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マイトファジーを理解する

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ミトコンドリアの健康は複雑で、ミトコンドリアのサイズや生合成、分解を決定する経路などによって慎重に制御されるプロセスです。ミトコンドリアのサイズは融合 (拡大) と分裂 (縮小) を伴う動的なプロセスです。機能の損なわれたミトコンドリアの排除は、通常は分裂を伴い、マイトファジーと呼ばれるオートファジーの選択的経路を介して起こります。オートファジーは、オートファゴソームに取り込まれた細胞質の内容物がリソソームで分解されて排除される、異化プロセスです。オートファジーは非選択的であると言われていますが、様々な細胞小器官や病原体、タンパク質を特異的に標的とすることもできます。

マイトファジーは選択的オートファジーの最も研究が進んでいる例であり、ミトコンドリアの脱分極や酸化ストレス、低酸素状態などの引き金に対応した、ミトコンドリアに局在する複数のカーゴ受容体が関与します。LIR (LC3-interacting region) をもつカーゴ受容体は、LC3ファミリーのメンバーと相互作用して標的をオートファゴソームを橋渡しし、その下流でリソソームによる分解を行います。最もよく研究されているマイトファジー経路は、ミトコンドリアの脱分極によって活性化されるPINK1/Parkin経路です。PINK1はミトコンドリアのセリン/スレオニンキナーゼで、移行してミトコンドリア内膜に取り込まれると、ペプチダーゼPARLによって切断されてプロテアソームによる分解の標的となり、通常は低レベルに保たれます。ミトコンドリアの膜電位を阻害してPINK1の移行が抑制されると、PINK1はミトコンドリア外膜で安定化してユビキチンのSer65をリン酸化し、またE3ユビキチンリガーゼParkinをリクルートしてリン酸化します。21-CAN-64700 social 1600x800 v.2

Parkinが活性化されると、複数のミトコンドリアタンパク質にユビキチン鎖が蓄積し、SQSTM1/p62OptineurinNDP52などのユビキチン結合カーゴ受容体にシグナルが伝達されます。また、自然免疫に関与するキナーゼであり、ミトコンドリアにリクルートされてマイトファジーを促進するTBK1によるカーゴ受容体のリン酸化もこのプロセスでは重要です。PINK1とは別に、BNIP3、BNIP3L/Nix、FUNDC1、BCL2L13、FKBP8などの複数のミトコンドリアカーゴ受容体が報告されています。低酸素状態におけるマイトファジーには、BNIP3、BNIP3L/Nix、FUNCD1が関与します。BNIP3とBNIP3L/Nixはともに、HIF1α によって転写が誘導され、オートファゴソームへのリクルートに必要なLIRドメインをもちます。BNIP3L/Nixは、ミトコンドリアが枯渇する網状赤血球の発生プロセスにおいても重要です。FUNDC1も低酸素状態で誘導されるマイトファジーに重要なカーゴ受容体で、オートファジーキナーゼULK1によって制御されています。これらや他のカーゴ受容体の間の相互作用への関心はますます高まっています。

 過度または不十分なマイトファジーは、神経変性、代謝性疾患、筋ジストロフィー、肝臓疾患、心血管疾患、がんなど、多くの病態の一因であると言われています。マイトファジーが欠損すると、損傷を受けたミトコンドリアが蓄積し、活性酸素種 (ROS) が蓄積して細胞死に至ります。恐らく最も分かりやすい例は、若年性パーキンソン病にみられるPINK1PARK2遺伝子 (Parkinをコードする) の変異です。これらの遺伝子変異は、この疾患でマイトファジーが欠損し、機能不全のミトコンドリアが蓄積することを示唆しています。

同様に、OPTN (Optineurinをコードする)、SQSTM1TBK1の変異が、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) などの神経変性疾患で、確認されています。その他、細胞死を伴う疾患で、不十分なマイトファジーによる機能不全のミトコンドリアの蓄積がみられますが、多くの場合、マイトファジーの直接的な役割は明らかにされていません。健康や疾患におけるマイトファジーの役割をさらに解明するために、このプロセスを研究するための様々なツールが開発されています。Mt-KeimaとMito-QCはpH感受性のミトコンドリア蛍光プローブで、in vivoモデルでマイトファジーのモニタリングに利用されていますが、病理検体の研究での有効性は限られています。また、ミトコンドリアやオートファゴソームに発現するタンパク質の共局在を免疫蛍光染色で調べることもできますが、これらは定量性に乏しい傾向があります。

制御されたマイトファジー経路の発見が、貴重なバイオマーカーやマイトファジーのモニタリング方法の発見に繋がります。特異的な抗体を用いることで、Optineurinのリン酸化の変化や、PINK1やその基質 (Ubiquitinなど) の変化を調べることができます。Phospho-Ubiquitin (Ser65) を検出するために開発されたELISAアッセイは高感度かつ特異的であることが示されており、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性にみられるマイトファジーの変化を測定することができます。これらのアッセイは、血漿サンプルでマイトファジーの違いを観察し得る感度を持つとされています。

Cell Signaling Technologyは、オートファジー研究者のニーズを満たし、治療法の開発を進めるための検証された抗体やキットを開発してきました。

Gary Kasof, PhD
Gary Kasof, PhD
Gary Kasof博士は抗体開発に携わるシニアリサーチフェローで、Cell Signaling Technologyに入社して17年になります。細胞死とオートファジーを中心に、複数の研究分野で1,000近くもの抗体のリリースに貢献してきました。CST入社前は、1995年にコロンビア大学で博士課程を修め、ラトガース大学とアストラゼネカでの勤務経験があります。

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