がん細胞の主な特性の1つに、プログラムされた細胞死 (主にアポトーシス) を回避する能力があります。アポトーシスは、正常状態では組織の恒常性の維持と傷害を受けた細胞や不要な細胞の除去といった重要な役割を担います。しかし、がん細胞では、通常であれば死を誘導するはずのDNA損傷やがん遺伝子シグナルがあったとしても、アポトーシス機構の制御不全や不均衡により細胞の生存が可能となり、これが制御不能な細胞増殖へとつながります。
本ブログ記事では、アポトーシスを制御する主なタンパク質ファミリーや、がんの特性である細胞死への抵抗性を標的とする治療法の対象となりつつあるネクローシスやフェロトーシス、パイロトーシスなどの他の細胞死経路を紹介します。
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アポトーシスの概要 アポトーシスは、高度に制御された細胞死の1つであり、外的要因 (外因性経路) または内的ストレス (内因性、ミトコンドリア経路) により引き起こされます。どの要因により生じるかに関係なく、どちらのアポトーシス経路も、最終的にはプログラムされた細胞死の実行において重要な役割を果たすシステインプロテアーゼであるカスパーゼの活性化を誘導します。 |
がんの特性とは?がんの特性 (Hallmarks of Cancer)1-3 は、がん細胞が増殖および転移するために獲得する重要な特性をまとめた、がん研究の基盤となるものです。2000年に、Douglas Hanahan博士とRobert Weinberg博士により初めて提唱されたこの概念は、がんの根底にある機構を一連の小さなサブセットに細分化してがん研究を促進します。2011年に2つの新たな特性と2つのがんを促進する特性、さらに2022年に4つの新たな特性が追加されました。
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通常、外因性経路はCaspase-8の活性化から始まりますが、内因性経路はCaspase-9の活性化から始まります。
未処理 (-) またはStaurosporine #9953で処理 (+) したHCT 116 細胞およびCRISPR/Cas9でCaspase-8をノックアウトしたHCT 116細胞からの抽出物を、Cleaved Caspase-8 (Asp374) (E6H8S) Rabbit Monoclonal Antibody #98134 (上)、Caspase-8 (1C12) Mouse Monoclonal Antibody #9746 (中)、GAPDH (D16H11) Rabbit Monoclonal Antibody #5174 (下) を用いてウェスタンブロット (WB) で解析しました。Staurosporine処理は、Caspase-8の活性化を誘導してアポトーシスを引き起こします。
Fasリガンド (FasL) とその受容体であるFasの相互作用により誘導される外因性アポトーシスの制御不全が、腫瘍の免疫回避と転移を可能にする重要な役割を担うことは非常に重要な意味をもちます。本来なら、免疫監視を支える細胞死受容体に媒介されるシグナルを、がん細胞が回避できるようになるためです。
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アポトーシスの制御不全は、がんの発生に寄与します。関連するCST製品が確認できるアポトーシス経路制御のパスウェイ図をダウンロードしてご覧ください。 |
内因性と外因性のどちらの経路も、一度活性化すると実行型カスパーゼであるCaspase-3などのカスパーゼカスケードを誘発します。その結果、細胞を分解するPARP (poly ADP-ribose polymerase) やラミン、DFF45 (DNA fragmentation factor 45) などを含むいくつかのタンパク質が切断されます。
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未処理のHT-29細胞 (左) またはStaurosporine #9953処理したHT-29細胞 (右) を、Cleaved Caspase-3 (Asp175) (5A1E) Rabbit Monoclonal Antibody #9664 (緑) を用いて免疫蛍光染色 (IF) で解析しました。Staurosporine処理は、Caspase-3の活性化を誘導してアポトーシスを引き起こします。赤はアクチン、青はDNAの染色を示しています。 |
パラフィン包埋ヒト結腸がん組織をCleaved-PARP (Asp214) (E2T4K) Mouse Monoclonal Antibody #32563を用いてIHCで解析しました。
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がん細胞がアポトーシスを回避する方法
がん細胞は、タンパク質発現を変化させて細胞死シグナルを回避するため、通常であれば異常な細胞として除去される損傷やストレスを受けた細胞であっても生き残ることができます。これらの適応変化には、抗アポトーシスタンパク質の発現亢進、アポトーシス促進遺伝子の発現抑制、細胞死経路の活性化への干渉などがあります。
IAPタンパク質ファミリーの発現調節
IAP (Inhibitor of Apoptosis Protein) ファミリーは、カスパーゼを阻害してプログラムされた細胞死を抑制するアポトーシス阻害因子です。主なファミリーメンバーには、c-IAP1 (cellular inhibitor of apoptosis 1)、c-IAP2 (cellular inhibitor of apoptosis 2)、XIAP (X-linked inhibitor of apoptosis protein)、Survivin、Livinがあり、これらのタンパク質はBIR (Baculovirus inhibitor repeat) ドメインを介してカスパーゼに直接結合してアポトーシスを抑制します。
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未処理のHeLa細胞 (左) またはZ-VADとStaurosporine #9953で処理したHeLa細胞 (右) をSmac/Diablo (D5S3R) Rabbit Monoclonal Antibody #15108を用いてIFで解析しました。DRAQ5 #4084 (蛍光DNA色素) の染色は、青の擬似カラーで示しています。Z-VADは汎カスパーゼ阻害剤であり、Staurosporine処理によりミトコンドリアから放出されたSmac/Diabloの作用を阻害するなどしてアポトーシスを抑制します。 |
パラフィン包埋ヒト非小細胞肺がん組織をXIAP (D2Z8W) Rabbit Monoclonal Antibody #14334を用いてIHCで解析しました。XIAPは、アポトーシス阻害因子です。
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多くの腫瘍でIAPが過剰発現しており、これらの腫瘍はアポトーシスへの抵抗性を示します。また、アポトーシスの際にミトコンドリアから放出されるSmac/DiabloなどのIAPアンタゴニストは、IAP-カスパーゼ相互作用を阻害して細胞死を促進します。がんでは、NF-kBシグナル伝達などの生存促進経路により、IAPの発現が亢進されている場合もあります。
Bcl-2ファミリーを介したアポトーシス促進シグナルおよび抑制シグナルの阻害
細胞の内因性アポトーシスに対する感受性は、Bcl-2 (B-cell lymphoma 2) ファミリーのアポトーシス促進性メンバーおよびアポトーシス抑制性メンバーの発現レベルにより制御されています。中でも、Bcl-2、Bcl-xL、Bcl-w、Mcl-1、A1/Bfl-1は、アポトーシス促進性のファミリーメンバーであるBax、Bak、Bokに結合して阻害する、アポトーシス抑制性のファミリーメンバーです。BaxとBakは、阻害されない場合は二量体を形成し、ミトコンドリア外膜の透過化 (MOMP) とミトコンドリアからのcytochrome cやAIF (Apoptosis-inducing Facotr) などのアポトーシス誘導タンパク質の放出を引き起こします。細胞質に放出されたcytochrome cは、Apaf-1と結合してCaspase-9の活性化を誘導します。
パラフィン包埋ヒト肺がん組織をBcl-xL (54H6) Rabbit Monoclonal Antibody #2764を用いてIHCで解析しました。
がん細胞が示す細胞死への抵抗性は、アポトーシス抑制性タンパク質のBcl-2ファミリーメンバーの発現亢進の結果である場合が多々あります。例えば、濾胞性リンパ腫におけるBcl-2は、染色体転座により過剰発現している原がん遺伝子として同定されています。
BH3-onlyタンパク質:アポトーシスの門番
Bcl-2ファミリーによるアポトーシスの制御は、アポトーシス促進性タンパク質、アポトーシス抑制性タンパク質、そして「BH3-only」タンパク質と呼ばれる第3のグループ間に共通するBH3結合ドメインにより促進されます。Bid、Bim、Bad、BMF、Puma、Noxa、HrkなどのBH3-onlyタンパク質は、アポトーシス抑制性ファミリーメンバー (Bcl-2やBcl-xLなど) と相互作用してその機能を抑制、または直接的にアポトーシス促進ファミリーメンバーであるBaxやBakを活性化させてMOMPと細胞死を促進します。
細胞は、BH3-onlyタンパク質を制御するためにリン酸化や切断、翻訳調節などといった複数の機構を進化させました。これらの多くは、がん細胞が疾患を進行させるための標的となります。細胞によるBH3-onlyタンパク質制御の典型的な例に、カスパーゼによるBidの切断があります。この切断により、Bidは活性化して細胞死を誘導します。
パラフィン包埋ヒト結腸腺がん組織をBim (C34C5) Rabbit Monoclonal Antibody #2933を用いてLeica社のBOND RX染色装置で染色を行い、IHCで解析を行いました。Bimは、Bcl-2ファミリーメンバーのBH3-onlyサブグループに属するアポトーシス促進性タンパク質です。
他の例に、Aktが媒介するBadのリン酸化があります。これにより、アポトーシスの誘導が阻害されます。一方、細胞周期の停止やアポトーシスを制御する腫瘍抑制性の転写因子であるp53の欠損は、PumaとNoxaの転写を阻害するためアポトーシスが抑制されます。
現在の治療の方向性
がん細胞におけるアポトーシスの標的化
アポトーシスシグナル伝達を標的とする治療戦略は、がん治療に大きな進歩をもたらしてきました。現在の研究は、アポトーシスへの抵抗性を克服するために、IAPとBcl-2タンパク質ファミリーのそれぞれに含まれるドメイン間の相互作用の標的化に着目しています。例えば、Bcl-2阻害剤であるVenetoclaxは、Bcl-2遺伝子転座などによりBcl-2の発現レベルが上昇しているB細胞リンパ腫の治療薬として米国食品医薬品局により承認されています。IAPを阻害するSmacミメティクスは、Bcl-2やBcl-xL、Mcl-1などのアポトーシス抑制性タンパク質を阻害するBH3ミメティクスと同様に、多くの臨床試験で検証されています。より広域スペクトルを示すBH3ミメティクス (Bcl-2/Bcl-xL/Bcl-w阻害剤のNavitoclaxなど) や最新のMcl-1阻害剤も治療効果を示していますが、オンターゲット毒性を示すため臨床試験は限定されています。
未処理 (-) のU-118 MG細胞およびDetroit 562細胞、またはSMACミメティクスであるSM-164 #56003で処理 (100nM、6時間、+) したU-118 MG細胞およびDetroit 562細胞からの抽出物を、c-IAP1 (F7C3U) Rabbit Monoclonal Antibody #96099 (上) またはGAPDH (D16H11) Rabbit Monoclonal Antibody #5174 (下) を用いてWBで解析しました。SM-164は、c-IAP1発現を低下させるSMACミメティクスであり、腫瘍細胞が示すアポトーシスへの抵抗性を克服するのに役立つ可能性があります。
これらのアプローチは、現在も活発に研究されている領域であり、PROTAC設計の改良や従来の化学療法剤との併用療法などによる治療可能域 (Terapeutic window) の拡大に向けた取り組みが続けられています。
アポトーシスのその先へ:フェロトーシス経路、ネクロプトーシス経路、パイロトーシス経路の再活性化
最新の研究では、がんにおけるアポトーシス細胞死経路以外の探索も進められています。多くのがんタイプは、制御された細胞死を回避する機構を進化させているため、アポトーシス以外の細胞死を標的とする新たな治療戦略の確立が期待されています。特に重要視されているのは、フェロトーシスやネクロプロトーシス、パイロトーシスなどの制御されたネクローシス経路です。
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フェロトーシスやネクトプトーシス、パイロトーシス経路を含むネクローシス細胞死は、アポトーシスとは明らかに異なり、通常は壊死した細胞の膨張と破裂を誘導します。 関連するCST製品が確認できるネクローシス細胞死経路のパスウェイ図をダウンロードしてご覧ください。 |
重要なことに、これらのアポトーシス「ではない」経路は、がんの抑制および促進のどちらも行うことができます。これらの経路は、活性化することによりアポトーシスに抵抗性を示すがん細胞を別の方法で殺すことにより腫瘍の増殖を抑制しますが、がん微小環境における炎症や免疫応答に関連する場合は、状況によっては腫瘍の増殖、転移、免疫回避を促進する場合があります。
フェロトーシス
フェロトーシスは、細胞膜における脂質過酸化物の蓄積を特徴とする鉄依存性のプログラムされた細胞死であり、細胞膜の完全性の喪失および細胞死が誘導されます。この経路の中心的な調節因子である抗酸化酵素GPX4は、脂質過酸化物を無毒化しますが、その機能はグルタチオンに依存します。このグルタチオンの合成には、システインが不可欠であり、システインは xCT/SLC7A11トランスポーターによって細胞内に取り込まれたシスチンから供給されます。
正常状態では、腫瘍抑制因子p53はxCT/SLC7A11の発現を抑制しますが、多くのがんでみられるようにp53が変異または欠損すると、xCT/SLC7A11の発現が亢進されてシスチンの取り込みが増加します。これにより、GPX4の活性が維持され、フェロトーシスが抑制されます。治療の観点からすると、フェロトーシスは複数のシグナル伝達ノードで制御可能であり、その標的にはGPX4やxCT/SLC7A11、鉄代謝、細胞内抗酸化システム、ACSL4などの脂質代謝酵素が含まれます。

様々な細胞株からの抽出物をACSL4 (F6T3Z) Rabbit Monoclonal Antibody #38493 (上) またはGAPDH (D16H11) Rabbit Monoclonal Antibody #5174 (下) を用いてWBで解析しました。予想通り、MCF7細胞とT-47D細胞ではACSL4タンパク質の発現が低くなっています。
フェロトーシスの誘導は、腫瘍細胞を死滅させるのに有用である可能性があります。しかし、特定の状況下ではフェロトーシスによる細胞死が免疫抑制作用や腫瘍形成促進作用を示すことから、同時にフェロトーシス阻害剤の開発も必要とされています。つまり、この経路の活性化と阻害の両方に臨床的価値があると考えられています。
ネクロプトーシス
ネクロプトーシスは、細胞膜の破裂と細胞内容物の放出を伴う溶解性および炎症促進性のプログラムされた細胞死であり、免疫応答を誘導します。まず、TNFαなどの炎症性サイトカインに応答してRIPK1が受容体複合体にリクルートされます。Caspase-8を介したアポトーシスが阻害されている場合には、RIPK1のキナーゼ活性がRIPK3の活性化を促進し、RIPK3がMLKLをリン酸化してネクロプトーシスを誘導します。多くの腫瘍では、プロモーター部位のメチル化によるエピジェネティックなサイレンシングによりRIPK3が不活性化されており、その結果、ネクロプトーシスが抑制されます。現在、抗腫瘍免疫を強化するために、RIPK1および関連するシグナル伝達を調節する戦略を免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせて用いる実験的なアプローチが試されています。
未処理のL-929細胞 (左)、Z-VADの前処理後にSM-164とmTNF-αで処理したL-929細胞 (中央)、前述の処理後にλ-ホスファターゼ処理したL-929細胞 (右) をPhospho-MLKL (Ser345) (D6E3G) Rabbit Monoclonal Antibody #37333 (緑) を用いてIFで解析しました。赤は、Propidium Iodide (PI)/RNase Staining Solution #4087 (蛍光DNA色素) の染色を示しています。
パイロトーシス
パイロトーシスは、ガスダーミンに媒介される炎症促進性のプログラムされた細胞死です。この経路では、炎症性カスパーゼ (Caspase-1など) がGSDMD (Gasdermin D) の切断を誘導します。切断されたGSDMDは、細胞膜に穴をあけて細胞の膨張や溶解、炎症性サイトカインの放出を引き起こします。がんでは、GSDME (Gasdermin E) などのパイロトーシスに寄与する遺伝子がエピジェネティックにサイレンシングされていることが多々あり、細胞が炎症性細胞死を抑制する能力や免疫による検出を回避する能力を獲得しています。パイロトーシスを回復または制御する実験的戦略には、パイロトーシス関連カスパーゼを活性化する薬剤やガスダーミンの発現を上昇させる薬剤がありますが、経路の活性化または阻害が最大の治療効果をもたらす状況を見極めるにはさらなる研究が必要です。
TPA (12-O-Tetradecanoylphorbol-13-Acetate) #4174 処理 (50 ng/mL、一晩) で分化させた後、Lipopolysaccharides (LPS) #14011 で処理 (5 μg/mL、6時間) したTHP-1細胞の抽出物をGasdermin D (E9S1X) Rabbit Monoclonal Antibody #39754 (上)、Cleaved Gasdermin D (Asp275) (E7H9G) Rabbit Monoclonal Antibody #36425 (中央)、またはGAPDH (D16H11) Rabbit Monoclonal Antibody #5174 (下) を用いてWBで解析しました。
細胞死経路の再転換による腫瘍の克服
がん細胞がアポトーシスやネクロプトーシス、フェロトーシス、パイロトーシスを含む複数のプログラム細胞死を回避する能力は、腫瘍の進行と治療抵抗性の主な要因となります。これらの経路を標的とし、腫瘍の細胞死を促進する、またはがん微小環境における抗腫瘍免疫細胞の活性化をサポートするアプローチは、新たながん治療法となりうる大きな可能性を秘めています。制御された細胞死を回復または誘導するための低分子化合物やバイオ製剤、併用戦略の開発における進歩は、より効果的で持続性のあるがん治療へとつながります。
がんにおける細胞死経路研究用のSamplerキットとモノクローナル抗体
その他のリソース
- 内因性または外因性の細胞死に関与する主要なタンパク質とシグナル伝達イベントを紹介する、細胞死のメカニズム:アポトーシスのブログ記事もご覧ください。
- 「がんの特性」シリーズのその他のブログ記事もご覧ください。
参考文献:
- Hanahan D, Weinberg RA. Hallmarks of cancer: the next generation. Cell. 2011;144(5):646-674. doi:10.1016/j.cell.2011.02.013
- Elmore S. Apoptosis: a review of programmed cell death. Toxicol Pathol. 2007;35(4):495-516. doi:10.1080/01926230701320337
- Liu ZL, Chen HH, Zheng LL, Sun LP, Shi L. Angiogenic signaling pathways and anti-angiogenic therapy for cancer. Signal Transduct Target Ther. 2023;8(1):198. Published 2023 May 11. doi:10.1038/s41392-023-01460-1
- Liu X, Zhang J, Yi T, et al. Decoding tumor angiogenesis: pathways, mechanisms, and future directions in anti-cancer strategies. Biomark Res. 2025;13(1):62. Published 2025 Apr 18. doi:10.1186/s40364-025-00779-x





