑制と破壊は段階的に起こります。

免疫チェックポイント

免疫チェックポイントとは、自己寛容を維持し生理学的な免疫応答による副次的な損傷を回避するのを補助する、免疫系に組み込まれた制御メカニズムを指します。研究により、腫瘍は免疫系による監視および攻撃を回避するため、特定の免疫チェックポイントのパスウェイを制御することにより微小環境を操作することが分かっています3

T細胞は主要なエフェクター免疫細胞であるため、LAG-3 (lymphocyte-activation gene 3)、PD-1 (programmed cell death protein 1)、CTLA-4 (cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4) など、その応答を制御する複数の自己阻害性細胞表面受容体を発現します。腫瘍微小環境において、腫瘍細胞はこれらの受容体に対するリガンドをアップレギュレーションし、腫瘍耐性を強化し免疫系による根絶を回避しています。

近年、免疫チェックポイント療法として知られるこれらのリガンド-受容体相互作用の薬理学的なモジュレーターは、がん治療のための新規の免疫療法剤として研究および配備されています。特に、PD-1とCTLA-4に対するモノクローナル抗体に注目が集まっています。それらの免疫チェックポイント療法により抗腫瘍免疫応答が活性化されたという初期の成功を考えると、他の共抑制受容体および共刺激受容体とそのリガンドを標的とする免疫療法の開発は、説得力をもつ治療戦略と言えます。

腫瘍炎症を促進する腫瘍に関与するパスウェイやタンパク質についてもっと詳しく知りたい方は、こちらのリンクからパスウェイ図をご確認ください。

がんの特性研究の標的に関する、完全なガイドをご覧ください。ダウンロードはこちら

がんの特性 (Hallmarks of cancer) はRobert Weinberg博士とDouglas Hanahan博士によって提唱され、Cell誌に発表されたものです。彼らは、複雑ながんの性質を、より小さな特性に細分化して捉えることを提案しています。今回の記事では「炎症を促進する腫瘍」と題し、がんの特性の1つに関連する内容を記載しました。本シリーズの他の記事では、今回触れなかった他の特性についても解説します。

詳細は「がんの特性」シリーズのブログをご覧ください。

参考文献

  • Hanahan D, Weinberg RA (January 2000). "The Hallmarks of Cancer". Cell. 100 (1): 57–70. doi:10.1016/S0092-8674(00)81683-9
  • Hanahan D, Weinberg RA (March 2011). "Hallmarks of Cancer: the next generation". Cell. 144 (5):646-74. doi: 10.1016/j.cell.2011.02.013.
  • Sharma P, Allison JP. The future of immune checkpoint therapy.  2015;348(6230):56-61

 

Chris Sumner
Chris Sumner
Chris SumnerはLab Expectationsの主任編集者でした。疾患治療についての読み書きをしていないときは、森の中をハイキングしたり、ギターを弾いたり、世界で一番のロブスター・ロールを探したりしています。

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